暗黒騎士・永時
ドラゴンから発せられる気が更に邪なものに変わった。
その獰猛な表情は怒りに歪む。
《お前ら!儂を本気にさせて後悔することになるぞ!》
怒りに満ちたドラゴンの咆哮は大地を震わせた。
ドラゴンの邪悪な雰囲気に刹那は一瞬たじろぎ、恐怖で後退りしてしまった。
『その言葉、そのまま貴様に返してやるよ』
暗黒騎士は不敵な笑みを浮かべてドラゴンに言葉を吐き出す。
《どこまでも小賢しい奴だ!死をもって償うが良い!》
ドラゴンの表情は暗黒騎士への憎悪で更に歪んで見えた。
『刹那、お前は少し下がっていろ』
肩掛けにした剣を正面に両手で握り直しながら暗黒騎士が呟く。
『だけど、いくらなんでも暗黒騎士さん一人じゃ・・』
強張った表情の刹那は、震える体を必死に抑えながら暗黒騎士へ言葉を返す。
『案ずるな。今の奴の本当の狙いは俺達を殺すことじゃない』
『えっ?』
憎悪の表情を浮かべるドラゴンだったが、こちらよりも背後の[玄武山]を気にするように、チラチラと後ろに視線を移していた。
そんなドラゴンの様子に気付いた刹那が呟く。
『本当だ・・妙に後ろを気にしてる』
『恐らくはさっきの紅い光に何か関係があるんだろう』
刹那の呟きに、正面に構えた剣を振り上げながら確信に近い考えで暗黒騎士が答える。
『殺す気がないにしても相手はドラゴンだ。気を抜くなよ』
『分かりました。暗黒騎士さん!』
刹那がドラゴンに対して正面に剣を身構えたその時、暗黒騎士が呟く。
『永時だ』
『えっ?』
顔を覆う兜で暗黒騎士の表情を窺い知ることは出来なかったが、その声音はとても優しいものに感じた。
『俺の名だ』
『永時さん・・』
優しくも力強い暗黒騎士・永時の雰囲気に、刹那は不思議と懐かしさのようなものを感じた。
刹那達が中央広場で不気味な声を聞く20分前のことである。