表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来からの訪問者たち  作者: ふり
第三章
22/36

三章 1-3

 その日の夕暮れ。

 智世は帰宅のに着こうとしていた。


(んー、さすがに初日は覚えることが多くてキツイわね。システムは旧式だけど、それでもこっちのほうがやりがいありそう)


 智世が疲労の中にも充足を感じていると、


「おっ、智ちゃーん!」


 沈み行く夕日の向こうから智世にとっては不愉快な声がした。

 やや下を向いて歩いていた智世は顔を上げる。目が慣れていないためか、敵とも思える静莉の姿がなかなか視認できない。


(ちっ、会いたくない奴が来たわね)


 智世は周りを見渡すも住宅街のため、隠れる場所が電信柱しかなかった。

 やっと目が慣れたころにはすぐ間近まで来ており、これでは逃げようにも逃げられそうになかった。


「いま終わり? お疲れ様ー。疲れたよね? これあげるよ」


 静莉は智世の手を取り、十センチほどの細長い棒を渡した。


「私の大好きな金太郎アメ。ほら、疲れたときは甘いものがいいっていうしねっ」

(過去でも金太郎アメか……変わらないのね、この柿崎静莉という人間は)

「スーパーかー。私もやってみようかなー、なんて。そんな簡単な仕事じゃないよね。いやあ、智ちゃんと倫さんはすごいわ。私がやったら絶対パニクるもん」


 ペシッ


 突然、満面の笑みで話していた静莉の額に何か当たった。ついさっき智世にあげたはずの金太郎アメだった。だが、静莉はまったく気にも留めず、


「おっ、いまの投げ方東郷みたいでかっこよかったよ!」


 ちっとも笑みを壊すこともなく、そのうえ無礼を働いた智世のことを褒めてみせた。

 これに智世は目を丸くせざるを得なかった。


「でも、倉賀野くらがのもかっこいいよねー。見た目は中性的だけど――」

「そんなんじゃないっ。とにかく、私に関わらないで!」


 智世は静莉の横をすり抜けて駆け去っていった。



 それから数日経った。

 あいかわらず学校でも慶人宅でも、智世と静莉が会話することがなかった。


(もしかしてバイトを始めた理由って……)


 あることに気づいた慶人の耳に、智世の声が聞こえてきた。


「ただいま」

「おい、智世。ちょっと話がある」


 智世がリビングに入るなり、慶人は自分の前に座らせようと手招きする。


「何よ」

「いいから。すぐ終わる」


 智世は不承不承ふしょうぶしょう慶人の前に座った。


「で、何?」


 慶人はコップの水を一口飲んでから、思っていたことをずばりと言った。


「おまえがバイトをしている本当の理由って、倫さん自身のためじゃなくて自分のためなんじゃないか」


 核心を衝いたはずが智世に変化は見られず、まっすぐに慶人を見据えているだけだった。


「なあ、何度も言うけど、俺は未来のことを知らないし、話せないんだったら話さなくてもいい。未来の状況がおまえにとって不利な状況だとして、変えようとして過去に来たんだろ? おまえなりのやり方で変えようとしてるみたいだけど、それじゃ未来に戻ってもたいして変わってないと思うぞ。静莉のこともふくめてみんなと仲よくしていけばいいじゃないか。それで未来がいい方向に変わる確証はない。でも、その可能性があるってことは――」


 ダンッ!


 智世が両手を拳にし、テーブルをぶっ叩いた。


「親でもないのにいちいちうるさいっ! 何も知らないクセに。知ったようなことを言うんじゃないわよ!」


 智世の火を噴くような怒声に対し、慶人はここで怒ってはダメだと、努めて平静を装った。


「たしかに俺はおまえの親じゃない。だがな、俺はおまえのじいさんだ」

「調子のいいときだけじじい面するんじゃないわよっ! あんたなんかいまも将来も最低な奴だったのよ!」

「ぐッ」


 さすがにそこまで言われて黙っていられないと、慶人は智世のことを一喝しようとする。しかし智世は、すばやく立ち上がり、リビングから出て行ってしまった。


「くそッ。俺は一体どうしたらいいんだ! 未来の俺はそんなにダメな奴なのかッ?」


 慶人は、どうしようもない虚しさと悔しさをぶつけるかのように、テーブルに頭を打ち付けた。


「そんなことないよ」


 その様子を一言も発さずに見ていた慶仁が、おびえるえなの頭から手を離しつつなだめるように言った。


「じいちゃんはじいちゃんとしての役目を果たしていた。ただ、その果たし方があまりにも間接的だった」

「間接的? それはどういうことだ?」

「とりあえず、ごはんを食べよう。智世姉の分は俺が持っていくから」


 いつものおちゃらけた雰囲気とちがい、淡々としている慶仁の反応に慶人は戸惑った。

 その慶仁はまったく気にせず、シンクの近くにある盛り付け終わった料理をお盆に載せている。


「あ、ああ……」

「それと」


 お盆の上に皿を載せ終えた慶仁は、笑みのなくなった顔を慶人に向けた。


「明日、全部話すから」



 * * *



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ