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ああ、赤ずきんちゃん。  作者: 極大級マイソン
最終章【シンデレラ(仮)編】
30/52

第6話「狩人とおとぎの町」

 ……時間は少し遡ります。

 おとぎの城で、お后と魔法の手鏡が、王子様が倒れる姿を目撃するほんの数刻前。おとぎの町の正門前で、とある一団が忍び寄っていました。


 白雪姫「う、うぅぅぅぅん。…………あれ?」

 オオカミ「おや、目が覚めたようだね」


  白雪姫は、ふかふかの毛皮の中で目を覚ましました。フサフサとした暗い灰色の毛は、まるで生きているかのように暖かでした。

 そして白雪姫は、自分が誰かにおんぶしてもらっていることに気がつきます。


 オオカミ「おはよう、白雪姫。ゆっくり眠れたかな?」

 白雪姫「あ、オオカミさん。ええ、とってもよく眠れました。……すみません、オオカミさんに負担をかけてしまいました。重かったですよね?」

 オオカミ「はははっ、何のこれしき。赤ずきんちゃんをおぶる事に比べたら天国さ!」

 狩人「まっ、俺は赤ずきんちゃんでも余裕でおぶれるけどな」

 白雪姫「狩人さん。……あ、そうでした! 私たちは赤ずきんさんを助けに向かって町へ…………、ここはどこですか?」

 オオカミ「ここは、おとぎの町の正門前だよ。あの門の向こう側にあるのがおとぎの町。そして、その町の中央に建てられているのが、君もよく知る『おとぎの城』さ」


 おとぎの城。つまり、白雪姫が生まれ育った家でもありました。

 数ヶ月ぶりに帰る、自分の家に期待と不安を抱えながら、白雪姫は目の前の門を見据えます。


 狩人「さて、ここからが第一の関門だ。俺たちは町に入り、赤ずきんの奪還のために動くわけだが…………このままだとおそらく、俺たちは町に入ることもできない」

 オオカミ「白雪姫は、国では行方不明、もしくは既に亡くなっていると噂されているからね。そして狩人さんは、指名手配犯だから衛兵に見つかれば即刻逮捕。ぼくに至っては狼だし、ケルベロスくんは豚だ」

 ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」

 オオカミ「…………今更ながら、何とも最悪なメンバーばかりで救出隊を結成してしまったよ」

 狩人「まあ、豚はペットとして扱えば良いだろうが、俺らは顔を隠さないとマズイな」

 オオカミ「でも、門番に顔を確認されたら、すぐに見破られるよ?」

 狩人「だったら外壁を登れば良い」


 という訳で、4人は場所を移動して町の正門から離れた、比較的よじ登り易い外壁を見つけました。


 狩人「そして、その場所の見張りをしていた衛兵は、既に俺が退治しておいたぜ」

 衛兵A「」


 白雪姫とオオカミは、狩人の手で気絶させられた名も知らぬ衛兵に頭を下げます。

 4人は外壁を登って、町に侵入することができました。おとぎの町は、日が登って間もないためか、店の前で開店の準備をしている人たち以外、通りを歩く人はいないようです。


 白雪姫「ああっ、久しぶりのおとぎの町……。ほんの数ヶ月ぶりだというのに、何だか凄く懐かしい気分です」

 狩人「俺に至っては何年ぶりだな。あの森に住むようになってから、町にはほとんど行く機会が無かったからな」

 オオカミ「ぼくもここに来るのは、若い頃に群れを率いて人間どもを襲撃した時以来だよ。いやーこの町にいる人間たちの無邪気さと平和ボケな感じは、昔から変わらないなぁ〜!」

 ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」


 おとぎの町は、大きく円を描いた囲いの町で、おとぎの城を中心に古い軒並みが続く通りが外に向かって何本も広がっている、巨大な蜘蛛の巣のような形でした。町には2つの門が構えられており、お店が多く建ち並んでいる側が正門。民家が多く建っている側に裏門があります。4人が今いる場所は、正門側付近のお店が立ち並んでいる辺りでした。


 オオカミ「それにしても、今日は祭りでもあるのかな? ほら、町のあちこちに飾りがされているよ」

 白雪姫「本当ですね。普段の町では見かけない装飾がいっぱい……。今日は何かのイベントがあるようですね」

 狩人「ほーん。だったら、もう少し経てば町は熱気に包まれるな。何せ祭りは絶好の稼ぎ時だ。この町の連中が、この日を逃す手は無い」

 オオカミ「というと?」


 町について詳しく知らないオオカミが、狩人に説明を求めます。

 狩人は、久しぶりの町をゆっくりと見渡し、口を開きます。


 狩人「おとぎの町は、国王が住んでいる町だけあって、国で最も巨大だ。だが、おとぎの町の周辺には貴重な採掘場所が無く、土地で畜産栽培している食料以外の物。例えば生活用品や武器、資料、娯楽道具なんかは、他の地方や近隣の協力国家から輸入して作られた物ばかり。つまりこの町、ひいてはこの国が、大陸でも名高い『技術国家』っていう事だ」

 オオカミ「技術国家?」

 狩人「製作はデカイ建造物から小さな指輪まで。武器・防具を作るなら、加工困難な鉱石や金属を使用した物でも取り扱える。俺は詳しく知らないが、魔法についても、他の国では類を見ない大変なレベルまで操れるらしいぜ。とにかく、おとぎの国っていうのは、他の国からしてみれば多種多様な技術が詰まった集合体。その国の最先端の技術を手に入れたいって輩は大勢いるのさ。だからこそ、おとぎの町で行われる祭りは、観光客で溢れ、大賑わいで商売繁盛になるってわけ」

 オオカミ「ヘェ〜、そうだったんだ。長い間この国に住んでるけど、全然知らなかった」

 狩人「森の生活では、全く必要としない知識だからな」


 4人は雑談を交わしながら、町の中を歩きます。お城への道順は狩人がよく知っていたので、彼を先頭にして通りをまっすぐ。

 手配犯、姫、狼、豚、という暗黒チームが揃って町中を進んで誰にも気に止められなかった理由は3つ。

 1、早朝のおかげで人通りが少ないこと。

 2、表に出ている人のほとんどが、開店の準備に忙しく、こちらに意識を向けないため。

 3、顔を見られないようにフードを被っているから。


 オオカミ「いや、3つ目は無理があるでしょう! 狩人さんと白雪姫は顔を隠せても、ぼくの場合鼻が突き出ちゃうんだから」

 狩人「大丈夫大丈夫。なんかお前って、例え病気で寝込んでいるお婆ちゃんに化けたとしても、気付かれない雰囲気が醸し出されているから」

 オオカミ「気付かれるよ。どこの世界にそんな馬鹿な変装をする狼がいるのさ」

 狩人「話を戻そう。祭りといっても、楽しいことばかりじゃなくてな。人が多ければそれだけ問題も出て来るわけだ。窃盗、喧嘩、人攫い、襲撃。人混みに紛れて悪さをしようって奴はいくらでもいる。そんな時に駆り出されるのが、決まって俺たちだった」

 オオカミ「俺たち?」

 狩人「俺が昔、この国で一番強い騎士団に所属してたって話は聞いてないか? その団体の名は、『おとぎ騎士団』。あらゆる危機をたちまち解決し、どんな悪党も懲らしめるまさに正義の騎士団と言われていた。今もそうなのかは知らないけどな」


 オオカミは驚きました。この人格破綻者とストーカーを合わせたような狩人が、そんな立派な騎士団にいたとは思わなかったのです。


 オオカミ「ぼくはてっきり、貴方は騎士団とは名ばかりの山賊の一員だったのだと勝手に予想していたよ」

 狩人「まあ、似たようなもんだ」

 白雪姫「全然違いますよ!! ……おとぎ騎士団の皆様は、本当に立派な方々ばかりで。私

 は昔、お城から騎士団の皆様が稽古をするお姿を、よく観察していました。とても眩しく、毅然として、まさに国民を護るに恥じない、勇猛なる騎士団です」


 白雪姫は、その頃を懐かしむように瞳を閉じます。


 オオカミ「白雪姫が言うのなら、本当に凄い人達なんだろうな」

 白雪姫「でも、狩人さんも騎士団の一員だったとは知りませんでした」

 オオカミ「やはり嘘……」

 狩人「嘘じゃねえよ。白雪姫が知らないのは当然だ。俺が騎士団を解雇されたのが、今から7年前だったか8年前だからな。その頃、白雪姫はもっと小さかった。そう、幼女だった」

 白雪姫「セクハラです」

 狩人「今でも幼女だけどな。ああ、まだ生まれたてだった頃の白雪姫。俺が率先して抱っこしようとしたら、他の騎士達が俺に剣を向けてきたな。あれは今でも疑問だ。あの時俺が何をしたというのか?」

 オオカミ「因みに、狩人さんの守備範囲ってどれくらいなの?」

 狩人「見た目が幼女なら、生後0ヶ月からOK。年齢は問わない」

 オオカミ「多分それが原因だよ」

 白雪姫「……私、騎士団の皆様に、また借りができてしまいました」

 オオカミ「ああ、大きな借りだよ」

 白雪姫「あ、という事は。狩人さんは、私のことを知っていたんですね。あの、森で初めて出会った頃から」




 狩人『ギャッハハハハ!! 安心しろよ白雪姫。そういう事ならこの俺が、君の面倒を一生見てやるからさぁ〜!!』第2章参照




 狩人「そうだぜ。一目見て白雪姫って分かったからな。困っているようだったし、助けてやろうと思ったんだ。親切心で」

 オオカミ・白雪姫『嘘だね(嘘ですね)』

 狩人「ちっ、バレたらしょうがねえな。その通り、本当はいかがわしい事をしようと企んでいたさ!」

 オオカミ「公衆の面前で叫ばないでよ。恥ずかしいし、注目される」

 狩人「おっと、そうだった。俺たちは侵入者だったな。こんな場所で存在を気付かれたら、あのマヌケ騎士団共が押し寄せてきちまう」

 白雪姫「マヌケ騎士団……」

 狩人「俺、あそこにいる連中嫌いだったんだよなぁ〜。怒鳴るし硬いし小難しいし。騎士団なんてな、結局力が無きゃあ、ただの烏合の衆だっていうのによ」

 白雪姫「そ、そんな事ありません! 騎士団は、力だけで存在しているのではないのです! 人々を護る誠実さ、そしてどんな敵にも怖気付かない勇敢さが必要なんです!」

 狩人「お、そうだな(聴いてない)」


 狩人「後あいつら、俺が幼女と触れ合おうとすると決まって邪魔するんだよ」

 オオカミ「それは正しい」

 狩人「仮に向こうからクビにされなくても、こっちから除団してたかもな。俺には息苦し過ぎた」

 オオカミ「そっか。……ぼくとしては、何故すぐに解雇されなかったのかが不思議でならないんだけど」

 ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」


 城に辿り着く前の雑談。他愛もない会話に花を咲かせている一同は、道をまっすぐ進みます。

 人通りを進むごとに、表に出ている人が多くなっている気がしました。人だけでなく、町の装飾も豪華になり、出店も増えているようです。

 4人は知らない事ですが、今日おとぎの町で開催されるイベント、『天下一舞踏会』は、お城の中で行われます。そのため、人が集中するのもイベントの近く、中央付近となっているのです。

 そして、4人が通りを歩き始めてしばらく。ついに、目的の場所まで到着しました。


 白雪姫「ああ、ここは……」


 白雪姫は、感動した様子でその建物を眺めます。懐かしの我が家。その姿を久しぶりに見たのです


 狩人「そうだな、ここがおとぎの城だ。……数年前と変わらないぜ、全く」


 そして一方で、狩人もまた、眼前にそびえる巨大なお城を、懐かしむ顔で見据えるのでした。

 次回、第7話「狩人とおとぎ騎士団」。ご期待ください。

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