第5話 賭けの勝者は
この日――大公領のシルヴィアとエミリオは、屈辱に奥歯を食いしばっていた。
ラガンの寝室、薄布で囲われたベッドの上にはシルヴィアがいるが、その相手はエミリオではない。
彼はシルヴィアの眼前に立ち、じっと妻が犯されているのを見守っているのである。
「今日は、ずいぶんと特別だな――シルヴィア」
シルヴィアは喘いだ。エミリオに聞かせるように、普段は絶対出さぬようにしていた声をあげた。
それは、悲鳴のような声でもあった。
エミリオを突き動かすのは、屈辱と反抗心――ここで、彼を決定づける物を与えれば、全てを捨てる覚悟を決めるだろうとシルヴィアは賭けに出た。
彼女はもう後戻りはできない。ここで彼が動かねば、もう先はないのである。
「やはり――守る物ができると、中の具合も変わるものか?」
「ぐっ……」
シルヴィアは屈辱に震えた。
「エミリオ様に報告してやれ」
「くっ……うぅ……、つ、月の物が……き、きて、おりま……せん……」
エミリオは驚愕の表情を浮かべた。
それにラガンは、ニヤリと汚い笑みを浮かべてシルヴィアに問う。
「いつからだ?」
「に……かげつ……です……。ら、ラガン様……の……」
「う、嘘だっ……」
エミリオは震え、わずかに左腰に携えている剣を握りしめた。
シルヴィアの目に力がこもる。
彼の剣には期待していない。だが、“別の剣”を抜く覚悟を期待していた。
――男が立ち上がるのならば、女は苦肝を貪ろう
エミリオはそれ以上は何もできない。
ただ震え、シルヴィアの目を見るだけである。
それを見て、ラガンは情けないような者を見るかのような目を向けた。
「――結局、エミリオ公はそうなのですよ。
嫁にやって来た女の純潔を奪われ、犯され、挙句には孕まされ、私の前で喘ぎ続ける。剣を抜くこともできず、ただ震えて誰かに指示を出してもらうのを待つ――そんな者に、この国の兵が、民がついてゆくとお思いですか?
貴方は見ているだけでいい、椅子の上で震えているだけでいい。
戦うのはこうして丸腰でも、イチモツは硬いままの男だけ。ほら、こうして孕まされた貴方の嫁を、腰だけで十分に喘がせることができる――剣が抜けぬなら、エミリオ公、そのイチモツで嫁の口でも犯しめされよ」
その言葉にエミリオはたじろぎ、後ずさりをし始めた。
シルヴィアの目は『構わない』と言っているが、彼は絶望に打ちひしがれるだけ……恐怖で縮み上がってしまっているのである。
「ぐっ……くっ……!」
エミリオはついに足を外に向けた。
開け放たれた扉から聞こえる、妻の悲鳴のような喘ぎを背に受けながら、彼は一心不乱に走った――。
剣は重い。人を殺す必要のない者にとって、それはただの重荷となる物である。
だから、彼は覚悟を決めた。腰のベルトごと剣を投げ捨て、胸の中でひたすらシルヴィアに謝罪し続けながら駆けた。
※1100字と短いですが、前話と温度差があったので分割しました




