終章 1-1
未来に帰る五日前、智世は言おうか言うまいか迷っていた。
「ねえ、静莉」
「ん? どうしたの、ちー」
「あのっ、プロ野球……そう、プロ野球で兵部はゴールデングラブとベストナインのどっちか取れるかな?」
「それ私も気になってた! 三割打ってるし盗塁も結構してるし、ベストナインは――」
翌日も言えずにはぐらかし、その次の日も同じような感じに終わった。
(何やってんのよ私。逃げてばかりじゃない。これじゃ絶対言えないわ。明日は絶対言わないと)
そして二日前、とうとう智世は静莉に訊いた。
「もしも私が突然どこかに行ったらどうする?」と。
すると静莉は、
「んー、やっぱさびしいかな? でもさ、またきっとどこかで会える気がするんだ。私たちが出会えたように、偶然に偶然が重なればね」
また倫は同じ質問に対して涙ぐみながら、
「そんなこと言ったら私、泣いちゃうよ。せっかく、仲良くなれたのに……。でも、智世ちゃんには智世ちゃんの事情があってどこかに行くんだよね。そのときは絶対連絡先を教えてね」
静莉はポジティブにとらえ、倫はややネガティブ気味にとらえていた。
ふたりの反応見て智世は、いままでどおり普通にすごして帰ることが最良の判断だと思った。
「前に言ってたけど、もしもチケットの期限を破ったらどうなるの?」
えなの純粋な質問に、慶仁は少しまじめな顔つきになった。
「名残惜しいっちゃ名残惜しいけど、ちゃんと帰らないと怖い所に入れられちゃうからね」
「怖い所?」
疑問符を頭上に浮かせているえなに、慶人がああ、と思い出したように指を鳴らした。
「『未来と過去の交流』にも出てきたな。過去や未来で重大な問題を起こした奴が、投獄される刑務所があるんだろ」
「まあ、そんな感じの所だね。細かいことは言えないけど」
「えー、こわーい。それじゃ、本当に帰っちゃうんだね……」
えなは残念そうに目を伏せる。
「あのふたりには言わなくてもいいのか?」
「それは――」
言いかけようとする慶仁の目の前に、智世の手が伸びてきてさえぎった。
「言わないつもりよ」
「……そうか。それで、いいのかもな」
「……うん」
「ええー、なんで? せっかく、みんな仲よくなったのにぃー」
えなは唇を尖らせる。
「あのな、えな。これにはわけがあってだな――」
ピンボーン♪
「こんな時間にだれだ?」
慶人は首をひねりながらも玄関へ向かう。
「はーい。いま開けますね」
ドアを開けるとそこには静莉と倫が立っていた。




