諦めという名の絶望
洞穴の入り口から凪と女戦士は、ドラゴンと対峙する一人の影を遠目に見つけることができた。
『一人で戦ってるのか?』
『まさか・・』
冷たく広がる原野に巨大なドラゴンの姿と、不気味な漆黒の戦士が数十メートル先で睨み会う姿が二人の目に映る。
「ど、どうせ殺されるんだ・・」
先程、凪に食って掛かってきた戦士風の男が二人に向かって呟く。
その声に凪は振り返ったが、女戦士は変わらず戦場となっている原野を見つめる。
『だけど・・このまま戦わないで此処に隠れてる訳にはいかないよ』
凪は今の悪い雰囲気を晴らそうと、少しでも皆を絶望から立ち直らせようと戦士に向かって笑顔で語りかけた。
戦士風の男はそんな凪の気持ちを微塵も感じないかのように憤りに満ちた表情で更に続ける。
「だから相手はドラゴンなんだぞ!戦ったってムザムザ殺されるだけだよ!」
その瞳は暗く絶望に完全に支配されていた。
「それとも何か?全員が助かるなんか良い作戦でもあるのかよ!」
『それは・・』
男は血走った目で今にも凪に詰め寄りそうな雰囲気で怒鳴った。
男の怒声で目を覚ましたのか、横になっていた男が体を起こし呟く。
「リザレクション・チャーチ・・」
戦士風の男はドラゴンによって傷つけられた血塗れのローブに身を包んだ僧侶風の男に振り向く。
「なぁ、仮に戦って負けても復活の教会に強制送還されるだけなんだろ?だったら殺られるのを我慢して皆で突っ込めばダンジョンから出れるんじゃないか?上手くいけば何人かはそのまま逃げれるかも・・」
虚ろな眸と消え入りそうな弱々しい声で囁く男に、黒装束の老婆は諭すように重い口を開く。
『その案は上手くいくかねぇ?上級クエストでもない低レベルダンジョンに超級のドラゴンだよ?』
〈・・・・〉
洞穴内にいる誰もが更に不安気な表情で老婆を見つめる。
『皆ネットゲーム時代からプレーしてるなら、こんな状況になった事なんてないのは分かってるはずだよ?』
戦士風の男は更にイライラした様子で黒装束の老婆を睨み怒鳴り付けた。
「何が言いたいんだよ!どうせなんの役にも立たないババァは引っ込んでろよ!」
女戦士は焦燥にかられる男を振り向き、今にも斬りかかりそうな憎々しげな表情で睨み付けた。
皆の心を覆う恐怖が状況をより悪化させていくのが、凪の心を苦しめた。