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一章 1-7

 自宅に戻り、四人は先ほどと同じ席順で椅子に座った。


「なあ、ちょっと聞いてくれ」


 帰宅中終始無言だった慶人が唐突に切り出したためか、たちまち三人の会話が止まった。


「未来の俺の所業については、いまの俺がいくらでも頭を下げる。どう考えても俺が悪いからな」


 慶人は少年と少女の交互に目を配りつつ、真剣な面持ちで言う。

 はす向かいに座る少女が、当然だと言わんばかりに首を縦に振った。

 それを見ていた慶人は内心、少し腹立たしさを覚えたがすぐにかき消した。


「しかし、俺はあくまでも平等に接するつもりだ。どっちがだれだれの孫とかはこの時代では関係ない。いくら未来の俺が片方をひいきしていたとしても、だ。なんせ、ふたりが俺の孫であることに変わりないからだ。それでいいだろ?」

「異議なし!」


 少年は真っ先に同意した。

 少しの間があってから少女は答えた。


「……異議なし」

「よし、決まりだな」


 慶人は満足した顔でうなずく。だが、ふと重要なことを忘れているような気がした。しかし、すぐに手をたたいて少年にたずねた。


「そういや、名前を聞いてなかったな。少年、名前は?」


 少年は喜び勇んで声を張った。


「俺の名前は直江慶仁なおえ よしひと! けいはじいちゃんと同じ『慶』でひとは仁義の『仁』で慶仁って言うんだ」

「おー、わが孫ながらいい名前じゃないか。名前をつけたのはだれだったんだ?」

「そりゃあもちろん、あなたに決まってんでしょー」


 慶人は意外そうな顔で慶仁をまじまじと見つめる。


「えっ、そうなのか?」

「うん、大マジだよ」

「へええ……」


 まさか自分が息子や娘はともかく、孫の名づけ親になっているとは思わなかった慶人は、適切に返す言葉が見つからなかった。


「隣のあなたは?」


 慶人は一応言葉遣いに注意を払いながら訊いた。


直江智世なおえ ちよ。ちは智恵の『智』。知るとかじゃないほうの。よは世直しの『世』」


 智世は淡々と名乗る。


「由来は智恵を持って世を直す?」

「そんなわけないでしょ」


 智世が眉をひそめてすかさずツッコんだ。


「だよな。名づけ親は?」

「……あなたよ」

「また俺かよ! どんだけでしゃばりなじじいなんだよ」


 なかば呆れながら言ったところで慶人はふと、ふたりの共通点を見つけた。


「あれ? 慶仁はともかく、智世のほうはなんで苗字が一緒なんだ? 智世の話では倫……さんは、俺にとって第二婦人じゃなかったのか? というか第二婦人ってなんだ?」


 言いたい衝動と言いたくない衝動が均衡しているらしい。自分で言うにはあまりにも汚らわしい言葉なのか、智世は唇を噛み締めるまま口をつぐんでしまった。

 そこで見かねた慶仁が、助け舟を出すような形で質問した。


「じいちゃん、一夫多妻制って知ってる?」

「なんだ、いきなり」


 思っても見なかった一言に、慶人は当惑した。


「いや、まじめに」

「まあ、あれだろ。ひとりの男が複数の女性と結婚できるハーレム制度だろ」


 慶人は頭に思い浮かんできたことをそのまま伝えた。


「うん。それが未来ではあたりまえになったんだ。あんまりにも少子化に歯止めがかからなくて、俺らが生まれる前に法律が改正されたんだよ」


 スラスラと述べる慶仁はさすがに真顔である。


「そうなのかッ? ああ、だから、苗字が一緒ってわけか……」


 慶人は驚きが隠せない様子だった。

 そんな慶人を蔑視しつつ、えなは容赦なくひと言。


「けーちゃん、さいてー」


 子どもは正直で時として残酷である。鋭利なもので胸を刺されたような感覚になったのち、慶人はうなだれた。


「えなの言うとおりだ。なんて俺は最低なんだ……」

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