ファンタジーパワー
メモ
ついに本当の冒険へーー
俺の、異世界冒険譚がここから始まろうとしていた…
ガルドス「出発は明日の朝ですね〜」
トウジ「」
うん。
ガルドス「旅の支度をしなくてはなりませんからね。魔獣討伐の報告も兼ねて、一度役場に戻って一息つきましょう」
平和か。さっきまであんなにシリアス展開してたじゃん。魔族がやばいって言ったじゃん。
アーデル「ふぃ〜、さすがに今日は疲れたぁ〜」
あんたに至っては疲れることしてないでしょうよ。代わりに俺が働かされてたじゃん。
ちょっとのんきすぎやしませんか。13の魔国が存在して、魔族が武器使って侵略するかもしれないんだよね?
確かに疲れてはいるけど、いいのか、これで。
トウジ「あの、緊急じゃなかったんすか」
ガルドス「ええ、まあ緊急の事態ではあります。しかし、この状態で戦いに行く訳にもいかないですから」
それもそうだな。疲弊した身体で立ち向かえるほど魔族は優しくないだろう。イメージだけど。
でもガルドスやデカルスなら余裕そうではある。今もそんな疲れてないっぽいし。
ガルドス「今日の魔獣程度ならそこまで苦労はしませんがね。武器を持った魔族となれば別です」
アーデル「そうそう。魔族と勝負するなんて、万全の状態でも思わないよ、普通」
やはり魔族は恐ろしい存在なんだな。魔獣の時点で十分恐ろしかったけどね。俺なんて多少チビったけどね。
トウジ「でもこっちにも魔石があるワケだし、勝ち目はあるんじゃ」
ガルドス「勝てる見込みはあります。そうでなければ魔国に乗り込もうなんて考えませんよ」
アーデル「ただ、魔石を誰も彼もが使いこなせるワケじゃあないからね。同じ魔石でも、使いこなせないんなら、魔族の武器に劣るよ」
トウジ「えっ! それじゃあ今魔石を使える人ってそんないないんですか?」
アーデル「だからアタシらで行くんでしょ。そもそも街の人で魔石を知ってる人なんてそういないよ」
ガルドス「そうですね。現在、魔石を使えるのは、私とアーデルくらいですね。可能性という意味では、デカルスやあなたもですが」
トウジ「俺も使える!? ホントに!?」
それにデカルスも使えるのか。
使うまでもなく強力だけど、使えるとなったら頼もしすぎるというか、もはや恐ろしい。
アーデル「フン。可能性だって言ってんでしょ。まあアンタが魔石を見つけられたのも何かの縁かあるんだろうし、ゼロではないかもね」
この人さっきまで、俺に潜在能力なんてないからムリ〜みたいなこと言ってなかったか。
ガルドスが可能性ある、なんて言ったから拗ねてんのか。
トウジ「いやぁ〜、やっぱ俺ほどになると分かっちゃうんすね。可能性ってヤツが。やっぱガルドスさんは見る目がありますね〜誰かさんと違ってぺば」
アーデル「潰すぞタコが」
もう潰れてます。主に鼻が。
トウジ「すびばぜんでじだ…」
調子に乗るのはいけないね。肝に銘じよう。
ーー
ーーー
そんなこんなで、役場に戻ってきた。
依頼主に報告を済ませ、しばしの休息。
デカルスは例によって外で待機だ。
…デカルス用の家も必要だな。旅に出ちゃうワケだから帰ってきたらになるけど。
ガルドス「さて。とりあえずの用事は済ませました。ここから旅の準備に取り掛かる、と言っても衣服や食べ物をまとめるだけで大した装備はありません」
トウジ「装備ないんですか!?」
アーデル「あるワケないでしょ。ここ役場よ。ハンターギルドじゃないんだから」
トウジ「じゃあ魔獣退治に使ったこれが基本装備だと」
魔獣とのバトルで大活躍したナイフ。果たしてこれが魔族相手に通じるのか。でも魔族は魔石を使った武器持ってるんだよね。ムリじゃない?
アーデル「無理でもなんでもやるしかないでしょ。遅かれ早かれ侵略されちゃうんならさ」
それはそうだが…
もっとマシな、もっとこう、あるだろう。
トウジ「そういえば、こっちの魔石事情はどうなってるんです? 2人はどんなのを使うんだ?」
ガルドス「ああ、そういえば。まだ言ってなかったですね」
アーデル「まあ言う必要ある? って感じだけど。アタシは癒しの魔石。傷を癒したり、心を癒したりってトコ」
癒し!? 嘘でしょ。
だって魔石は潜在能力を引き出すんだよね?
じゃあこの人、潜在的に癒しキャラってこと…?
アーデル「おい。今なんか失礼なこと考えただろ」
トウジ「いや、何も! 癒しキャラとかムリあんだろとかそんなこと全然考えてn」
俺の鼻はもうダメかもしれない。
これを機に美容整形でもしようかしら。
ガルドス「私は飛翔の魔石です」
トウジ「飛翔?」
飛ぶ能力ってことか。
ん? でもガルドスはドラゴンだからそんなのいらないんじゃないのか?
ガルドス「はい。実は私、ホントは飛べないんですよ」
衝撃の事実。ドラゴンなのに飛べない!?
あんな翼が生えてるのに?
この世界に来て一番ビックリしたかもしれない。
初めて会った時も飛んで来たし。当然飛べるモンだとばっか思ってた。
トウジ「なんで? だってその翼はーー」
アーデル「はいはい。これで分かったっしょ。これがあたしたちが使える力。何もできないあんたがこれ以上詮索しても無駄無駄」
なにその吸血鬼みたいなセリフ。
ガルドスのことは気になるけど、まあいいか。
それより、
トウジ「俺がなんもできないなんて、そんなん分かんないでしょ。というかさっきの魔獣討伐だってだいぶ活躍したじゃん」
アーデル「はぁ? ほとんどガルドスさんとあのでっかいのでしょ。あんたは一匹倒すのでやっとだっただろうが」
じゃあお前も活躍してねえじゃねえか。
むしろ一匹でも倒した俺偉い。
ガルドス「そういえば」
そういえば多いな。
トウジ「なんです?」
ガルドス「あなたに渡しておきたいモノがあるんでした。こちらへ」
トウジ「?」
アーデル「…」
なんだ?
渡しておきたいモノ? もしかして伝説の剣とか?
なぁんだやっぱりあるんじゃーん。そういうのは早く言ってよね。
トウジ「あれ? ここってーー」
連れてこられたのは役場の受付。
ここに一体何があるんだ?
ガルドス「あれです」
視線の先にあったのは、柱にはめ込まれた宝石のような飾り。 確か最初にここに来たときもあったな。 ただの装飾だと思ってたけど、
トウジ「これってもしかして」
ガルドス「そう。これは魔石です。この街に古くからあるモノで、長くここに飾られていたのです」
こんなところにも魔石があったのか。
今見ると、確かに魔石だ。 いや、さっき見つけた魔石よりなんだか光が強いように感じる。
トウジ「ありがたいけど、これを俺が持ってていいの?」
貰えるってんなら嬉しいけど、そんな大事そうなモノを渡されてもプレッシャーだぜ。
ガルドス「もちろんです。魔族と戦う以上、あなたにも魔石が必要ですからね」
トウジ「でもさっき見つけた魔石でもいいんじゃないの? 潜在能力を引き出すんならどれも変わらないでしょ」
ガルドス「しかしあなたは違うと思った。この魔石を見て、何か感じたのでしょう?」
トウジ「!」
確かに感じた。この魔石のほうが落ちていた魔石やガルドス、アーデルが見せてくれた魔石よりも強く光って見える。
ガルドス「潜在能力を引き出す力は同じですが、使用者の個性や性格が影響します。魔石にもそれにあったモノがあるのです」
そうだったのか。ガルドスやアーデルの魔石も色が違ったけど、単なる色の違いじゃなかったんだな。
トウジ「じゃあ、この魔石は」
ガルドス「ええ。おそらく、これこそがあなたの武器になる」
そうか。これがーー
トウジ「すっげえ…」
今までナイフだのなんだのでまるでファンタジー感なかったけど、これでやっと体感できる。
もう目の前だ。
トウジ「よし! 早速使ってみよう! うおおおおお」
魔石に意識を集中する。全神経をもって、力を行使せんと強く、そして願うようにーー
トウジ「あれ?」
何も起こらない。踏ん張ったわりに、ひとつとして変化はない。え?
ガルドス「…」
ため息。ガルドスは呆れているようであり、落胆にも似た表情を浮かべる。
ガルドス「まったく。先ほど説明したでしょう。魔石の力は直接的なものではありません。あなたの潜在能力を引き出すモノだと」
トウジ「あ」
そうだった。魔石は俺の能力を引き出してくれるだけ。
つまり、俺自身に集中しなければ意味はない。
トウジ「でも、俺の潜在能力ってなんだ?」
アーデルの言葉がよぎる。いやいや、潜在能力がないなんてことはない。あるはずない。じゃあなんで何も起こらないんだ? やっぱり、、、
いや断じてない。頼む、潜在能力くらいあってくれ。お願いしますホント。
ガルドス「フム。実は、この魔石を使えた者は今までにいないのです」
トウジ「というと?」
ガルドス「どんな潜在能力が引き出されるかは分からないということです。まあ最初は他もそうですが」
なんだ。そうだったのか。
良かったぁ〜! あいつの思った通りだったなんて悔しいからね。俺には可能性があるんだ。
ガルドス「あなたの潜在能力が何なのか、それは自分で見つけていくしかないでしょうね」
トウジ「そうか。まあでも、それはそれで楽しみだな! 徐々に明らかになっていく真の力、みたいな?」
ガルドス「その前に死ななければ良いですね♪」
トウジ「」
魔国へ向かう旅が始まる。
出発は明日だ。ついに俺の冒険がスタートする。夢に見たファンタジー、ハートフルストーリー。未知の力を秘めた俺。果たしてどんな能力が眠っているんだろうーーー。
トウジ「出発日延期しない?」