初仕事ハードワーク
「この街の役場で働いて欲しいのです」
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そして今、俺は森にいた。
ガルドスのお願いは想定外のものだった。
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ーーー
ガルドス「ここで働いてくれませんか?」
俺「いや待て待て。どういうこと?」
ガルドス「街の役人が足りないのです、人手不足なのです」
俺「イヤイヤイヤ!だとしてもよ、なんで素性の知れない俺なの!?他にもいるでしょ!」
ガルドス「えっ?えっと、それは…」
ん?なにやら怪しいぞ。
言えないような理由があるのか?
俺「なんだ?そんな人には言えんような事情があるのか?」
ガルドス「いえ、そういうわけでは…あ!そうだ、私はあなたをお助けしましたよね!?」
俺「え?いやそれは元はと言えばあんたが」
ガルドス「そう!私はあなたをお助けしました。ならばあなたは私に対して借りがある!」
俺「えっ、ちょっ」
ガルドス「あなたはその恩を感じ、ここで働くのです!」
俺「強引すぎるだろ!つーかあんたがあの場に落ちてこなかったら俺は気絶なんてしなかったんだぞ!」
ガルドス「でもあそこって魔獣の巣の近くですので、私がいなかったらあなた、そのうち魔獣に喰われてましたよ?」
! ?
俺「オイ、あそこそんな危険な場所だったのかよ!?」
ガルドス「ええ、ですから私はあなたの恩人であることに変わりないのです」
まじかよ。嘘ついてるわけじゃないよな?
どんだけ働かせてーんだよ。
でも、これが本当ならあいつは俺を助けてくれてるわけだし…
!
もしかして、コレって、ブラッk
ガルドス「よし!では決まりですね!さっそくご案内します」
俺「ちょ、待ってくれ、まだやるとは言ってな」
ガルドス「では、この街にいさせるわけにはいきませんね。あなたは素性の知れない身だ。役人として、そんな人物を置いておくなんてできませんし?」
コ イ ツ ゥ!
さっきまでの丁寧さはどこにいったんだ!
これがドラゴンの本性か!
つーかお前役人なのかよ。ドラゴンなのに。
もうドラゴンがゲシュタルト崩壊だよ。
俺「くっ…ならこの街を出てやるよ!他の街にでも行って」
ガルドス「ちなみにここから最寄りの街まで500kmあります」
は っ ! ?
ガルドス「ついでにここ周辺には魔獣の巣が複数存在しています。それでも行くとおっしゃるのなら止めはしませんが」
俺「ここで働かせてください」
クソが!ムカつくゥ!
でもこうするしかない。こんなトコで死ぬわけにはいかん!
よろしい、とガルドスは俺を案内する。
医務室らしき部屋から出ると、そこには(二次元で)見慣れたギルドのような景色が広がっていた。
俺「うおお!?」
ガルドス「ここがアルザスの役場。街の民のための場所です」
そこには、多くの人がいた。
役人と見られる人や、なにやら相談に訪れたらしい人。
多くの人が行き交っていた。
俺「すげぇ…これが役場か」
ガルドス「ええ。ここで人々の生活を支えるため、役人たちは日夜働いているのです」
そうか、こんな場所があったんだな。
確かに人間世界にも役所はある。
だが、ここはそのイメージとは違い、活気があった。
静かなオフィスワークという感じではなく、やはりギルドに近い雰囲気がある。
俺「そうか、ここで働くのか」
俺はなぜか、心の中で、ここで働くことを受け入れていた。
こんな活気ある場所で働いてみたいと思ってしまった。(生粋のニートなのに)
ガルドス「さて!さっそく仕事をしてもらいますよ、トウジ」
俺「え?」
もう仕事するのか!
研修とかそういうのないのか?早すぎはしないか?
いや、だが今の俺なら!
なんだかやれそうな気がしていた。
ガルドス「あなたの最初の仕事はコレです」
ガルドスは一枚の紙切れを俺に渡してきた。
俺「ん?ああ、これが街の人からの相談事ってわけか。どれどれ」
なんかホントにギルドみたいだな。
これはこれで、冒険者っぽくていいな。
そして、依頼内容は、、、
《魔獣の巣が増えて困っています。どうにか駆除できないものでしょうか。お願いします。》
俺「」
ガルドス「魔獣の駆除をお願いします」
ふ ざ け ん な
俺「オオィ!コレ意味ねーだろ!さっきの話どうなったんだよ!?周りに魔獣いるからこっから出れないって言ってただろ!この依頼はおかしいだろ!」
ガルドス「なんのことでしょう?民のためです。より良い街づくりのために頑張ってください♪」
コイツまじで言ってんのか。
まず魔獣がどんなモンなのかわかんねーのに、この世界に来て間もない俺にこんな仕事任せるか普通!?
ていうかコイツが行けばいいだろ!ドラゴンなんだし、魔獣なんて余裕だろ!
俺「お前がやってくれよ!なんで俺なんだよ、どう考えてもお前のほうが向いてるだろ!」
ガルドス「いやぁ、私は別の仕事がありますし?今手が空いているのはあなただけなのです」
俺「じゃあ俺がお前の仕事をやるから、お前はコッチやってくれよ!」
ガルドス「いいんですか?私の仕事はドラゴンの卵をとってくることなんですけど」
なんでだあああああ
ドラゴンの卵ってなんだよ、おまえもドラゴンだろうが!同族に対する慈悲はねぇのか!
つーかもはや役人の仕事じゃねーだろ、ハンターじゃねぇか!ほとんどハンターじゃねぇか!
俺「くっそおおおおお!やってやるよ!魔獣を駆除すればいいんだろ!?死んでも知らねーからな、保険とかあるんだよなァ!?」
ガルドス「大丈夫です、死にはしませんよ。せいぜい内臓が抉られる程度です」
いや、致命傷なんですけど。
つーかその時点で死ぬだろ。
ガルドス「保険の件ですが、そもそもあなたこの街の民ではありませんから、一切の保障は受けられませんね」
俺「おいまて!おかしいだろ!俺は役人として働くんじゃねぇのか!?役人なのに街の民じゃねぇってどういうことだよ!?」
ガルドス「そうですねぇ。言わばこの依頼はあなたを認めるかどうかの試験なのですよ。これがこなせたのなら、あなたを街の民と認め、役人として迎え入れましょう」
クソッ!
コイツうぜーぞ、最初に会ったときの印象がメチャクチャだ!
まさに役人って感じだ!
俺「チッ!やるしかねぇか。まさかこのまま魔獣と戦うんじゃないよな?装備くらいはくれても良いんじゃねーのか?」
ガルドス「それはもちろん。剣と鎧は支給します。あとはご自分でなんとかしてくださいね」
しけてやがる。
剣と鎧だけかよ。こんなんで戦えんのか?
ゲームでしか戦闘経験なんてないんだぞ。
だが、文句を言っても仕方ない。これ以上コイツからのサポートは期待できそうにない。
俺「初っ端からこんなハードワークかよ。やっぱりブラックじゃんか…」
ガルドス「我々は民のために働くわけですから。多少の理不尽にも耐えねばなりませんよ?」
もう泣きそう。
俺さっきまでニートだったんですけど。
こんなだから街の人たちも役人仕事やりたがんないんだな。それで人手不足か。
俺「どの世界でも常識が通じないことってあるんだな。この世界の常識とか知らねえけど」
やるしかない。こうなったら、魔獣を倒してコイツに認めさせるしか俺の生きる道はない。
俺「いくぞ!!」
ガルドス「あ、お土産期待してますよ〜」
俺「うるせえ!」
記念すべき初仕事だ。
こんな形で迎えることになるとは思いもしなかった。
こんなハードワーク、正直やってられない。
だが、やるしかない。俺の異世界ライフのためにも!