魔獣討伐ハードワーク
「ウォオオオオン!!」
俺は森を走っていた。
振り返ることはできない。
ていうかそんな余裕ない。
俺「イヤアアア!!ヤメテェェェエエ!!」
俺の叫びは届かない。
奴らには届かない。
だって魔獣だもの。
ーー
ーーー
(数十分前)
俺は森にいた。
ガルドスのクソ野郎に言われた通り、依頼を果たしに来たのだ。
俺「…気味が悪いな」
鬱蒼と茂る木々は、一見豊かな自然を思わせる。
異世界らしくていいな、なんて思うかもしれない。
でもそんなわけない。
確かに緑は豊かだろう。
でも所々緑じゃない。赤いんですけど。
黒ずんだ赤が見えるんですけど。
しかもアレって骨だよね!?なんかの骨だよね!?
森には確実に死が漂っていた。
俺「おいコレ本気でヤバイんじゃないか?なんで 俺一人なの?ここに単身突っ込むってバカなの?」
明らかに人員不足だ。
そもそも俺はこの世界に来て間もないんだぞ。
そんなやつを一人で魔獣の巣に行かせるとかありえる? ありえないよね!?
どう考えてもおかしいだろ!
ここの役所はどうなってんですか、無理難題を押し付けるのが日常なんですか、人権とかないんですか!?
冷静に思い出してみたら、役人がそもそも足りてねぇ。
パッと見でも4人しかいなかったぞ!?
俺「明らかなブラックです、本当にありがとうございます」
業務と人員のバランスがぶっこわれてる。
そりゃあ皆やりたがらないよな、こんな仕事。
その点、突然現れた俺はいいカモだったというわけだ。
俺「あのクソドラゴン許さねえ」
覚えてろよ、絶対生きて帰ってやる。
認めさせて、こんなトコから出ていってやる。
まずは、この依頼を片付けることだ。
最初からハードル高すぎだが、仕方ない。
異世界での、異生物との戦闘だ。
プラスに考えろ、これは夢に見たゲームの世界だ。
ここで、結果を残すんだ。
そうすればあとは何とかなる!(はず)
俺「行くぞ!」
ーー
ーーー
そして現在。
俺は絶賛、魔獣から逃走中である。
俺「やっぱムリだった!コレ無理ィ!一人で何とかなるレベルじゃねぇから!どう考えても死ぬからぁ!」
ナメてた。魔獣ナメてた。
ちょっと気性の荒い犬みたいなんもんだと思ってた。
全然違った。
まずデカイ!
俺の身長超えてんだけど!
チビるわ!
そして牙!爪!
殺傷能力しかないヨ!獲物を殺すためだけにあると言っても過言じゃないヨ!
加えて群れ!
巣って聞いてたから、何匹かまとまってるのかとは思ったよ。でも2〜3匹くらいと思うじゃん?
10匹はいるんですけど!普通に一人で相手できる数じゃねえ!あのクソドラゴン知っててやらせてんのか!?ねぇドラゴンって鬼畜なの?
幸いスピードはそこまでない。ないんだが、すっげえしつこい。
俺「こんなんじゃ体力もたんぞ!あいつら疲れを知らんのか!?」
今の所はまだ距離をとれている。
だが逃げ切れるだけのスピード差ではない。
俺「ハァ、ハァ、これは、ヤバイ、も、もう」
俺の体力は限界だ!
当然だよ、ついこの間までニートよ?
いきなり動けるわけないじゃん!
ガ ッ!!
俺「うっはぁ!」
しまった!
木の根にひっかかった!
魔獣はすぐそこまで迫ってる!
俺「イヤアアア!!こないでえええええ!!」
せっかく助かったのに!やっと俺の異世界ロマン譚が始まるのにィイイイ!!
クールで偉大なヒーロー、モテモテ冒険者生活の幕開けなのにィイイイイ!!
バ ツ ン
俺「ホッ?」
なんだ?どうなった?
俺死んだ?
恐る恐る確認する。安心。
どうやら生きてる。
変な音したけど、身体も無事だ。
俺「じゃあ今のは一体…?」
何が起きたんだ。前方を確認する。
そう言えば、さっきから魔獣が襲ってこないな。
どうなってーー
! ?
俺「!?!??!?」
なんか、いる。
デッカイやつ、いる。
黒々としたシルエットから、明らかにヤベー匂いがプンプンしてる。
俺「ヒッ!」
そいつの足元を見ると、頭の潰れた魔獣が一匹、転がっていた。
右の拳からは血が滴っている。
とんでもねぇ右もってんですけど。
あの音は魔獣の頭ぶっ潰した音だったのか。
残りの魔獣は突然の強敵に、戸惑っている。
仲間が瞬殺されてるんだ、動けないのも無理はない。
やがて、実力の差を理解し、一目散に逃げていった。
俺「た、助かった、のか?」
いや、助かってない。
魔獣は去った。
だが、脅威は依然として、いや、さらに増している。
この新手のデカブツは何なんだ!?
あの魔獣を瞬殺するほどのパワーをもってるんだ。
こいつに狙われたらどう考えても助からねえ。
俺「えっとぉ…」
動けねえ。下手に動いたら終わる。
デカブツは俺を見据えて動かない。
ここはイチかバチかだ。
俺「あ、あの〜ボク、木嶋トウジって言います。先ほどは助かりました。それで、あなたは一体どちら様でございしょうか…?」
話が通じるかどうかは分からない。
けどこれしかない!
戦闘ではどう見ても敵わない。
なんとかして見逃してもらうんだ!
デカブツ「…」
ホァアアアア!!
ヤバイヤバイヤバイ!!
怖すぎるううううう!!!
俺「アハハハハ!も、もし良かったらお友達になりませんかぁ〜!フヘヘへ、へ…」
なに言ってんだ俺は!
頭が真っ白だ!どうしようもねぇ!
デカブツ「ーーダチ」
俺「えっ」
デカブツ「トモ、ダチ」
俺「」
喋った。この人喋れる。
俺の言葉も通じてる。
俺「そ、そう!そうよ!トモダチ!僕とあなたはトモダチ!」
必死である。
この流れでいくしかなぁい!
頼むうううう!!
デカブツ「ウアッ、ウアアアア!!!!」
俺「ヒィイイイイ!!」
デカブツ「トモダチ!トモダチ!」
俺「ん?」
これは。
デカブツ「トモダチ!トモダチ!」
うおおおおっし!!
きたぜ!これはきた!
なんとか友達路線に引き込んだ!
このままいけば助かる!
俺「そうだ!これからはトモダチだ!助けてくれてありがとう!それじゃ俺は用事があるんd」
ガ シ ッ
俺「えっ」
捕獲されたんだが。
デカブツ「トモダチ♪トモダチ♪」
俺「えっ、ちょっ、ちょっと待ってね、トモダチだけど、そうじゃなくて」
デカブツ「トモダチ〜♪」
聞いてねぇ。
俺「ちょっ!離して、離してくれ!俺はまだ」
マズイ!
逃げらんねぇ。
今んとこトモダチだけど、このままいくとトモダチじゃすまねぇ危険がある!
俺「誰か!誰か助けてぇええ!!」
デカブツは俺の気も知らずに森の奥へと進んでいく。
うっかり友達宣言したばっかりに、ずっぽり沼にはまっていく。
俺生きて帰れんのか?