1 月とキバタンの私
世界中の鳥たちがカゴや檻に入れられここにいる。
人間の目がかわるがわるに覗いていく。
迷い込んだ雀が言う。
「早くお空に戻りたい」
(お空ってなんだっけ?)
知っている気もするけれど、そこは私の場所じゃない。
夜になれば雀が泣く。
「お月さまが恋しいよ」
(お月さまってなんだっけ?)
恋しいものだと分かるけどそれが何かはわからない。
次の日、雀は飛び立った。雀をみつけた人間がしっしっとほうきで追い出した。
雀はチュンチュンと鳴きながら、大きな扉の向こうへと逃げていく。
(あそこに行けばお空に行けるのかしら? お空にいけばお月さまにも会えるのかしら?)
次の日、その扉から男がひとりやってきて、私の前で立ち止まる。
他の鳥にはめもくれず、ずっと私のことを見る。
「好きだよ。大好きだよ」
男は私にそう言った。次の日もその次の日も男は私の元へ来た。
「好きだよ。大好きだよ」
私もいつしかそわそわとそう言われるのを待っていた。
彼がくるのを恋しく思う。
(あぁ、きっと彼がお月さまなのだ)
お空につながるあの扉から私に会いに来てくれたのだ。
「好きだよ。大好きだよ」
「スキダヨ ダイスキダヨ」
そうこたえると月はとっても喜んだ。だから私も嬉しくて何度も何度も繰り返す。
次の日、月は女の子を連れて来た。雀みたいなかわいらしい子。
「わぁ! 私、キバタン好きなの」
「うん、知っているよ」
檻の間の月の目が私に「今だ」と言っている。
「スキダヨ。ダイスキダヨ」
2人は手をつなぎ、扉の向こうへ消えていく。
残された私に振り向くこともなく。
「ツキガコイシイ ツキノトコロヘ イキタイヨ」
それを聞いていたフクロウが言う。
「あぁ、わしも月のところへ行きたいなぁ」
人間がガチャンと扉の鍵を閉める。
「スキダヨ。ダイスキダヨ」
キバタンの私は鳴く。再び月に会う日まで。
おしまい