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ノーチート物語  作者: 555
転移
5/18

グレートジャガー

 アーサの転移魔法とやらで強制的に転移させられた俺は、気がつけば、だだっ広い荒野にぶっ倒れていた。

 リュックは傍らに置いてある。背負ったままだとリュックに押しつぶされてしまうから、アーサが気を利かせてくれたらしい。


「気分はどう?大丈夫なら、さっそく何か狩りましょうか。」


 ついさっきまで意識を失っていた人間にかける言葉として、これほど不適切なものは無いだろう。狩る・・・と言ったか?俺が?


「おい、俺の記憶が確かなら、どこかの城下町とか聞こえたような気がするんだが。」


 気を失う瞬間、つまりアーサの転移の術的な何かが発動した瞬間に、なんとか城下町~みたいに聞こえたような気がする。それってつまり、今回の転移先は、町っぽい所なんじゃないのか?


「そうよ。オーランド城下町っていうの。ほら、あっち。」


 そう言ってアーサが指差した先には、なるほど確かに人工的な壁のようなものが見える。その奥には、・・・あれが城か?あんまり城っぽくないような。ちょっと大き目の建物が、壁の上からはみ出て見えた。


「まあ、オーランド城は地方領主の城だからね。それでも、城下町にはギルドもあるし。あ、そうそう。私は飲まないけど、オーランドはお酒が有名らしいわよ?」


 残念ながら、俺もあまり酒は好きではない。若い頃には、年齢的に飲めるようになった事が嬉しくてよく飲んだが、あれもどっちかというと酒が美味しくて飲んでたんじゃないしな。酔っぱらうのが楽しかったっていうか・・・。


「いや、そんな事どうでもいい。町に来たんだろ?じゃあ、町に入ればいいんじゃないのか?」


 我ながら名案だ。そもそも、俺は異世界転移を食らって最初に飛ばされた森で、十分過ぎるほど辛い思いをした。もういいじゃないか。これから何があるかわからないが、ちょっとあれだろ。こんな荒野にいつまでもいるのも落ち着かないし。


 よく見たら、すぐ近くに町まで伸びているっぽい道らしき物もあるし。とはいっても、人がそこそこ歩けそうな程度に整地された、田舎道って感じ。俺達は、道から少し外れた所にいる。小石や小さな雑草や、腰までの高さの変な木がまばらにあるような、乾いた大地だ。


「アーサ、色々世話になっているし感謝もしてる。多少話が通じない所もあるけど、それはこの際我慢する。だから今回だけは譲ってくれ。まずはあの壁の向こうに行こう。それとな?色々聞きたい事も・・。」


「あ、やった♪来たわよ!グレートジャガー!うわ~ついてるわね♪」


 ザシュッザシュっという人間では無さそうな足音が背後から聞こえてくる。ちょうど、アーサの視線の先の方向だ。何を見つけたのか、今まで見た中でも飛び切りの笑顔のアーサ。黒髪が風に揺れて、本当に綺麗だ。


「うん、ほんと綺麗だよな・・・これでもう少し会話が成立したら、ほんと言う事無いのになあ。」


「え?私?んー、でも最近ちょっとね。なんとなくメイクに迷ってるの。あのね・・・。」


 俺のどうでもいい呟きに乗っかるように始まったアーサの化粧トークに待ったをかけるような叫び声が、辺り一面に響き渡る。




「グルアァァアアアア!!!!」




 そりゃそーだよな!グレートジャガーだろ!?接近してきたんだろ!?色々なんなんだよ!!


 バッと後ろを振り返ると、異様なほどに発達した2本の牙がよく目立つ、模様の無いトラみたいなやつが、のっそりとこちらに近づいてきていた。グルルル・・・と喉を鳴らし、わかりやすく敵意むき出しだ。


「くそっ!!何だよこれ何だよこれ!!どーすんだよ!!戦えねえよ!!」


 半狂乱でわめきつつ、俺は腰の剣をなんとか引き抜く。思ったよりも軽い。いや、重いのか?よくわからない。剣先がプルプルと震える。


「なあ、なあ!何で!?何でこいつを狩らなきゃならないんだよ!」


 必死にアーサに問いかけながら、目線はグレートジャガーとやらから離さない。少しでも目を逸らしたら、その瞬間に飛び掛ってくる。絶対飛び掛ってくる!


「え?だって今から貴方は冒険者になるんだから、実戦経験くらい積んでおかないとね。経験ゼロでギルドに行ったって、ナメられるだけよ?」


 なるほど。どうやら俺はこれから冒険者になるらしい。いや、いいんだ。百歩譲ってそれは、いい。元の世界に戻るアテも今の所は無いわけだし、だったら食ってく道を探さなきゃならない。


「でも、でもなっ!せめて先に説明くらいっ・・・!」


 ザッ・・!と、グレートジャガーが身構えた。思わず、俺の全身がビク!っとなる。


「グルァアアアアア・・・・!!」


 ちょっとづつ、ちょっとづつ、グレートジャガーが近づいてくる。俺は剣をプルプルさせて抵抗する。ちくしょう・・・もうダメだ。今度こそ終わりだ。この頭のイカれた黒女に、俺は騙された。


「くそっ・・・楽しいか!?・・グスッ・・・俺が食われる所、そんなに見たいのかよ!」


 目から鼻から色んな汁を垂れ流しながら、俺はアーサに恨みの言葉をぶつける。


「何言ってるの?実戦経験、そろそろ終わりでいい?もう十分でしょ。」


 何言ってるの?はこっちの台詞だ。終わりってアレか。いよいよ俺がグレートジャガーに食い殺されるって言いたいのか?




【爆ぜよ獣】



 

 アーサの声のような気もするが、何か違うような。聞く者の心を凍てつかせるような、暗く冷たい声。



 俺も、グレートジャガーも、その声にハッとアーサに目をやり、俺は立ちすくみ、グレートジャガーは、その頭を破裂させた。




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