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ああ、赤ずきんちゃん。  作者: 極大級マイソン
真・最終章【シンデレラ(真)編】
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第3話「赤ずきんちゃんクライシス」

前回、遂に乙女たちの晴れ舞台『天下一舞踏会』が開催されました。

しかし、肝心の赤ずきんは世界を手にするためまさかの遅刻。赤い頭巾をかぶっているというそれだけの理由で赤ずきんと思われている全く関係のない少女が、体長10メートルの恐竜と戦わなければならないとテンヤワンヤ。

そして、赤ずきんに勘違いされた哀れな少女が、現在どうしてるかと言うと……。




赤ずきん?「助けてー! 誰か助けてぇぇぇ!!」

ティラ乃「ギャオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」




巨大な怪物に追われ、懸命に逃げていました。


キリギリス『これはどういう事でしょう!? 赤ずきん選手、全く攻撃の気配を見せず、舞台の上を逃げ回るばかりです!! これは戦意喪失かァァ〜〜??』


スピーカーから、キリギリスの大音量の声が響き渡ります。彼が実況しているように、舞台ではまるで、怪物が女の子を甚振っているようにしか見えないため、観客席からも様子がおかしいことに疑問の声が出始めていました。

しかしこの中で1人、【アリ】だけは、この状況に疑問を抱くこともなく、むしろ不敵な笑みを見せて傍観していました。


キリギリス『ややっ!? アリくん、その顔は何かに気づいたみたいですね!!』

アリ『……いや、大したことではありません。ただ、これを戦意喪失と判断するには少し早計だと思われますね』

キリギリス『と、言いますと!?』

アリ『あれは恐らく、赤ずきん選手の作戦の1つ。敢えて情けなく逃げ回って油断を誘いつつ、時間を稼いで情報を集めているんですよ。その証拠に、赤ずきん選手は逃げながらもときどき後ろを振り返って、ティラ乃選手の動向を観察しています』


オォーーーーーーーーーー!!


キリギリス『なるほど!! 作戦の一環だったわけですか!!』

赤ずきん?「違いますぅ! 私はそんなこと全然考えてないですから!」

アリ『この資料によると、赤ずきん選手の赤い頭巾は、自分が狩った森の動物たちの血液で染めて作られた物のようです。見た目の幼さに騙されてはいけませんよ』

キリギリス『何と恐ろしい!! ですが、故にこそ彼女の実力が知れるというもの!! これからの展開が期待されますねぇ!!』

赤ずきん?「恐ろしいのは今この状況ですぅ! だ、だめ……。もう、足が……」


『赤い頭巾をかぶった少女』は、疲れ果てた様子で前のめりにその場で倒れます。

ティラ乃は、その瞬間に追撃することはせず、少女のすぐ側で急停止しました。

倒れる少女をじっと眺めながら、ティラ乃は申し訳なさそうな顔をしています。


ティラ乃「ごめんなさい。降参してくれれば、これ以上怖い思いをさせないから」

赤ずきん?「ぅぅ、何で私がこんな目にぃ……、びぇぇーーん!」


『赤い頭巾をかぶった少女』から、大粒の涙が流れ出します。

泣き出す少女を相手に、ティラ乃はあたふたと慌てています。


ティラ乃「え、えっと、もう終わりで良いのではないでしょうか!? この子も泣いていますし、私も何だか心苦しくて……」

キリギリス『確かに、ハタから見たら公開処刑にしか見えませんからね。子供には見せられない感じになっていますが……。しかし、この場合どうなるんでしょう。審判さん』


キリギリスは、舞台の端で待機していた審判に話を促しました。


審判「天下一舞踏会は、①戦闘不能になる ②降参を宣言する ③試合放棄、の3つの内どちらかの条件で敗北となります。即ち、赤ずきん選手はまだ正式な敗北には……」

赤ずきん?「だから! そもそも私は赤ずきんじゃなくて! 私がこの試合に出る理由はないんですってぇ!!」


『赤い頭巾をかぶった少女』は、懸命に声を張り上げます。


キリギリス『どうしましょうアリくん。初っ端からこれでは盛り上がりに欠けます』


しかしキリギリスは、そんな彼女を他所に、難しい顔をしながら相方のアリと相談を始めました。どうやら彼は、目の前の泣いている少女より、大会の運営の方が気になるようです。

これぞ実況者の鑑。熱さを通り越してドライではないかと周囲からブーイングの嵐が飛び交えます。

一方で、アリは達観したように言います。


アリ『大丈夫。彼女たちならきっと大丈夫です。ここに集まった方々は皆、それ相応の実力と信念を持ってここに来たはずですから』

キリギリス『確かに。この大会は、革命的と言っても過言ではない規模で行われ、更に賞品もデカイですからね。【優勝者はどんな願いも叶えてもらえる】、という触れ込みで広告された天下一舞踏会! 賞品を目的に参加された出場者も少なくないはずです!』


キリギリスとアリは、呑気にそんなことを話していました。

そして舞台の上では沈黙が続いていました。少女は、床に突っ伏したまま膠着し、ティラ乃は、オロオロした様子で狼狽えています。


赤ずきん?「……………………」

ティラ乃「あの、こんな時に何と言ったら良いかわからないけれど。……降参、してくれませんか? 私は、どうしてもこの大会に優勝しなければならない。でも、勝つためとはいえ、貴女のような小さい女の子が無闇に傷付いて良い理由にはなりませんから」

赤ずきん?「…………ティラ乃さん」

ティラ乃「本物の赤ずきんさんには申し訳ないでしょうが、それで貴女が無理をする必要は無いんですよ?」


ティラ乃は、出来るだけ親しみを込めた表情で少女に笑いかけます。

赤くなった目元に溜まった涙を拭いながら、『赤い頭巾をかぶった少女』はすっと立ち上がり、ティラ乃に向き直りました。


赤ずきん?「……ティラ乃さん、優しいですぅ。私、もしかしたら誤解していたかもしれません。大きなカラダでちょっと怖いですけど、ティラ乃さんってとても良い恐竜なんですねぇ」


少女は感激して、そして思い出したように少女は、自らのポケットから何かを取り出そうとします。


赤ずきん?「こ、これ! 優しい恐竜さんに、プレゼントします! 私の宝物です!」


少女が取り出したのは、少女の両手にスッポリ入るくらいの大きさの小さな箱でした。

ティラ乃は、その箱を訝しんで観察し、少女は箱から一本の細い棒状の物を取り出しました。


ティラ乃「それは、何ですか? 私からだとよく見えなくて……」

赤ずきん?「ふふっ。これはね、とっても不思議なことが起こる魔法の道具なんですよ。ほらっ」


そう言って、少女は取り出したのは棒状の物を慣れた手つきで構え、その先端を箱の側面に当てて擦りました。

すると、棒の先端が発火します。






ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!

その瞬間、ティラ乃の全身が突如として爆発的な勢いで『炎上』しました。






「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!」


ティラ乃は、絶叫を上げて咆哮します。

彼女自身、何が起きたのか理解できなかったでしょう。訳のわからないままに全身を焼かれ、ありえない激痛が襲ってきたのです。


キリギリス『…………え?」

アリ『これは…………!』


実況解説の2人はもちろん、観客席の誰もが唖然とした表情でいました。誰1人として、ティラ乃が燃え上がった原因がわからなかったのです。

そしてティラ乃は、しばらく大きな声を上げて暴れていましたが、やがて糸が切れたように動かなくなり……。

ドシーーーンッ!! と、崩れるように倒れてしまいました。


『…………………………………………………………』


あまりの出来事に、誰もが口を閉じていました。

と、思っていると、どこからか笑い声が響いてきます。


赤ずきん?「く、くくく……」

キリギリス『あ、赤ずきん選手?』

赤ずきん?「くくく、フフフフ、アッハハハハハハハハ!! いやぁ〜チョロいもんだわお人好しの相手ってのはよぉ! ちょっと弱気なふりしてたら馬鹿みたいに油断しやがるぜぇ!!」


『赤い頭巾をかぶった少女』は、倒れ伏したティラ乃を嘲笑します。そこに先程までのか弱い少女の面影はなく、あるのは可憐な容姿に似合わない邪悪な笑みを浮かべた悪魔でした。


赤ずきん?「優勝者はどんな願いも叶えてもらえる……。それを知っていれば、最初から態度は違ってたっつーの! ククク、ここで優勝すればオレ様の野望が遂に……!」


少女は、見開いた目で舌なめずり。他人に恐怖を煽るその仕草が、まるで獲物を前にした肉食動物のような威圧さを発しているようでした。


キリギリス『えーっと、これはどういう状況でしょう?』

アリ『ふむ。ティラ乃選手は、この様子では試合の継続は不可能。戦闘不能で赤ずきん選手の勝利となりますね』

キリギリス『そういう的外れなボケは要らないよアリくん!!』


キリギリスとアリがやり取りをしている中、審判は冷静に舞台の様子を確認します。


審判「……しかし、確かにティラ乃選手は完全に意識を失い、戦闘不能になりました。よって、この試合! 1回戦を制したのは赤ずきん……」

??「ちょっと待ったーーーーーーーー!!」


その時です。

大広間の大扉が勢いよく音を立てて開かれ、外から2人の少女が現れました。


赤ずきん「と〜〜ちゃくっ!! ねえ、ギリギリセーフかしら? ギリギリセーフかしら?」


赤ずきんは、背中におんぶしていた白雪姫を降ろします。

大広間にいた皆は、2人の少女に注目しており、白雪姫は居心地が悪そうにしています。


白雪姫「うっ、でも何だかあまりよろしくない空気が流れていますよ。やはり、遅れ過ぎたんでしょうか……」

赤ずきん「ていう事は私、舞踏会に参加出来ないの?」


少女2人は、どうしたらいいものかと立ち往生しているようです。

埒があかないので、キリギリスは突然現れた彼女たちに話しかけようとしてみます。


キリギリス『えぇーっと、立て続けに混乱の連続ですが。取り敢えず貴女たちはどちら様でしょうか?』

赤ずきん「私は赤ずきん。この天下一舞踏会に参加しに来たわ!」

キリギリス『えぇ!? 嘘ですよ、だって貴女赤い頭巾なんて身に着けてないじゃないですか!』

赤ずきん「いつもは着けてるの! 今夜はこのドレス姿で参上したわ」


赤ずきんは華麗にターンを決めてスカートを翻します。


キリギリス『し、しかしここにいる彼女が赤ずきんだと、王子様とシンデレラ様の言質は既にあって……』

シンデレラ「あら、赤ずきんさん遅かったですね。ふふふ、てっきり寝坊でもしているのではないかと心配していました」

キリギリス『!?』


シンデレラが、赤ずきんを赤ずきんだと認識した瞬間、周りの空気は一変しました。


王子「あ、よくよく見ると確かにコッチが赤ずきんだ。何故今まで気が付かなかったのだろうか?」

キリギリス『王子様!?』

アリ『……というか、あの子が赤ずきん選手じゃないことくらい、ボクは最初から知っていたんですけどね』

キリギリス『アリくんまでっ!! てかなに、その突然の知ったかぶり!?』


相方の突然の裏切り。

最早この状況で、収拾をつけられる存在はキリギリスのみとなりました。


キリギリス『ぐ、ぐぐぐっ! 本物の赤ずきん選手は向こうで、こっちは偽物? けど、勝ったのはコッチだから……でも、偽物だから無効試合に。いや、それだと再試合になるが、ティラ乃選手はもう戦える状態ではない! つまり、この状況における最適解とは…………』


脳がおかしくなりそうな感覚に溺れそうになりながらも、しかしキリギリスはプロとして、この状況を上手くまとめる手段を模索していきます。

そんな最中、少女改め【偽物の赤ずきん】は【本物の赤ずきん】を見るや鼻をフンと鳴らしました。


??「……お前が本当の赤ずきんか。だが残念だったな! お前の席はオレ様が頂いてやった!! 本物の出る幕はないぜ!!」

赤ずきん「はっ! ま、まさか貴女は……今流行りの『オレ様系女子』ね!!」

白雪姫「赤ずきんさん。多分、そこはあまり関係ないと思います」

赤ずきん「私の席を奪ったですって? つまりこれは、どっちが本当の【赤ずきん】なのかを決める勝負!!」


赤ずきんのその言葉を聞いた瞬間、キリギリスの脳内に電流が走ります。


キリギリス『はっ! なるほど、その手があったか!』

アリ『お2人を戦わせて、真の勝利者を決める。赤ずきんと赤ずきんで、第1試合の《2回目》を開始するという訳ですね。わかります』

キリギリス『何だか紛らわしいが、この場を収めるにはこの手段しかない! 主催のシンデレラ様、第1試合2回目の許可をッ!!』


シンデレラは、王子様と顔を見合わせて、


シンデレラ「楽しそうなのでオーケーです」

王子「異論ない」

キリギリス『許可が出ましタァ!! それでは皆様、早速ですがここでスペシャルイベント!! 今大会に出場する本当の赤ずきん選手を決める戦い! 第1試合2回目改め、《第1.5試合》を始めていきたいと思います!! 初っ端も初っ端からトラブルの連続ですが、本当にどうなるんだこの大会はァァ!!』


キリギリスは、早くもヤケになって声を張り上げます。勢いのみで押し切っているのが丸わかりでした。


??「本当の赤ずきんを決める戦い? へへっ、いいねソレ!! もしオレ様が勝ったら、本当に名前を【赤ずきん】に改名しようかなぁ!!」

白雪姫「え゛?」

赤ずきん「おーなかなか粋なことを思いつくわね。じゃあ、もし私が負けたら、今度から自分のことを【森ぐらしのアカズッキン】って名乗ることにするわ」

白雪姫「アカズッキン!?」


白雪姫は、軽く悲鳴を上げそうになりました。


赤ずきん「冗談はさておき、要するに貴女が私の対戦相手って事ね! 思ったより小さい子だけど、勝負する以上絶対に負けないからね!」

??「小さいって、お前が言うか? へっ、まあいい。誰が相手だろうと、オレ様の優勝は揺るがねぇ!!」


傍目には幼子が2人。

しかし、この2人は只者ではない。そんな空気が大広間全体に流れていました。

そして、その感覚が嘘か真か。それは、あと数秒でわかる事でしょう。



キリギリス『それでは試合を……、と言いたいところですが貴女! 本当のお名前を教えてくれませんか? 赤ずきんが2人では紛らわしいので』

??「オレ様に名はねぇ。あの雪の日、1人で生きると決めたオレ様は、自分の名前を、そして過去を捨てた。だが、あえて名乗るとすれば……」



少女は、再び棒状の物を箱の側面に当て擦ります。先端から小さな火が点り、オレンジ色の光をボンヤリと発します。

その細い棒の正体は、『マッチ棒』。

そしてマッチに火が点った直後、舞台の中央から紅蓮の炎が高く高く昇りました。

炎の大きさは、マッチの火とは比べるまでもないものでした。しかし炎は、間違いなくマッチの着火の瞬間に、まるで魔法のように現れたのです。

マッチの火で、幻想のような炎を生み出す。

それが、彼女が秘める真の力でした。




マッチ売り「オレ様は【マッチ売りの少女】!! マッチに生き、マッチに生かされたオレ様は、この力と共に世界を支配してやる!!」




紅蓮の炎は、未だ周囲を紅く燃やしています。

圧倒的な温度を誇る熱の揺らめき。そんな力を発揮したマッチ売りの少女は、野望に満ちた瞳をギラギラと恐ろしく輝かせていました。



キリギリス『さあさあさあッ、気を取り直して行きましょう!! 波乱万丈の天下一舞踏会、【赤ずきんVSマッチ売りの少女】!! まさかの第1.5試合を開始しますっっ!!!!』

『YAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』



次回、第4話「赤ずきんちゃんと紅蓮使い」。ご期待ください。

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