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ああ、赤ずきんちゃん。  作者: 極大級マイソン
最終章【シンデレラ(仮)編】
43/52

第19話「赤ずきんちゃんの側で暗躍する影」

「あーはははははっ!! あーはははははっ!!」


 赤ずきん達がお茶を楽しんでいるそんな最中に、1人の女性が高笑いを上げていました。誰もいないから良いようなものの、ハタから見たら明らかに危ない人です。


 手鏡『あべしっ!』


 魔法の手鏡はお后のエルボーを喰らいました。


 手鏡『ゲホッゲホッ! え、ちょっと待って。ワタシ、まだ何にも言ってませんよね!?』

 お后『いや、どこかで私の悪口を言われたような気がしたから、腹いせに殴ったね」

 手鏡『理不尽!! 圧倒的に理不尽ですよお后様ぁ〜!!』


 そんな訳でお后と魔法の手鏡です。

 国王様の再婚相手で、白雪姫と王子様の義母に当たる彼女は、現在調理場の中央にいました。そう、ここは先ほどまで赤ずきんと白雪姫がいた調理場です。


 お后「それで、約束のブツはどこにあるんだい?」

 手鏡『ここに』


 と、魔法の手鏡がお后に差し出したのは1本の試験管。その中には液体が注がれていて、量に概算すると5mlほど。

 黄金色に輝くその液体は金粉でも混ざっているかのように煌びやかで、まるでそれ自体が宝物であるかのようでした。赤ずきんと白雪姫ならば、この液体に見覚えがあったでしょう。

 そう、これは『黄金のリンゴ』のジュース。2人が王子様に飲ませた不老不死になれるジュースです。


 お后「あーはははははっ!! 遂に黄金のリンゴが我が手中に! ここまでくるのに苦労したさね〜!」

 手鏡『まあ、実際に頑張ったのはワタシですけどね。お后様、手鏡のワタシに無理難題を押し付けるんですもの』


 お后と魔法の手鏡。彼女らがどうやって黄金のリンゴジュースを手に入れたのか。

 それは、遡ること数時間前。お后が、赤ずきんのいる客室の部屋に毒リンゴを用意して、それを王子様が食べてしまったことから始まりました。

 まさか王子様を殺害してしまうとは、と焦る彼女らでしたが、その後赤ずきんが目を覚まし、黄金のリンゴが登場したことで事態は好転。王子様を復活させるため動く赤ずきん達を、魔法の手鏡の力で監視し続けていたお后は、大胆かつ困難な計画を魔法の手鏡に託します。

 そう、不老不死の果実。黄金のリンゴの奪還です。




 *****




 1時間程前。


 お后「手鏡。赤ずきんと白雪姫の目を掻い潜り、黄金のリンゴジュースを奪うんだよ!」

 手鏡『いやいやいや。ワタシ、手鏡なんですけど? 持ち手の部分で歩行しろって言うんですか!?』

 お后「そうそう。こう、一昔前に流行ったホッピングジャンプのようにぴょんぴょんと……」

 手鏡『難関!? そもそも手が無いんですから奪うもクソも無いんですって!!』

 お后「喧しい!! つべこべ言わずやるんだよ!!」




 *****




 ……手短に説明すると、このようなやり取りがあったのでした。

 魔法の手鏡は小道具であるにも関わらずお后のわがままに応え、その小さな身体で調理場へ侵入したのです。


 手鏡『……で、なんだかんだ上手くいって少しだけ奪うことには成功したわけなんですが』

 お后「まあ、全部奪ったら王子が復活できなくなるから仕方がないね」


 お后は試験管のジュースを覗き込みます。

 少々とはいえ、これは紛れもなく不老不死のアイテム。命あるものならば喉から手が出るほど欲しい神的産物です。


 手鏡『それで、どうするんですかコレ? こんなちょぴっとしか獲れませんでしたけど、これ飲んだだけで不老不死になるんですかね?』

 お后「ハッ! これだから知性の足りない凡愚は思考回路がお粗末さね〜!」

 手鏡『……中身捨てますよ?』

 お后「確かに、これだけでは不老不死を得られるかは不確か。しかし……研究サンプルとしては十分な量さ! これを元に実験を重ねて、黄金のリンゴの秘密を丸裸にする! そうすれば黄金のリンゴの量産も可能に! 不老不死など、"八百屋へおつかい"と同様なレベルで簡単に手に入れることができるのさぁ!!」


 お后は高笑いを上げます。

 それにしてもこの光景、ハタから見たらお后が1人で喋っているようにしか見えませんね。完全にイかれています。


 手鏡『アイタイァァぃい!!』


 魔法の手鏡はお后にひっかき傷を付けられました。


 手鏡『やめて!! 謎の声でワタシが理不尽な目に合うのはやめてよ!!』

 お后「ふふふ、世の権力者は長命にはご執心だぁ〜。黄金のリンゴをちらつかせれば、物欲しそうな瞳でヒョイヒョイと群がってくるだろうさ。そうなれば、私は世界を統べる太いパイプを手に入れ、より世界上位の存在になれる! こんな貧乏臭い国のお后より、も〜っと良い暮らしを送る事だってね!!」

 手鏡『おー流石!! 流石ですねお后様!! 本当に流石ですからもうワタシを傷付けるのはやめてね!? 特に鏡面はダメ!! 取り返しがつかなくなるから!!』

 お后「そうさ! 私の出世街道はまだ始まったばかり!! まだまだ成り上がってみせるさねぇ、あーはははははっ!!」


 今日、ここまで。お后は自らの生を需実するため万進して来ました。その自己顕示欲は未だ衰えをみせず、故に彼女はこれからも上を目指し続けるでしょう。

 さあ、そうと決まれば善は急げ。

 早速、お后はジュースを持ち帰り調査を実行するつもりでした。舞踏会の開催までは時間があり、はやる気持ちを抑えきれない様子です。

 まるで新しいおもちゃを貰った子供のような表情。しかし実際は、さらなる権力を手に入れるために暗躍する悪党の笑みでした。

 そして、お后と魔法の手鏡が部屋へ戻ろうとする…………。


 その瞬間、微かな声が聞こえてきました。






『聞いたぞぉ〜〜…………』






 お后「…………ハァ! な、なんだい? 今の亡霊のような呻き声は!?」

 手鏡『うーん。どうやら食料庫の方から聞こえてきたみたいですね』

 お后「まさか……さっきの話を聞かれた?」


 だとしたら生かしては置けない。

 まだ、お后としての立場を捨てるわけにはいかない彼女は、その声の主の元へそっと近づいていきます。どうやらお后は、口封じを企んでいるようです。

 そして食料庫。お后は慎重に部屋の中を進みます。




『聞いたぞぉ〜〜…………』




 声が更に近くなってきます。

 どうやら声の主は、食料庫の冷凍保管庫にいるようです。保管庫は頑丈な扉で閉められており、開けるには傍に設置されているボタンを押さなければいけません。

 開けるのは容易い。しかしその前に……。


 お后「手鏡! 中の様子を調べるんだ!」

 手鏡『ハァーイ』


 魔法の手鏡の監視能力で、保管庫の中を鏡面に映し出します。

 以前、不用意にリンゴ園の小屋へ入った際、トンデモナイ場面に遭遇した経験があるお后は、慎重な行動に移します。(第2章第4話参照)

 そしてお后と魔法の手鏡は、保管庫の中でまたトンデモナイものを目撃しました。


 手鏡『なぁ!! これは…………氷漬けのミイラ!?』

 お后「いや違う。……これは人。人が生きたまま氷漬けにされてるねぇ」

 手鏡『ム、ムゴイ! なんて恐ろしい……! いかにも人間らしいやり方です!!』

 お后「全くだ。一体誰がこんな酷いことをしたのか……」



 少年『聞いたぞぉ〜〜…………』



 お后と魔法の手鏡は事情を知らないので、保管庫の彼が何者なのか知るよしもありませんでしたが、『聞いたぞぉ〜〜…………』と亡霊のように声を出しているのは、使用人の少年でした。彼は、半ば意識を失っている状態で、狂気に取り憑かれたように言葉を発しています。

 そこにどんな意味があるのか……、最早言葉を発している彼にも理解できていないのかもしれません。


 手鏡『で、どうします? この少年をこのまま放置していても大丈夫でしょうか?』

 お后「そうだね〜。多分、放置しておいてもそのうち勝手に死ぬだろうし、わざわざ私らが手を下すまでも……」

 少年『ここを開けないと、色んな人に喋るぞ〜〜…………』

 手鏡「色んな人に喋るそうですよ。ていうかワタシらの話、向こうに筒抜けみたいです』

 お后「仕方がない。用心して扉を開くよ」


 お后は、懐に忍ばせてあるナイフ・毒吹き矢等の暗殺道具を取り出し、保管庫の扉を開けるボタンを押しました。

 保管庫の扉は、音も無く開いていきます。

 そして、扉が開くと同時に現れたのは、霜で全身を真っ白にした齢15程度の少年でした。

 ドサっと、少年は床の上に倒れ込みます。

 状態を確認しようと、お后が少年の側へ歩み寄ります。


 お后「既に瀕死か……。ここで息の根を止めるのは容易そうだね。死体の処理は『掃除屋』に頼んで…………いや、白雪姫の件で城の警備が強化されている今、この場で殺すのは少し面倒かね」


 お后は今後の予定を瞬時に組み込んで、出来るだけ自分の痕跡を残さない処理の方法を模索します。

 彼女にとって、ひと1人を殺す事など朝飯前。慣れた事なのでしょう。予定外のトラブルでも、これもまた迅速に片付けの段取りを決めていきます。


 手鏡『それにしても、何でこの少年はこんな所に閉じ込められていたんでしょうね?』

 お后「知らんね。今の最優先事項は、黄金のリンゴ。こいつが何者なのかを調べるのは後回しさ」


 少年「……………………(ゴニョゴニョ)」


 手鏡『ん? お后様、こいつなんかゴニョゴニョ呟いてますよ』

 お后「今は忙しいんだ! 話が聞きたいならお前が聞いて、後で私に報告するんだ!」

 手鏡『ハイハイ』


 魔法の手鏡は、瀕死の少年の口元に近づき、彼の最後の言葉を聞きにいきます。


 手鏡『さあ、遺言をどうぞ名も知らぬ少年よ。このワタシがあなたの最後の言葉を聞いてあげま〜す。あ、命乞いは無駄なので。そこは御了承くださいね』

 少年「……………………、れ…………は……………………」

 手鏡『え、なんて?』

 少年「……………………お、れ……は……………………」

 手鏡『ダメだ、全然聞こえない。もう少し近くで聴いてみよう。もしもーし!』

 お后「あーもう! うるさいねぇ、何を騒いでる!」


 魔法の手鏡は、掠れた声で呟く少年の言葉を聞こうと更に近づきました。

 そして、ようやく手鏡は、少年が何を言っていたのかを聞き取ります。












 









 







 少年「………………俺は、最強だ」












 






 










 その瞬間、

 世界が急に暗転を始めました。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!


 お后「なぁ!?」

 手鏡『あわわわっ!!』


 突如吹き荒れる暴風に、お后と魔法の手鏡が仰け反りました。窓もない完全な密室であるにも関わらず訪れた肌寒い風の正体。それは、冷凍保管庫から発せられたものとは明らかに別種の、恐ろしいものであると彼女らは判断出来ました。

 極寒。恐怖。諦め。絶望。憎悪。怒り。悪意。

 そして……圧倒的な破壊衝動。

 それらがまるで風という形となって出現したと言わんばかりに、この部屋の空間をソレが支配しました。

 空間の中にいるお后と魔法の手鏡は、この風の根源である"彼"を見据えます。

 ……少年。

 おとぎの城の使用人であり、赤ずきんのお世話係でもあったその少年の周囲を取り囲むように、極寒の風は吹き荒れています。

 間違えようも無く、少年がこの風を生む根源であると物語っていました。


 少年「俺は………………」


 と、その時。

 力無く仁王立ちしている少年が、ポツリと呟きました。


 少年「……………………楽な仕事だと、思っていたんだ」

 お后「は?」


 意味がわからない。

 そんな表情でお后は少年の言葉の意味に疑問を浮かべました。

 そして少年は、独り言のように呟きを続けます。


 少年「いや、実際。仕事自体は単純だった……。この国に潜入して、いつも通り働いて、誰にも疑われることもなく順調に計画は進んでいった。デカい仕事の割りにあくせく動かなくて良い。危険は無い。見返りも良い。……そして、時間を掛けて働いた甲斐もあって、計画は一切の不安要素無しで最終段階へ。俺は矢面に出る必要もなく、手柄だけ掻っ攫って本部に報告ができるはずだった」


 なのに…………。と。

 少年は、絞り出すように声を発して。


 不意に、憤怒の表情で大声を上げました。








「何で、この局面で………………ッ!! あんな小娘にッッ!! この俺が苦しめられなきゃならんのだああああああああっっっ!!!! このクソッタレガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!! アアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!! アアアァァアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」







 ビキッ……!

 ビキビキッッ!!

 少年の絶叫は、まるでソレそのものが暴力であるかのように、一帯に流れ込んでいきます。

 破壊。怒り。怨み。復讐。

 今の彼は、それらの感情に支配されているとも言える状態でした。

 悪への変化。いや、最初から彼は"悪"だったのでしょう。

 何故ならその少年から宿る力の本流は、つい今しがた手に入れたものではない。

 ずっと、ずっと昔から持っていた能力である。

 そうお后は、僅かな時間の中で直感的に判断しました。


 お后「逃げるよ!!」

 手鏡『は……えっ?』


 未だ状況が掴めていない魔法の手鏡は呆然としています。しかし、そんなものに構っている余裕は、今のお后にはありませんでした。


 お后「あれは関わっちゃならない相手だ!! ヤバい……! 力の差があり過ぎる!! ここにとどまっていたら一瞬で殺されるよ!!」


 お后は問答無用で魔法の手鏡を掴み、この場を離れようとします。

 少年は、そんなお后の背を眺めながら、特に焦るわけでもなく立ち尽くしていました。

 そして、彼はまた独り言のように呟きます。


 少年「………………力を見られてしまったな。お后様、あんたは今夜のステージには不必要だ。ここで死んでも構わないよな? だからお前は…………、」


 少年は、両手をメガホンのような形に構えます。

 遠くのお后にもその声が聞こえるように、少年は先ほどよりずっと大きな声で言い放ちました。







 少年「…………お前は、この世界から消・え・ろ」







 少年の声が、お后の耳にも伝わったその瞬間。

 …………彼女の周囲に、無数の"影"が出現しました。


 次回、最終話「赤ずきんちゃんと決戦の舞台」。ご期待ください。

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