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ああ、赤ずきんちゃん。  作者: 極大級マイソン
真・最終章【シンデレラ(真)編】
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第7話「赤ずきんちゃんとかぐや姫」

 おとぎの国から海を渡って遠く離れた場所に、『和の国』という島国があります。その国の都には、かぐやというそれはそれは美しい女性が住んでいました。

 かぐやは、そのあまりの美貌故に大勢の男性から結婚を求められましたが、その全てを断ってきました。金持ちの男性、美形の男性、偉い男性、或いはその全てを兼ね備えた男性が相手でも、かぐやの心が揺れ動くことはありませんでした。

 かぐやは数々の男性に結婚を求められましたが、その度に彼女は不快な思いをしてきました。しかし、自分でも何故こんなに不快なのかがわかりませんでした。求婚した彼らは特別悪い人ではなく、むしろ紳士的な人の方が大勢いました。優しい人も、清らかな人も、一生涯自分を想ってくれるであろう人もいました。

 男性達に不手際はありません。しかし、かぐやはどうしても彼らの誰かとも結婚をしたくなかったのです。その理由が自分でも不明なまま、ただ月日だけが流れていきました。

 そんなある日のこと、突然かぐやの前に謎の女性が現れました。女性は、『シンデレラ』と名乗り、かぐやに天下一舞踏会に参加して欲しいとの旨を伝えました。半ば強引に連れて来られたかぐやでしたが、大会の優勝者はどんな願いでも叶えて貰えると聞き、かぐやはある願い事を思い浮かべました。


『理想の人と結婚したい。』


 かぐやもそろそろお年頃。結婚して両親を安心させたいという思いがありました。

 天下一舞踏会で優勝すれば、自分が理想とする人に出会えるかもしれない、そんな安直な理由で彼女は舞台の上に立ったのです。

 そして、かぐやの望みは意外な場面で叶いました。

 天下一舞踏会の第1回戦。大会最初の試合を観客席から眺めていたかぐやは、突然乱入してきた少女に心を奪われたのです。

 白玉のような綺麗な肌、金糸のような繊細な髪、吸い込まれそうな宝石の如き碧い瞳。

 まるで職人が丹精込めて作った人形のように完成された存在。かぐやはその少女を一目見た瞬間、心臓が大きく跳ねたのを確かに感じました。顔が熱くなり、呼吸が荒くなり、その少女のことしか見えなくなる……。

 間違いない、これは『恋』だ。

 かぐやは確信に満ちた表情で今のこの感情を断言します。

 その後、かぐやは逸る気持ちを抑えながら観客席を出て行きました。

 とにかくあの少女に会いたいという自分の意思に従うままに、かぐやは理想の想い人『赤ずきん』の後を追うのでした。




 *****




 大浴場を出た赤ずきん達は、赤ずきんが使っている客室へと来ていました。

 赤ずきんは、先の戦いでボロボロになったドレスを脱ぎ捨て、最初から着ていた元の服装に着替えました。頭にいつもの頭巾を被っていない事を除けば、これで元通りの赤ずきんです。


 白雪姫「やっぱり、いつもの赤ずきんさんが一番素敵だと思います!」

 赤ずきん「私の服をクリーニングしてくれたそうだけど、半日でよく洗えたわね。流石は都会の技術力」


 これで頭巾さえ返ってくれば最高なんだけど……、と思いつつ、赤ずきんは正面の席に座るマッチ売りの少女を眺めます。


 マッチ売り「……何だよ」

 赤ずきん「いえいえ、何でもないわよ」


 マッチ売りの少女はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らします。

 大浴場で偶然マッチ売りの少女を見かけた赤ずきんは、自分の客室に彼女を招きました。知らない中でもありませんでしたし、友達は一人でも多く作りたいと思ったが故の行動です。


 マッチ売り「よく顔を合わせようと思ったよな。オレ様が言うのも何だが、結構危ない目に遭わせたと思うんだがよ」

 赤ずきん「私は別に何とも思っていないし。それに、昨日の敵は今日の友とも言うわ。互いに拳を交じり合った仲だけども、私は貴女と仲良くなりたいの!」

 マッチ売り「別に拳は交じってねーだろう。わかってはいたが変な奴だなぁお前」


 マッチ売りの少女は呆れたように赤ずきんを見ます。


 白雪姫「それはそうと赤ずきんさん。大浴場で出会った方の事なんですが……」

 赤ずきん「うん、かぐやさんって人だよね。いきなり結婚してって言われた時はビックリしたわ」

 マッチ売り「全裸で女児に求婚とか、不審者極まる行動だったよな」


 三人は微妙な表情を浮かべます。

 かぐやは、この客室にはいませんでした。自分の試合がもうすぐとの事なので、プロポーズをした後に大浴場を去っていったのです。


 赤ずきん「あの発言は冗談だと考えて、かぐやさんは私と友達になりに会いにきてくれたのかしら?」

 マッチ売り「さあ、オレ様にはどーでもいい話だ」

 赤ずきん「もし私と友達になってくれるなら、寧ろ大歓迎ね。友達はたくさん欲しいし」

 白雪姫「い、いけません!! 赤ずきんさん、かぐやさんとは今後関わらないようにしてください!!」


 白雪姫は大声で赤ずきんに注意します。彼女の表情には困惑と焦り垣間見えました。


 赤ずきん「えーでも、悪い人には見えなかったわよ?」

 白雪姫「姿格好などアテにはなりません!! 初対面の相手に、けけけ結婚を申し込むなんて! ロクでもない人に違いありません!! きっとあれが、噂に聞く『ナンパ師』という方ですよ!!」

 赤ずきん「ナンパ師?」

 白雪姫「世の中には悪い人がたくさん居るんです!! なので絶対に知らない人に付いて行っていけません!! 良いですね!?」

 赤ずきん「は、はい。……白雪姫、なんか私のママみたいになってきたわね」


 赤ずきんは親友の険しい表情に少し尻込みします。


 マッチ売り「でもまた来るんだよなぁ、あのかぐやって人」

 赤ずきん「試合が終わり次第すぐ私の客室まで来るって言ってたわ」

 白雪姫「そろそろ、かぐやさんの試合が始まる時間です」

 マッチ売り「あいつの実力は知れないが、まだしばらくは戻ってこないだろうな」


 マッチ売りの少女がそのように話した直後、

 ガチャっと扉が開く音が聞こえました。




 かぐや「お待たせ!」

 三人『早ッ!?』




 三人の少女が驚いて見たその先には、長髪の黒髪で振袖を着た美女、かぐやが立っていました。

 かぐやは、ニコニコと笑みを浮かべながらソファーに座る三人の元へ歩み寄ります。


 かぐや「ああ、かわええ子達が三人もおるわあ! シンデレラってもんに連れられた時は、えらい面倒に巻き込まれたと思うたけど、こんな役得だとは夢にも思わんかったわ!」


 そう言ってかぐやは赤ずきんの隣へと腰掛けようとします。

 しかし、そこに白雪姫が割って入ってきました。


 かぐや「あら?」

 白雪姫「ここは私の席です。かぐやさんは向こうの席をどうぞ」

 かぐや「んー、いけずなお人やわあ」


 仕方なくかぐやは、マッチ売りの少女が座っている向かい側のソファーに腰掛けます。


 マッチ売り「……もう試合終わらせたのか?」

 かぐや「ん、急いどったからな。思ったより楽勝やったわ」

 マッチ売り(やはりそれ相応の実力者、なのか? 華奢な体躯に細い腕……オレ様みたいに魔法を使うのか、或いは……)


 マッチ売りの少女は、かぐやを凝視しつつ思案をしますが、やがてどうでも良いかと結論付けて正面に向き直りました。

 一方、かぐやは対面する赤ずきんをじぃーっと凝視していました。その瞳は熱を帯びており、見られている赤ずきんは戸惑った様子で身を捩ります。


 赤ずきん「な、なに?」

 かぐや「はぁぁぁぁっ近くで見ると一層かわええなあ! うちに持って帰れたいくらいやわあ!」

 白雪姫「…………」

 かぐや「おっと」


 白雪姫の鋭い眼差しに気付いたかぐやは、コホンと咳払いをしてから背筋を伸ばします。


 かぐや「まあまあ、さっきはうちも急いどったし改めて自己紹介させてもらうな。うちは『和の国』の(みやこ)から来たかぐやって言います。ただいま素敵なお婿さん募集中」

 赤ずきん「はあ」

 かぐや「自慢や無いけど、うちは昔から国では男に困らんくらいモテモテでなあ、もうひっきりなしに求婚されてたんやけどいっこも良い人が見つからへんねん。そういう訳で、うちはこの大会で優勝して理想の人と巡り逢おうと思っとったんよ」


 理想の人。

 自分が結婚したいと思う相手。

 かぐやにとって、それは陽炎のように不確かな存在でした。それでも彼女は毎日のように来る男性達を吟味し、軽い頭痛を覚えながらも理想の人を探しました。

 しかし皮肉なことに、かぐやがあれだけ焦がれていた相手は、先日から初めて訪れた他国の地で出会いました。

 しかも、その相手とは『女の子』だったのです!


 かぐや「うちはこれまでに、たっくさんの男と見合いをしてきた。でもどの相手ともピンとこーへんかった。今までは、何でピンとこんのかわからんかったけど……今なら言える」


 かぐやは、非常に澄んだ瞳で言います。


 かぐや「……男ってかなーり『キモい』やん?」

 赤ずきん「キモいって……言い過ぎじゃあ」

 かぐや「いーや男はキモい! だってどいつもこいつも……何であんな骨太なん? 何であんな体臭濃いん? やっぱりベストは女児に限るわ。綿あめみたいに柔らかくて、舌で舐めると甘く溶けて……」

 赤ずきん「あ、この人……狩人さんと同じ匂いがするわ」

 かぐや「そんな時、観客席からあんさんのことを見て確信したわ! ああこの人こそ、うちの運命の人……理想のお方なんやって!」

 赤ずきん「いやいやいや! 運命の人って、私女子なんだけど!?」

 かぐや「恋に性別なんて関係あらへん!!」


 かぐやの真剣な眼差しに、赤ずきんは「うっ」と怯みます。

 そんな彼女達のやり取りに、黙っていない人物がいました。


 白雪姫「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり結婚とか運命の人とか、そんな事突然言われても困ります!!」

 かぐや「んん〜? ……そこのお嬢はん、あんたは赤ずきんはんの何なん?」

 白雪姫「ゆ、友人です」

 かぐや「せやなら、悪いけど口出しせんといてや。うちら、二人で将来のこと考えなあかんねん」

 白雪姫「将来のことぉぉぉ〜〜っ!?」


 白雪姫が素っ頓狂な声を上げます。

 その間、赤ずきんが何をいったら良いものかとあたふたしてました。


 赤ずきん「えっと、あの〜……」

 かぐや「ああそうやった。うちと赤ずきんはん、二回戦で当たる事になっとったから伝えとくわー。優勝賞品はもうどうでもええけど、うちが勝ったら二人で『デート』してもらうからそのつもりでなー!」

 赤ずきん「ええ!? 聞いてないんだけど!?」

 かぐや「約束やでー! ほな赤ずきんはん、また!」


 赤ずきんのそう言って、かぐやは客室を出て行ってしまいました。


 白雪姫「ぐぬぬぬ……!」


 二人のやり取りを見て、白雪姫はらしくもない悔しそうな表情で声を漏らします。

 赤ずきんは、そんな友人に対して声を掛けようとしますが、何かを口にする前に白雪姫が赤ずきんの方を振り向きました。


 赤ずきん「あ、白雪姫?」

 白雪姫「赤ずきんはん!! 次の試合、絶対に勝ってくださいね!! 約束ですよ!?」

 赤ずきん「は、はい……」

 マッチ売り(……なんか面倒臭い事になってるなぁ。オレ様にはどうでも良いけど)


 ……それから時間が経ち、天下一舞踏会の全ての一回戦の試合が終了したという知らせが赤ずきん達に届きました。

 次の試合は、赤ずきんVSかぐや。果たして、赤ずきんはこの戦いに見事勝利することが出来るのでしょうか!?

 次回、第8話「赤ずきんちゃんとスペース合気道」。ご期待ください。

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