プロローグ 『ハジマリ』
全身に何度も強い痛みを感じ、彼は自分が、階段から転げ落ちたのだと気付いた。
全身には力が入らず、手先、足先からは冷や汗が流れる。
歯を食いしばり首を無理矢理持ち上げる。ぼんやりとした視界には、自分が転げ落ちてきた、真っ赤に染まった階段が見えた。階段がこの様子である、もちろん、彼がうつ伏せに横たわっている床には、体が浸るほどの大きな血だまりができていた。どうやら、これが死の淵に立つということらしい。
そこまで理解が及ぶと、脈打つようにドクドクと絶え間なく流れ続ける血も、脳に強く訴えかけてくる痛みも、どこか他人事のように感じられた。
ただ彼はある一点を見つめた。それは、階上に立つ彼を殺した誰かではない。その足元に、見るも無残に転がっている、彼がこの世界で最も愛する少女の血に染まった白い手だった。
「お前を守りたかった….」
意識が遠のく中、彼はその手に必死に手を伸ばした。でも、もちろんその手を掴むことはかなわなかった。ただ、虚しく地に落ちた手は血飛沫をあげた。
「ーーで待ってる。」
聞き慣れた心地よい声が聞こえた気がした。
次の瞬間に彼は命を落とした。
階段から落ちただけで、そんなに出血する⁉︎と思いますよね。それについては、後々出てくるので、少々お待ちを…