終焉の始まり
それは静寂を切り裂き、終焉が訪れるのが必然と思わせるような不気味な声音だった。
お前達を消去する・・
我々こそが唯一の神である・・
運命に坑がうことは出来ない・・
永遠はすぐ目の前まできている・・
その場にいた誰もが深い奈落の底に堕ちていくような絶望を感じた・・
『どうして、こんなことに』
中央広場にそびえ立つ[始まりの塔]
空を覆い尽くすような鴉の群れ。不気味な鳴き声と幾重にも重なって聞こえる羽音。備え付けられた巨大スクリーンを見上げながら、刹那は呟いた。
~2時間前~
《--- Game log in ---》
《--- 仮想現実戦闘世界空間、V・W・Gの世界へようこそ ---》
次々と様々な容姿のゲーマー達が[始まりの塔]の前の広場に姿を現し始めた。
各地から選出された100人のプレイヤー達は、それぞれの思いを興奮気味に話し始めた。
「やっと始まるんだな~」
「待ちわびたよ、本当に」
「V・W・Gはネトゲの時からファンだったんだ!」
《V・W・G》
仮想現実戦闘世界空間
ネットワークを介して意識(思念体)を仮想現実世界に飛ばし、まるでそこに自分が存在しているかのように自分が決めたジョブで他のプレイヤーと協力し、ゲーム内での様々なミッションをクリアしていく実体験型アクションロールプレイングゲーム
前身のネトゲ時代、各クエストで素材を集めて武器や防具、アクセサリーなど自分でデザインしたものを製造し装備することが出来た。今作はそれを引き継いで使用することが出来るため、各々が自慢気に自分の装備品のことなどを話している。
真紅の鎧に、火の鳥の紋章が入った長剣を持つ戦士に魔法使い風の男が話しかける。
「その鎧、本当に格好いいよなぁ。凪のジョブは戦士だったよね?ネットゲームの時からみんな憧れてたもんなー」
『やめてくれよ恥ずかしい』
顔を赤らめ鼻を弄って照れ隠しのように笑って見せた。
『君のその装備は魔法使いかい?』
黒のローブに魔法使い特有の杖を持った男と談笑していた凪は、少し離れた所でこちらを笑顔で眺めている少年に気付いた。
黄金色の鎧にドラゴンの紋章の入った異様に太い剣。
その素材がレアの物であることは一目で分かった。
『君の装備はあまり見ない物だね。見たところレア素材だろうけど。ジョブはなんだい?』
『えっと、ドラゴンナイトです。ネットゲームの時から使ってる装備なんですよ』
『ドラゴンナイト・・聞いたことあるような、ないようなジョブだなー』
凪は首を傾げながらまじまじと刹那の装備を見つめていたが、思い出すのを諦めたかのように屈託のない笑顔で手を差し出した。
『まぁ、お互い頑張ろうや。君、名前は?』
『刹那って言います』
『俺は凪。宜しくな』
『宜しくです。お互い楽しみましょう!』
それに応えるように刹那は凪の手を強く握り返した。
〈・・不思議な感触・・〉
その手は他人のものとは思えないような奇妙な一体感のようなものを感じた。
凪は広場中央の仲間の元へ戻り、仲間達とどのミッションに挑戦するかを相談しているようだ。
ミッションは、始まりの塔を中心に
<東の青龍洞> Aランク
<西の白虎洞> Bランク
<南の朱雀洞> Cランク
<北の玄武洞> Dランク
A~Dランクの4つに分かれている。
どのミッションに挑戦するかは各自自由に選択可能だが、上位のランクほど強大な敵の出現率が高くコンプリートするのが極めて困難になっている。しかし、その反面クリア時に手に入るアイテムはランクが高いほど特殊素材などのレアな物が手に入る確率が高いため、個人のレベル上げや、より強いパーティーと協力して上位のミッションコンプリートを目指すのがこのゲームの醍醐味となっている。
V・W・Gの世界にゲームオーバーはない。
もしもミッション中に全滅した場合、それまで手に入れていた経験値やアイテムを失う代わりに、中央広場の東南側にある[リザレクション・チャーチ](復活の教会)へ強制送還され蘇る事ができるゲームシステムとなっている。
誰もが安心してプレー出来るソーシャルネットワークゲーム、というのがこのゲームの売りである。
「とりあえずはDランクの北の玄武洞で腕試しといこうじゃないか。人数も四人いることだし、パーティー組んで挑戦しようぜ!」
凪はパーティーを組んでミッションに挑戦しようとしていた。
四人はDランクダンジョン北の玄武洞へと向かっていった。
凪達のパーティーを見つめていた刹那は、楽しみにしていたゲームの始まりを実感していた。
しかし、その気持ちとは裏腹に何とも言えない・・深い暗闇のような得体の知れない恐怖のような感情を同時に抱いていた。
『何だろう・・この漠然とした嫌な感じは・・何かがおかしいような・・』
次々とダンジョンへ入っていくプレイヤー達を見つめていた刹那は、何故だか妙な不安を感じていた。
『・・・・』
同じ頃、[始まりの塔]から少し離れた大木に腕を組んでよしかかる黒い鎧で全身を包む異様な騎士が立っていた。
彼もまたダンジョンへと向かうパーティーを見つめながら、刹那と同じような漠然とした不安を感じていた。