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ああ、赤ずきんちゃん。  作者: 極大級マイソン
最終章【シンデレラ(仮)編】
44/52

最終話「赤ずきんちゃんと決戦の舞台」

 さてさて、時同じくしてここはおとぎの森。陽が真上に昇るような時間。

 赤ずきんと、赤ずきんを救出するために向かった一行とは別に。この森では、熾烈な争いが繰り広げられていました。

 ヘンゼルとグレーテル。

 おとぎの森で狩りをしながら生活をしているこの双子は、現在狩られる側に回っていました。

 というのも、2人は恐ろしい狼に追いかけれていて、四方八方逃げ場の無い絶体絶命の危機に瀕していたのです。

 何故、このような事態に直面したのかは割愛しますが、とにかく今の双子には逃げる手段も、助けとなる人の手もない状況にいます。

 このままでは、双子は凶暴な狼たちに蹂躙され、瞬く間に命を奪われてしまうでしょう。

 そんな訳で、彼らは、


 ヘンゼル「オラァ狼共! この子供狼がどうなっても良いのかぁ!?」

 子供狼「ままぁー!」

 お母さん狼「息子よ!」


 ……子供狼を人質にとって、九死に一生を得ていました。


 ジュウガミ「ぐぅぅ、卑怯だぞ! 今すぐ子供を解放しろー!」

 ヘンゼル「うるせークソ狼が! 子供の命が惜しければ言うことを聞くんだ!!」


 ヘンゼルは、子供狼の首元に刃を突き立てます。一見、どちらが悪者なのかわからないような構図ですが、ヘンゼルは真剣です。血走った眼で周りを囲んでいる狼たちを牽制しつつ、ヘンゼルは隣にいるグレーテルにそっと話しかけます。


 ヘンゼル(おい、どうしてこんな事になったんだ!? 何で俺らは、狼たちに追い回されている!)

 グレーテル(さっき彼奴らが言ってただろう。私らが昨日の晩、狼の里にある金目の物を根こそぎ奪ったから、取り返しに来たんだって。私が担いでいる袋の中身がソレだ)


 グレーテルは、自分が肩に担いでいる大きめの袋を指差します。


 ヘンゼル(真夜中に襲撃を受けて、もう何時間も逃げ回ってる! 眠気と疲れでそろそろ本格的に頭がおかしくなりそうだ!)


 こんな事なら昨日の夜に師匠と一緒に行動すれば良かったと、ヘンゼルは今更ながら昨日の自分を呪います。既に疲労困憊で立っているのがやっとの彼は、半ばヤケクソに声を張り上げます。


 ヘンゼル「狼共ッ!! 俺の要求はただ1つ。今すぐこの包囲を解いて、俺たちを森から逃がせ! そうしたら子供は解放してやるッ!!」

 ジュウガミ「何を偉そうに! 元はといえば、そっちから仕掛けてきたことだろうが!!」

 ヘンゼル「喧しい!! 宝は誰にも渡さねえ!! 俺たちはこの宝を町で売って悠々自適な暮らしを送るんだ!!」

 グレーテル「……完全にこっちが悪者側だな」

 ヘンゼル「のんびり俯瞰してないで、グレーテル何か手伝ってくれよ!」

 グレーテル「そう言われても、四方八方塞がれて逃げ道無し。この状況で助けを待つ以外にどうしろって言うんだ」


 グレーテルは達観したように周りを見渡します。まるで他人事のように呟く彼女ですが、全く他人事ではない上に命の危機です。

『達観』というより『投げやり』なのかもしれません。どうしようもない状況に、グレーテルは半ば運を天に任せています。

 一方で、狼側も子供を人質にとられ二の足を踏めない状態が続いていました。


 ジュウガミ「クソぅ……。もう少し、もう少しでロードが復活できるのに……ようやく全てが揃ったんだぞ? それをこんな餓鬼どもに奪われる訳には……」


 ジュウガミは、独り言をブツブツ呟いています。

 ヘンゼルとグレーテルには、彼が何を言っているのか理解できません。しかし、このお宝が向こうにとってとても大事であることはわかりました。

 だとすれば、最悪人質を無視して一斉に襲いかかってくるかもしれない。人質とお宝の天秤が思わぬ方に傾く可能性も考慮しなくてはならないと、2人は瞬時に判断しました。

 しかし、どうすればいいのか……。

 双子と狼たちの間に緊張が走ります。

 そして、


「た、大変だ! 森の外から怪物が攻めてきたぞ!!」


 突然、1匹の狼が慌てた声を上げながら仲間の方へ駆け寄って来ました。


 ジュウガミ「な、なにぃ!?」


 狼側に動揺が走ります。

 次の瞬間、森の奥から巨大な影がこちらに迫ってきました。その影は、猪のように一直線に進んできて、狼を轢きまくっています。

 その正体は、三本の首を携えた巨大な狼のような生き物。……変身したケルベロスの姿でした。


 ジュウガミ「な、何故あいつがここに!? 奴を含め、厄介どもは森の外へ出て言ったはずじゃあ!?」

 ヘンゼル「やったぁ! 子ブタくんがきてくれたぞ! 俺たち助かったんだ! わぁーい!」

 グレーテル「ヘンゼル落ち着け。まずあいつが本当に味方かわからないし、ここにいると巻き添えを食らうぞ」


 つい昨日、自分たちがケルベロスを人柱(豚柱?)にしたこと思い出しながら、グレーテルはヘンゼルを引きずり安全なところへ移動します。


 オオカミ「いやいや、ケルベロスくん。ここまで運んでくれたのは嬉しいけど、ぼくの同族たちが大変なことになってるからそろそろ止まってね」


 ギキィィィィィィィィィ!! と、ケルベロスは急停止し、巨大な彼の背の上からオオカミが降りてきました。


 オオカミ「ふぅ、思っていたより早く着いた。……狼が豚の背に乗って移動するってなかなか新鮮だったよ」

 グレーテル「オオカミ、帰ってきたんだな。赤ずきんは連れ戻せたのか?」

 オオカミ「いやぁ、それが……」


 と、その時です。オオカミ以外にもう1人、ケルベロスの背の上から降りてくる人物が現れました。


 グレーテル「先生」


 グレーテルは、降りてきたその人物に呼び掛けました。彼は、双子たちの師である狩人だったのです。

 しかし狩人は、どこか不機嫌な顔でいました。普段はあっけらかんとしている彼を知るものからしてみれば、それは軽い衝撃だったでしょう。


 グレーテル「……先生?」

 狩人「失敗した」

 グレーテル「え?」

 狩人「赤ずきんちゃんの救出に失敗した。向こうの戦力は、俺が想定を上回るものだった」


 グレーテルは目を丸くします。

 あの師が、どんな敵が相手でも敗北などあり得ないと思っていた狩人が、そこまで言うほどの相手がいたのかと、彼女は半ば信じられない顔で我が師を見ます。

 しかし確かに、彼らの周りには赤ずきんは居らず、それどころか白雪姫もいませんでした。グレーテルの表情に真剣さがあらわれます。


 グレーテル「もしかして、例の誘拐犯ですか? 先生を退けたっていう」

 狩人「いや、それとは別だ。あの騎士団ども、とんでもないものを戦力として用意しやがった。さすがに剣の無い状態でアレを相手にするのは困難だ。どうやら、俺は少々奴らを舐めすぎていたらしい」

 グレーテル「それは一体……」

 狩人「説明は後だ。俺はもう一度赤ずきんちゃんを救うため、武器を調達する。それと……」


 狩人は、一拍おいてから話を続けます。


 狩人「……赤ずきんちゃんの家族にも、このことを伝えようと思う。彼奴らなら、救出の際に戦力になるからな」

 グレーテル「赤ずきんの……家族?」


 と、その時です。

 狩人たちが現れた、反対側の森の奥から、2人の男女がやってきました。




「…………ねえ、貴方達。少し良いかしら?」




 ゾクッ!! と、言い様のない悪寒が彼らを包みます。それは物理的な寒さではなく、防衛本能による精神的なアラーム。肉体が危険信号を発しているという危機感からくる寒気でした。

 その悪寒の正体は、たった1人の女性によって起こった現象でした。

 彼女が纏っている『怒り』。それが無意識に、見えない形となって彼らを襲っていたのです。


「こらこら、落ち着いてよママ。みんな怯えているから、ね? 抑えて抑えて」


 そう言いながら、片割れの男性がドウドウと女性を宥めようとします。

 しかし彼女は、そんな言葉は聞こえていない様子で話を続けてきます。


「……そうね、聞きたいことは色々あるのよね。何で家が壊れているのかとか、何で新しい家が隣に建っているのかとか。でも、そんなことはどうでもいいのよね。それより……」


 女性は、手に持っていた2枚の封筒をかざします。

 それは、昨夜赤ずきんが両親と白雪姫宛に書いた手紙でした。


「うちの馬鹿娘がいなくなったのよ。どこにいるか知らないかしら?」




 *****




 おとぎの城、とある一室。

 紅色の火が燃えている暖炉の前で、凍えそうな身体を暖めている少年がいました。

 そう、『少年』。

 おとぎの城で、見習い使用人として働いていた彼。彼の表情は、まるで拗ねた子供のようにしかめっ面でした。怒っているような、悲しんでいるような、とにかく心中複雑な思いで身を丸くしています。

 そんな少年の元へと、『何者か』がそっと、部屋の扉を開けて入り込んできました。

『何者か』は、暖まる少年の背後に立ち、彼に問いかけます。


 ??「準備は整いましたか? もう間も無くで舞踏会が始まりますが……何故火に当たっているんですか? 今日は特に寒くはないような……」

 少年「これは気にするな。計画に影響は無い些事だ」


 まさか、冷凍保管庫の中で小一時間放置されていたとは言えず、少年はぶっきら棒にそう答えます。

『何者か』は、疑問そうに首を傾げてはいましたが、それから特に追求はする事はしませんでした。


 ??「……なら良いんですが。よろしく頼みますよ? 今回、貴方はワタシたちを指揮するリーダー。『おとぎの城征圧計画』の責任者なんですから、しっかりしていただかないと……」

 少年「うるせえ、言われなくてもわかっている」

 ??「はぁ……。まったく、貴方は仕事に関しては真面目ですが、そのすぐ苛立つ癖は直した方がよろしいかと。『感情を殺せ』とは言いませんが、仕事はクールに熟すべきです。単調に、それでいてスムーズに効率良く」

 少年「人間様は奴隷じゃねえんだ。それより、そっちはどうなってる」

 ??「舞踏会の準備は、全て滞りなく進みました。後は会場が開くのを待つだけです」

 少年「シンデレラは? 元はと言えば、舞踏会を開くなんて馬鹿げたことを言い出したのはあいつだぞ」

 ??「舞踏会の参加者に招待状を出し忘れたり、関係者と友好関係を結ぶことを失敗したりと細々としたことを除けば概ね問題ありません。まあ、最初から彼女には事務・雑用等を期待していませんでしたので、こちらでフォローしました」

 少年「あいつ本当に仕事できないからなぁ」


 2人は、疲れたようにため息をつきます。


 ??「舞踏会の前日になって招待状を出し忘れたとか、本当にやめて欲しいんですけどね。あの時は肝が冷えましたよ。シンデレラが転移の魔法を使えてよかった。それがなかったら死んでましたよ」

 少年「計画がな。……あの女、マジでぶっ殺してやろうかと思ったからな。本番では役に立ってもらわねえと困るぞ」

 ??「そこに関しては問題ないでしょう。一応あれで、実戦では優秀ですから」

 少年「戦闘能力なんて必要ねえよ。全部俺がやっちまうからな」

 ??「……そうですね。貴方の力を使えば、おとぎの城を陥落させることも容易い。だからこそ、今回のリーダーは貴方なのですから」

 少年「ふん。……ところで、シンデレラから興味深い話を聞いたぞ。おとぎの森の伝説の狼のことだ」

 ??「聞きましたよ。1000年前の狼が復活するとか」

 少年「その狼を戦力にしたらと提案された。良い駒になると言ってな」

 ??「それで、どうするつもりで?」

 少年「引き入れる」

 ??「……そうですか。まあ、貴方がそう言うのなら問題はないでしょう」


 それから2人は、暖炉の火をぼんやりと眺めながら今後の作戦の打ち合わせを軽く済ましていきます。

 季節外れの暖炉から、バチッと火の粉が飛び跳ねました。


 ??「……暑くないですか?」

 少年「別に」

 ??「そうですか。ワタシは正直暑いです。いくら普段のワタシは冬が苦手とはいえ、この時期の暖炉はさすがに……」

 少年「嫌なら出て行けよ。どのみちこれ以上話す事はない」

 ??「……わかりました。一応、ワタシは貴方の補佐という役割なので、何かあれば連絡ください」


 そう言って、『何者か』は部屋を出ようと扉の方へ向かいます。

 しかし、扉の目の前に来てから、『何者か』は振り向かずに少年に呟きます。


 ??「……最後に1つ。幼子に虐められたくらいで拗ねて、大事な計画を台無しにだけはしないでくださいね。『皇帝』は、貴方に期待しているんですから。では」


 そして退出していきました。

 少年は、チッと舌打ちをして暖炉から離れます。


 少年「いらねえお節介だ。ていうか知ってるんじゃねえかよ!」


 皇帝。

 それは、ここから遠く離れた『イソップ帝国』を統べる頂点であり、彼らが忠義を示すべき存在。

 偉大なる我が主人。少年は、そんな主人の言葉を思い出してました。


 少年「…………世界征服、か」


 世界征服。それ即ち、『世界』を『征服』すること。

 あまりに馬鹿げた妄想。しかし皇帝は、そしてその下僕たちは、その妄想を現実のものにするために動いていました。

 おとぎの国もそう。少年たちは、この国を支配するために来たのです。

 世界征服の、礎とするために。

 少年は、今一度自分自身に問いかけます。

 世界征服、その無茶苦茶な願望は叶うのか? と。


 少年「……肯定だ。何故なら、帝国には俺が、仲間が、そして何より皇帝がいる! これらを前にして、一体どんな国家が抵抗できるだろうか!? 否だ!」


 彼は、自分自身に喋ります。

 そう、ここにいるのはあくまで自分のみ。

 だからこそ、彼は『自分自身』に喋ろうとします。それが、自身の力を最大限に発揮する手段なのだから。

 これは、言うなれば『準備運動』。

 彼の力は空気となって肺に流れ込み、そして声となって口から発せられます。

 彼が言ったのは、口遊みさえする"いつもの台詞"。




『…………狼が出たぞ!』




 その瞬間、彼の周りに無数の影が出現しました。影はやがて形となり、具体的な形状となって顕現します。

 その正体は、『狼』。

 強靭な四肢に、剥き出しの鋭い牙、理性が飛んでしまっているかのような血走った赤い眼。

 1匹1匹が殺意を抱いていると言われても納得できる狂暴な生き物。まさに『悪』そのものが形となったようでした。

 これが彼の手駒たち。彼の力の一端でもありました。

 ふぅと軽く息を吐いて、そして彼はニヤリと笑います。



 少年「これは通過点だ! この国を踏み台に、帝国はさらなる発展を遂げる! さあ、偉大なる我が主人に勝利の美酒を捧げようか!」


 狼少年「……この俺、【狼少年】の手によってな!!」



 狼たちが遠吠えを上げます。

 人知れずおとぎの国に現れたイソップ帝国の脅威…………狼少年は、これからの出来事を待ち遠しく思いながら、静かにほくそ笑むのでした。




 *****




 一方その頃、赤ずきんはトランプタワーを作っていました。

 部屋の扉が開きます。

 ガチャリ。

 バラバラッ!!


 赤ずきん「私の世界新記録が!!?! ……って、なんだ白雪姫か」

 白雪姫「えっと……、もしかしてお邪魔しましたか?」

 赤ずきん「うぅん、全然大したことないわ。5デッキ分使ったトランプタワーが崩れただけだから。それで、どうしたの?」

 白雪姫「舞踏会の準備ができたそうです。会場に行きましょう」

 赤ずきん「おぉっ!」


 待ちに待った天下一舞踏会。

 混沌と陰謀が渦巻く例の大会は、もう間も無く開かれます。



 後編に続く!

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