疑問
今にも襲い掛かってきそうな茶色い頑強な竜。
その獰猛な瞳からは蔑みを感じられた。
その時であった。
《人間ごときが我等竜族と対等に戦えると本気で思っているのか?》
その声は、まさに大地をも震わす咆哮と言えるものだった。
『は、話・・せるのか?』
刹那は驚きを隠せなかった。ゲームの世界とはいえ人間以外が言葉を話すのを初めて聞いたからである。
《貴様ら人間だけが言葉を持つなどと考えているわけではあるまいな?・・まったく、だとしたらどこまでも愚かな種族よ!》
ドラゴンは更に此方を見下すように言い放った。
ドラゴンと対峙してどのくらいの時間が経っただろう。刹那にはその時間が無限に感じられた。
刹那の額から一筋の汗が流れ落ちたその時であった。
『刹那さん・・・・刹那さん!』
刹那は、自分がどれ程の間呼ばれて気付いたのだろう、どれくらいの時間が経ってからなのだろう・・そんな事を考えていた。
『刹那さん!!』
ユナが後ろから何度も声をかけてきた。
その声には苛立ちというよりも、何かを問い掛けるものに感じた。
『ユナ・・今はちょっと待って!戦いに集中しな・・』
『そうじゃないの!何か変・・変なんだよ』
ユナは刹那の言葉を遮るように言葉を被せる。
刹那は必死にユナの言葉の意味を考えようとしたが、ドラゴンを前にしたこの状況では冷静に何かを考えることは出来なかった。
『ふっ、なるほどな。確かにおかしい』
ユナの言葉の真意に気付いたのか、暗黒騎士は肩にかけていた剣を振り下ろし辺りを見回した。
『どういうことだよ。俺には全く・・!』
刹那は暗黒騎士にならって辺りを見回していた時、中央広場で意識を失いかけながらも必死に自分達に何が起きたのかを説明しようとしていた魔法使いの言葉が頭をかすめる。
「突然・・ドラゴンが襲ってきたんだ・・俺達のパーティーは全滅寸前で、Dランクミッションに行った他の皆も応戦してるけど、全く・・全く歯が立たなくて・・」
『!!?』
『あの魔法使いさんが言ってたよね。皆がドラゴンと戦ってるって・・でも、何処にもいない!』
刹那はユナの疑問が何を指していたのかを理解した。
刹那達は多くのプレイヤーがドラゴンと応戦し、その戦闘から皆を何とか助け出そうと考えていた。
しかし、いくら辺りを見回してみても岩壁の上の巨大なドラゴン以外は誰もいない。この状況に混乱を隠すことは出来なかった。
刹那達が中央広場で不気味な声を聞く1時間前である。