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ああ、赤ずきんちゃん。  作者: 極大級マイソン
第4章【三匹の子ブタ(仮)編】
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第5話「赤ずきんちゃんは今それどころじゃない」

 狼A「ギャアアアアアアッッ!!

 狼B「ヒィィィィ!! た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」

 プー太郎『むっははははは!! 怖れよ、憎っくき狼共よ!! 天罰招来じゃあああ!!』


 ……阿鼻叫喚です。

 突如、ブタの姿から巨大な3つ首の狼と化したケルベロスは、その巨体を存分に活かして周りの狼どもを一網打尽で蹴散らしていきます。

 ある者は倒れ、ある者は叩きつけられ、あっという間にあれだけいた狼達がやられていきます。辛うじて無事だった狼達も、これはマズイと散り散りに逃げ始め、後に残ったのはリーダーのジュウガミと赤ずきん達のみでした。


 ジュウガミ「な、何なんだありゃァ!?」

 赤ずきん「私にも分かんないよ! なんでケルベロスが、いきなりケルベロスになってるの!?」

 ヘンゼル「ていうか、おかしいって! 『ケルベロス』って、確かキリスト神話の生物だろう!? "地獄の番犬ケルベロス"! 何でグリム童話の世界に登場するんだよ、色々矛盾してるって!!」

 グレーテル「……お前がキリスト神話について知ってるのも、結構矛盾した出来事だけどな」


 赤ずきん達は、ケルベロスの唐突な変化に驚きを隠せません。そして、狼達をなぎ払ったケルベロスは、ふと赤ずきん達の方を振り向きました。3つの頭が同時に動き、見られた側はかなりの恐怖を感じます。


 プー太郎『……さて、狼共はあらかた葬ったが、どうする弟達よ?』

 ブヒモス『ぶーっ! 取り敢えずそこの組み敷かれている奴も倒しちゃうぶー!!』

 ブイヨン『そうですね。……ついでに、我々を囮にしたそこの双子も痛い目に合わせてやりましょう』

 プー太郎『うむ、そうだな!』

 ヘンゼル&グレーテル『!?』


 双子は顔を青くします。当然と言えば当然の結果ですが。


 ヘンゼル「いやいやいやっ、待ってくださいよブタさん方! さっきのは、ちょっとした冗談ですよ〜〜っ!」

 赤ずきん「うわっ。不利になった途端、突然媚び出したわこの人!?」

 ヘンゼル「ホントッ! さっきのは御三方の力を信じてやった行いなんですよ! 僕等、ケルベロスさんなら狼共に勝てると思って、敢えて敵地に放り投げたんです!!」

 ブヒモス『……って、言ってるけど。どうする?』

 プー太郎&ブイヨン『極刑』

 ヘンゼル「あうちっ!」


 どうやら、ヘンゼルの必死の命乞いは通用しなかったようです。ケルベロスはのしのしと大地を踏みしめて、双子の元へゆっくりと近づいて行きます。


 ヘンゼル「どどどどうしようグレーテル!? 今度は何を生贄にすれば良い!?」

 グレーテル「オオカミは…………駄目だ。さっきのケルベロスの攻撃に巻き込まれて瀕死になっている。となると、残る生贄候補は赤ずきんとジュウガミって狼だけだな」

 赤ずきん「あの、聞こえてるんだけど……。私が動けないからって好きかっていうの辞めてくれない?」

 ヘンゼル「赤ずきんか。……この手だけは使いたくなかったが、やむを得ないな。俺たちの命には変えられない」

 グレーテル「……遂にやるんだな。あの禁断の技を」

 ヘンゼル「グレーテル、発射準備だっ!」

 グレーテル「いくかっ!」


 双子の行動は早かった。2人は、以心伝心の少ない会話で、ある方法でこの危機を逃れるつもりのようです。

 そして双子は、行動を起こします。

 まずはグレーテルが、懐から筒のような物を取り出しました。

 次にヘンゼルが、ポケットから2つの石を取り出します。森の生活に慣れている赤ずきんは、それが火打石であることがすぐに分かりました。

 グレーテルは、取り出した筒の片方を空へ向け、ヘンゼルが反対側の導火線に、火打石で気を付けました。

 その後、ジリジリと導火線が火花を散らし、次の瞬間大きな破裂音と共に、筒からカラフルな煙が空へと放たれました。


 赤ずきん「な、何なの!?」

 ヘンゼル「ふっふっふ、赤ずきん。冥土の土産に良いことを教えてやろう。俺達が今発射したのは、ある人物から赤ずきんを見つけた時に使うように渡された発煙筒だ」

 赤ずきん「私を?」

 ヘンゼル「見ての通り、この発煙筒は空高く煙を発射し、遠くからでもすぐに居場所が分かるように出来ている。……さて、ここで問題だが。この発煙筒を俺たちに渡したある人物とは、果たして誰だと思う?」

 赤ずきん「…………! ま、まさかっ!?」

 ヘンゼル「そうっ! 俺たちの関係者で、赤ずきんに強い歓心を持つ人物なんて、1人しか思いつかないよなぁ赤ずきんッ!!」


 言うや否や、予感は確信に変わります。

 煙が空高く上がった途端、何処からか風のようにこちらへ近づいてくる者がいました。その人物は険しい森の中にも関わらず、まるで猿のように木々を駆け抜け、繁々とした木葉も関係なく、滑らかに移動をしていました。

 まさにそれは、体術を極めた達人の如き素早さ。間違いなく相応の力の持ち主であることがわかります。

 ----そしてその人物、彼は、スタッと地面に降りました。彼が見上げた先には、彼が何年もの間愛し、愛を向けた少女、赤ずきんの姿があります。



 狩人「……くくくっ。はっはははははっ!!」



 そう、彼の名は狩人。

 幼き1人の少女を愛した達人、異常、変質者。

 彼は、赤ずきんを見つけると同時に、言いようの無い喜びを高笑いという行為で表現しました。

 赤ずきんは、軽く顔を覆います。よりにもよって、狼達や変身したケルベロス以上に関わりたく無い人物と遭遇してしまったと思いました。


 赤ずきん「…………やってくれたわね」

 グレーテル「悪いな、赤ずきん。だが、これで状況が好転する」


 狩人「はははっ! 例の煙が見えたので、念のため確認してみれば本当にいやがったぜ赤ずきんちゃん!! 弟子達に発煙筒を渡して正解だったな!」

 ヘンゼル「師匠っ! 聞いてください、実はちょっと俺らピンチなんすわ! 助けてくれません!?」

 狩人「え、嫌だよ」

 ヘンゼル「赤ずきんもピンチなんです! そこの三本首の犬野郎に襲われ掛けてて!」

 狩人「だから嫌だって、……今なんつった? 俺の赤ずきんちゃんに手ェ出す奴がいるのか?」

 赤ずきん「誰が『俺の』よ誰が」

 ヘンゼル「彼奴なんすよ! 師匠の力でやっつけちゃってください!!」


 狩人は、ヘンゼルが指差した先を見ます。そこにはやはり巨大な3つ首の狼がいて、狩人はふむと顎をさすります。


 狩人「なるほど、こいつが……」

 ブヒモス『……なんか、変な格好したおっさんがやってきたよ?」

 ブイヨン『狩人ですよブヒモス兄。ほら、赤ずきんさんを付け回してる変質者』

 ブヒモス『あー居たねそんな奴』

 プー太郎『しかぁしっ! 誰が来ようが、今の我らに敗北はありえんのだ!!』


 ケルベロスは鼻を鳴らします。それは元の豚の姿とは違い、巨大な怪物が行なった分、勇ましさも格段に上がっていました。ただの鼻息で強風が吹き抜け、森の木々がザワザワとざわめき出します。


 プー太郎『我らぁ!! おとぎの森最強の三匹の子ブタ、ケルベロス!!』

 ブヒモス『ただの大工と侮るなかれ! 僕らの力は森を揺らし、山をも崩す強靭な四肢と硬い牙!!』

 ブイヨン『頭脳明晰一網打尽っ! 憎き狼を屠る力を得た我ら、人っ子一人など恐るるに足らず!!』

 プー太郎&ブヒモス&ブイヨン『しか〜しっ!! それでも我らに挑む愚か者ならば、貴様のその勇気と無謀に免じて、正々堂々の勝負をしてやろう!! いざ、尋常にぃぃ----





 狩人「……やかましい」





 と。狩人は、腰から一本の剣を抜き出し、無造作に横へヒュウと素振りします。

 瞬間、ケルベロスの3つの首が断たれ、ドスドスドスっと鈍い音を立てて地面に落下しました。





 プー太郎&ブヒモス&ブイヨン『………………………………………………えっ?』





 3つの首は、自分に何が起きたのかを理解できず、ポカンと口を開けたまま呆けています。

 そして、自分達が斬られたと思い立ったその時、落ちた首と残った胴体が、ボンっと煙を巻き散らしながら消滅しました。

 そして後に残ったのは、以前とまるで変わらないブタの大工。ケルベロスが1匹いるだけでした。


 ケルベロス「…………ぶっ!? ぶ、ぶーっ!!」


 ケルベロスは、ぶーぶーと普通の豚のように鳴いています。どうやら、その姿では人間の言葉は喋れないようです。


 狩人「……なんだ? 急に豚になったぞこいつ。まっ、何でもいいけどさ」


 狩人は、先ほど斬り伏せた怪物に早くも興味を無くしたようです。

 一方、狩人の弟子であるヘンゼルとグレーテルは、予想を上回る結果に唖然と立ち尽くしています。


 ヘンゼル「……ま、マジで? 一撃? あの怪物を?」

 グレーテル「強い強いと思っていたけど、まさかこれ程だったとは……」

 ヘンゼル「ふ、2人が戦っている間に逃げるつもりだったのに。これは、想定外で逆に面倒になったな……」


 双子が冷や汗をかいている、そんなことも御構い無しに、狩人は嬉々として赤ずきんに近寄ります。


 狩人「ゲッヘッヘ! これで邪魔者はいなくなったゼェ〜、赤ずきんちゃぁんっ!! 狼の里に因んで、今日は俺が狼になってやるぜぇ〜!」

 赤ずきん「それいつもじゃない」

 狩人「違いねえっ! ヒャァッハハハハハァッッ!!!!」


 狩人は、愉快痛快といったように大笑いです。

 まさに悪人。悪党。狼よりも地獄の番犬よりも邪悪な男が、赤ずきんの敵として眼前に立っていました。

 ふと、赤ずきんは双子を見ます。ジト目で見ます。

 そして、赤ずきんのそんな視線に気付いた双子は、どちらが合図をするでもなく、赤ずきんにグッと親指を立ててこう言います。



 頑張って! 、と。



 ……赤ずきんは、この場を脱したら、絶対にこの2人を殴ってやる、と。固く誓うのでした。

 次回、第6話「赤ずきんちゃんと巨大な悪」。ご期待ください。

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