ハンターハードワーク
ーーさて。
なんやかんやで街役場に就職してしまった俺、木嶋トウジ。
上司は言葉遣いだけやたら丁寧な、だが芯から腐りきった性格のドラゴン。
同僚は謎の巨大生物。一応俺の恩人?でもある。
そして先輩職員のーーー、
?「あのさぁ」
俺「はい?」
キマシタ。この人が俺の先輩である。
?「資料まとめといてって言ったじゃ〜ん? もちろんやってくれたんだよね?」
俺「やってません」(キリッ)
ド ゴ ォ !!
腹部に痛烈な蹴り。ジャストミートです、先輩。
俺「ゔぉえっ!?」
あかん。これはあかん。どう考えても致命傷です、内臓イッたんじゃない?
?「先輩がやれっつったんだからちゃんとやっとけよなぁ〜?」
俺「す、すみばせん…アーデルさん」
アーデル「アァん!?」
俺「ヒッ! ア、アーデルせんぱい…」
このキレッぷりである。どうやら『先輩』という事実に並々ならぬ執着があるようで、このように、呼び方ひとつで激昂する。とんでもねぇわ、この先輩。
俺「はぁ…」
なぜこんなことに…
最初は良かった。夢の異世界。最高だった。
一瞬だったけど。もうなんか、すぐ現実に戻されたようだったね、うん。
アーデル「まったく。だらしないなぁ、人間」
おい。それは下手したら種族差別だぞ。分かってんのか、パワハラ野郎。
アーデル「ん? なんか言いたいことでもあんの?」
ないです。なんでもナイです。ごめんなさい。
ーーこの世界には色々な種族がいる。
といっても、大別すれば3,4種ほどなのだが。
ガルドス「彼女は新人に厳しいんで、注意してくださいね」
おせえよ。そういうことは先に言うんだよ。
竜族。
このガルドスがそうだ。まあこの街に限って言えば、コイツしかいないんだけど。たまに卵パクってくるから、街の外には割といるみたい。
ガルドス「あくまで保護のためですよ。彼らは子育てを放棄することが多いですから、こちらで管理することも必要なのです」
ホントなのか怪しいトコだ。ていうか他のドラゴンはこいつみたいに理性的(いや、理性的か?)ではないってことか? 竜族の中にも色々種類があるのかもしれない。
俺「はぁ〜。ちょっと外行ってくる」
この時点で、面倒な種族がいっぱいってことはお分かりいただけただろう。
デカルス「ウ?」
俺「おう、デカルス」
こいつとは森で出会ったんだよな。魔獣から助けてもらったし。今の所唯一の癒しだ。
だが、種族ははっきりしていない。ガルドスは、『今まで見たことがない』と言っていた。
あいつ何でも知ってそうだったけど、そうでもないな。まだまだ謎の種族が存在してるってことかもしれんけど。怖っ。
…今まで通り俺の癒しであってくれ。
アーデル「おいゴラァ! 誰が休憩していいっつったよ!」
俺「ヒィッ」
そして先輩は鬼ーー
じゃなくて、獣人族。ここらでは最も人数の多い種族で、人間もここに含まれるらしい。人型って区別なのかな?
アーデル「ホラ、サッサと戻りな! 仕事だ仕事」
猫耳。長い尻尾。フワフワな毛並み。
ここだけ見ればカワイイのだが、肝心の性格がね。姐さんキャラっていうには見た目が子供っぽいし。
俺「はい…分かりました。戻ればいいんでしょ」
アーデル「あ?」
俺「」
どんなキャラなんだよ。怖いわぁ〜。
そんな種族に囲まれて、俺は働いている。
役場のメンバーはもう一人いるらしいのだが、今はこの4人。俺、ガルドス、デカルス、アーデルだ。深刻な人手不足である。(デカルスに至っては事務仕事不可能だし)
街の役人がこんだけしかいないってやばいだろ。
前も思ったけど、どんだけ人気ないのよ。というか街の人たちも便利屋かなんかと思ってるよね。
大抵お願いすればやってくれるみたいな。
お願いされる側に回って欲しいんですけど?
正直、俺なんて部外者なのに。まあ、そんなこと言ったら街から追い出されちまうしな〜。
民A「すみません。少しよろしいですか」
はい、キタコレ。便利屋案件ですね、分かります。
俺「なんでしょう?」
民A「最近気になってはいたのですが、このあたりって魔獣多すぎません?」
おっと…?
民A「それで、役人の皆様に討伐していただけないかな〜と」
俺「ハンターにお願いしてください」
便利屋どころじゃないね。役人づかい荒いわぁ〜、どう考えてもハンター案件なんですけど。俺それで死にかけてるんですけど。
俺「それは私らの仕事じゃないんで、別でお願いしてもらっt」
メ リ ィ ッ
アーデル「はい! 承りました。早急に対処させていただきます」
俺「うごごッ!がっ!?」
突然のアイアンクロー、爪刺さってます、先輩。
俺「ちょっ!? 痛い痛い痛い!離してェ!」
アーデル「おいお前、街の皆様に向かってナメた態度とってんじゃねェぞ」
もう辞めたい。
アーデル「よし。行ってこい」
俺「えっ」
アーデル「魔獣討伐だよ。話聞いてただろ」
俺「いや、アーデルさん…先輩は?」
アーデル「? あたしは行かないよ。そういう仕事じゃないし」
いや俺もそういう仕事じゃないんですけど。
アーデル「い い か ら 行 っ て こ い」
俺「…ひゃい」
どうやらまたこのパターンのようだ。いつか死ぬね。魔獣に殺されるか、先輩に殺されるか。
バッドエンドしかないぜ☆
ガルドス「私も同行しましょう」
!?
アーデル「ガルドスさん!? 別にコイツに行かせるからわざわざ」
ガルドス「いやいや、いいんですよ。気まぐれですから」
気まぐれかよ。一瞬やさしさに包まれそうだったのに。
ガルドス「…」
まあでも一緒に来てくれるんなら心強いのは確かだな。ドラゴンだし。
アーデル「じゃあ、あたしも行きます」
ガルドス「そうですか。では外にいる彼も連れて行きましょう。皆でかかったほうが効率的ですから」
先輩の豹変ぶりが怖い。ガルドスには弱いんだよな。
俺「デカルスも? そこまですんのか?」
ガルドス「まあ、たまにはいいんじゃないですか? 全員揃って仕事というのも」
アーデル「正確にはもう一人いますけどね。いつになったら帰ってくるのやら」
なんにせよ、これはイイ。俺一人で行かされたら死あるのみだからね。
ただーー
なぜ急にそんなことを言いだしたのだろう?
そんなことを思いながら、ハンター紛いの魔獣討伐作戦に向かうのだった。