就職ハードワーク
「なにコレ?」
目を覚ますと、そこは異世界だったーー
俺は、森の中で死んだはずだった。
彷徨い歩き、最期を迎えたはずだった。
「生きてるんだが?」
なぜか生きている。
というか生まれ変わってる?
年齢も若返っていた。30代のダルさはない。
感覚的には中学〜高校生くらいだろうか。
訳が分からないが、とりあえず歩くことにした。
遠くに何か見えたからだ。おそらく街であろう。
「明らかに違う世界だな」
俺には分かっていた。長年のニート生活で培った二次元力によって、この世界を認識するのは容易い。
意味が分からないが、ワクワクしていた。
異世界である。
憧れの二次元的な世界、新しい生活、冒険。
夢が広がる。
俺は街に向かった。
きっと、ギルドがあるんだ。
そこで仲間を見つけ、共に戦うんだ!
ゲームでしか体験したことのない世界が俺を待っている…!
ド ゥ ッ!!!!
突然、衝撃が走る。
「なんだ!?」
目の前に何かが落ちてきたようだ。
土煙でハッキリとは見えない。
だが、デカイ。
明らかに人間ではない。
「モ、モンスターか!?」
俺は瞬時に悟った。
だが、ここでエンカウントするのはマズイ。
まだ俺の冒険は始まってない。
当然装備も何もない。
確実にヤバイ。
土煙は次第に収まり、その姿が見えてくる。
「ドラ、ゴン?」
ナンテコッタ。
ドラゴンだった。
モンスターの定番とも言える、ドラゴン。
それが目の前にいた。
終わったーー
コレ、勝てないじゃん。
どうやっても死ぬでしょ、俺。
ハードすぎない?初っ端からハードすぎない?
スライムやゴブリンならまだ分かる。分かるよ。
序盤なら出てくるよね。
ドラゴンってなんだよ!
終盤だろ!良くて中盤で来いよ!
初めて遭遇するモンスターがドラゴンって!
俺は異世界転生、早々にして自らの死を悟った。
せっかく新しい生活が始まると思っていたのに。
ここでも、何も為さず終わるのかーー
「あの〜」
誰かが呼んでいる。
あぁ、そうか、幻聴まで。
あの世からの呼び声だろうか。
「今、逝きます」
最期はあっけないものだ。
俺は覚悟して、目を閉じーー
ガシッ
「あの、すみません、ちょっとよろしいですか?」
えっ
俺は目を開いた。
誰だ?誰かが俺の肩を掴み、話しかけている。
助かったのか?
視線を前へ向けるーー
「あなた、このあたりでは見かけませんが、どちら様でしょう?」
ドラゴンだわ。
話しかけてんのドラゴンだったわ。
さすがの俺も気を失った。
ーー
ーーー
「ハッ!?」
目を覚ますと、そこはry
俺はベッドで寝ていた。
どうなってるんだ?さっきのは夢か?
そうか、異世界なんて夢だよな。
ありえない。ニート生活によって幻覚を見ていたんだ。
「どうも」
「ギャアアア!」
夢じゃなかった。ドラゴンいた。
「こっ、殺されるゥ!」
俺はベッドから飛び出し、ケツで後ずさる。
「落ち着いてください、いきなり倒れるもんだから心配しましたよ」
「でも、お元気そうで良かった」
ん?
そうだ、俺は気絶して、それからーー
「あんたが運んでくれたのか?」
恐る恐る聞く。
「そうです。いやぁ、目を覚ましてもらえて良かった」
なんてことだ。
ドラゴンが喋ってるだけでなく、ちゃんと服も着てる。まあ、喋るドラゴンもゲーム内にはいたが、服まで着てるとは。
本来なら、まだ信じられないだろう。
だが、俺の二次元力を甘く見てはいけない。
「あんたは何者なんだ?」
すぐに適応する。
異世界では重要なことだ。
「ああ!そう言えば自己紹介がまだでした」
なかなか礼儀正しいドラゴンだ。
「私はガルドス。見ての通りドラゴンです」
なるほど、ちゃんと名前もあるようだ。
そしてやはりドラゴンだった。
服も着てるし、丁寧な対応。
俺より人間っぽいんじゃないか、コイツ。
「そうか。俺はトウジ。木嶋トウジだ」
しっかり名乗らないとな。自己紹介って大事よね。
「トウジ!いいお名前ですね」
うーんやっぱコイツ実は人間なんじゃねーの?
いちいち人間っぽいなぁ。
ドラゴンのイメージと違うぞ。
「んで、ここはどこなんだ?」
ようやく聞ける。ここはドコなんだ。
「やはりこのあたりの者ではなかったのですね。ここはフェルグラド王国。この街の名はアルザス。古より続く城下町です」
おお!それっぽい!
ファンタジー感でてきたぞ。
「なるほど。城下町か」
「ええ」
いいねぇ、そういうの。
ワクワクしてきたぜ。王国ってことは王様がいるんだよな。
そいつに会いに行くのがベストだな。
「王様がいるんだよな?会いに行きたいだけど」
ニートらしからぬ行動力だが、ここは異世界。
俺は生まれ変わっている。
さぁ、新しい冒険の始まりーー
「あ、王様は今いませんよ?」
「えっ」
どういうことだ?王様がいない?
そうか、攫われたのか!
そういうのって大体お姫様の役目だけど、まあいい。
「どういうこと?まさか攫われたとか?」
「? いいえ、旅行中です」
旅行、だと?
そんなファンタジーある?
平和すぎない?
「旅行って…敵国に攻められるとか、モンスターが襲ってくるとかないの!?」
「いや〜、ないですねぇ。多少は困った人たちもいますけど、そこまで緊迫したものは」
まさかの平和展開。
王様に会って、冒険して、仲間集めて、とかじゃないんだ。
いや!でもまだ可能性はある!
別に王様の命令とかなくてもいいしな。
「あ、そうだ!そう言えばお願いがあったのです」
「ん?」
お願い?
もしや依頼か!ここから俺の冒険始まっちゃうか!?
「あなたに街の役場で働いてもらいたいのです」