不思議な感覚
北の玄武洞。草木一つ生えていない寒々とした岩肌の原野が広がり、その原野を囲うように岩山が聳え立つ。
玄武洞ダンジョンの最深部に位置する最も高い岩山は[玄武山]と呼ばれ、その崇高で威厳のある姿は神々しさを感じる。
〈あそこに凪さん達が居るっていう確信はないけど、さっき見えた紅い光といい、ドラゴンがそれを見て飛び立った事といい・・あの山に何かある事は間違いない・・〉
誘うかのような雰囲気を漂わす玄武山を遠目に、痛む身体に鞭打って走り続ける刹那の眼前に暗黒騎士の背中が見えた。
暗黒騎士の目の前には、怒りに満ちた相貌で巨大な真っ黒いドラゴンが此方を睨む。
『やっと来たか』
そんなドラゴンの様子など全く気にする素振りも見せず、此方を振り返りもせずに暗黒騎士が刹那に話しかける。
『すみません、遅くなりました』
刹那は、暗黒騎士の横でドラゴンと正体し、剣を抜いて身構えた。
漆黒の鎧に真っ黒な剣、それを肩掛けにして余裕のある態度を見せる暗黒騎士を横目に見たとき、黒光りする鎧に傷一つついていない事に刹那は驚きを隠せなかった。
〈ドラゴン相手に無傷だなんて・・〉
『本当にあなたは一体・・』
『まだそんな事にこだわってるのか?今、俺達がやらなければいけない事・・今はそれだけを考えろ』
困惑した表情を浮かべる刹那に向かって、諭すかのような口振りで暗黒騎士は答えた。
『はい!』
『ふっ。よし、良い子だ』
初対面の筈なのにそんな気がしない。この人の言葉は何故だか素直に聞ける。
〈何だろう、この感覚・・〉
刹那は、何者かも分からず、ドラゴンと互角に戦える、底知れない実力のある暗黒騎士と心で繋がっているような奇妙な感覚を覚えた。