セクハラ
「・・・い、おい、貴様。目を覚ませ。」
ペチペチ、ペチペチ。・・・なんだ?誰だ、聞き覚えのあるような無いような声。
「むむ。貴様・・・。ううむ、かくなるうえは。」
「・・・っ!待て!!かくなるな!!!かくなるんじゃねえ!!」
危ない。もう少しで【なんとかかんとか】的に頭ふっとばされる所だった。
九死に一生を得たと胸を撫で下ろしつつ、周囲の状況確認。ここは・・・どうやら何処かの部屋の中のようだ。それ程広さは感じないが、まあ居心地的には悪くない造り。木の壁ってなんか新鮮だな。
「ほれ、さっさと着替えろ。そろそろ食事に行くぞ。」
着替えって・・・。そう言われて俺は、己の状況を改めて確認する。うん、特に何もおかしい所は無い。いつも通りの俺の裸だ。
「って、何で俺裸なんだよ!?誰だよ!お前か!?脱がしたの??」
「ん?ああ。Mサイズでも少し大きいようだな。もっと小さめの鎧となると、レザーアーマーにすれば良かったかもしれん。」
俺をひん剥いたであろう張本人はそ知らぬ顔でそう答えた。アーサ、俺はな?何で裸なんだよって聞いてんだけど。
「ああ、せっかく鎧を脱がすのだから、ついでにな。こういう大胆なセクハラもなかなか趣があるものだ。」
ニヤリと、まるで中年をこじらせたオッサンのようなゲスい笑みを浮かべながら、アーサは黒い瞳を爛々と輝かせている。こいつの良い所って、完全に顔だけだな。
「・・・俺の服取ってくれ。」
身支度を軽く整えた後に、俺はアーサに連れられて、建物の一階へと降りてきた。この建物は一階が酒場、二階三階が宿屋で、俺達は2階の2部屋を借りてるんだそうだ。
酒場には、3人ほど客がいた。木枠でできた窓から外を眺めると、オレンジ色の夕日が遠くの空に微かに見える。これから、夕食だの晩酌だのって時間なんだろう。カウンター奥の向こうの部屋では、体格の良さそうな髭面のオッサンが、忙しそうに作業をしていた。
「では、我等の輝かしい未来に乾杯しようではないか。」
さっきからアーサが妙なテンションだ。こいつの喜怒哀楽だけはマジで読めない。
「いや・・・お前、酒飲めないんじゃなかったっけ?」
「まあな。だが、今日くらいは良いだろう。何せ私の目的である、貴様を私の『目的』と成す事、その記念すべき第一歩たる日だからな。」
うーん、後半まったく意味わかんねえ。ただ、何度も繰り返し聞いてるうちに、うっすら察してきた感じはある。どうやらアーサは、俺を『目的』とやらにしたい?って事なんだろう。
アーサが店員の若い女に何やらアレコレ注文している最中、俺はふと、ある疑問を感じた。
こいつは、俺を『目的』とかいうものにする為に、俺をこの世界に召還した。でも、じゃあ何で最初からそう言わなかったんだ?森で俺を見つけてくれた時なんか、まるで偶然って感じだったよな、確か。
「なんだ・・・、そんなどうでも良い事を貴様は気にしているのか。」
店員が持ってきたワイングラスっぽいものに注がれた、多分ワイン的な感じの飲み物をチラチラ見ながら、アーサがつまらなさそうにそう言った。
「いや、俺は、お前にとって大事な目的?の為に呼び出されたんだろう?だったら、最初からそういう大事な事って伝えるもんじゃねーの?」
「それはまあ、あれだ。・・・嫌がられるかも知れないと、思ったのだ。」
「嫌がる?俺が?何で?」
この話をまだ続けるのか?とでも言いたげなジト目をむけてくるアーサだったが、俺もここは折れるわけにはいかない。だって、どう考えても意味わかんねえし。
「だから、貴様。それは・・・貴様、もしも行きなり異世界に呼び出されて、言う事を聞けと言われたら、どうだ?」
「ああ、まあ・・・そりゃ、『はあ?』ってなるな。」
「そ、そうだろう!だから私は考えたのだ。私は今にも行き倒れそうな哀れな貴様を『偶然』助けた優しく頼りがいのある超絶かわゆい禁術師として、それとなく貴様を我が『目的』と成らせるべくうまいことうまいこと導いて・・・。」
「ふざけんなよ・・・。お前、あり得ねえわ・・・。」
「なっ・・・なんだ!!貴様、この期に及んでまだそのような!」
あ、いかん。つい言い過ぎた。こいつは度が過ぎると簡単に俺を見捨てる可能性があるからな。
「いや、待て!ごめんなさい、すいません!あ、乾杯な?乾杯だろ?」
ほーらほら、と、俺は自分のワイン?を手に取り、差し出す。
「むむ・・・まあ、良い。では、我々の輝かしい未来に!!」
「輝かしい未来に・・。」
暗雲立ち込める未来って線も十分ありそうだなと心で思いつつ、そんな憂鬱さがなるべく表情に出ないように、俺はアーサと乾杯する。カチン、と乾いた音が鳴り、アーサは満足げにフフンとほくそ笑んだ。
「ん・・・コクッコクッ。ふう・・・。まあ、貴様も色々と思う所はあるだろうが、なに、悪いようには・・・。」
バターーーーン!!!と、いきなりアーサがぶっ倒れた。
何だ!?また何か起きたのか!?
「おっ・・・・おい!!おい、・・・おい!!何だ!!おいアーサ!!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・グゥ、ング。ZZZZZZZZ。」
あり得ねえ。こいつ、一口で潰れやがった。
近くにいた客向けてくる異様な物を見る視線に、不細工な愛想笑いを返しながら、俺は自分の酒を手に取り、ちろっと舐めた。・・・うん、多分ぶどう酒的なやつだ。
「ZZZZZZZ、ZZZZZZZZ・・・・。」
テーブルに顔面から突っ込み、そのまま寝ているから、俺からしたら黒いかたまりが寝てるように見える。
このまま起きないのなら、いい加減俺からセクハラ返しってのもアリなのかな?なんて命知らずな冗談が浮かんだ自分に自分で苦笑しながら、ワイン的な酒をちびちびとやる俺であった。
よくわからないままに書いてます。読んでくれている方がいたんだと最近判明。びっくりしました。ありがとうございますありがとうございます。