その後のランチタイムにて
「「「またやったね」」」
「「「今月で6回目」」」
「ちょ、みんなしてそんなに言わなくたっていいじゃん!」
授業終了後の昼休み、中庭にて。
クラスメイトであり昔から仲のいい幼馴染でもある6人と一緒にお弁当を広げて、さぁ今から癒しのランチタイム!というところで口をそろえて四時限目での失態を責められた私は反射的に不満の声を漏らす。
「というかアンタただでさえ英語の成績壊滅的なんだから居眠りなんてしてる場合じゃないでしょ」
一口サイズのサンドイッチを口に運びながら至極真っ当なツッコミを入れてきたのは、ショートカットヘアがよく似合う正統派美少女、徳島 香菜。おそらくこのメンバーの中で一番冷静で聡明な女子である。
「あー、確かにユラっちヤバいよねー」
「ユラっち言うな!!というか大事な部分抜かないで!その言い方じゃまるで私がヤバい人みたいじゃん!!」
「まぁ事実マトモな人ではないしね、ユラっち」
「殺!!!」
私のことをユラっちとかいう気持ち悪い呼び方をするコイツは、その名を原田 誠と言う。『誠』なんていう名前にはそぐわない筋金入りのチャラ男だ。そのチャラさ具合と言えば、明るすぎる茶髪に加え美形と言える程に整った顔立ちのせいで、時折ホストのようにまで見えてしまうレベルのチャラさなのだ。
「え、結良ちゃんそんなに英語ダメだったっけぇ~?」
コテン、と可愛らしく首をかしげたのは立花 杏。ふわふわのネコっ毛とか、真ん丸で大きな瞳とか、雪みたいに白くてつややかな肌とか、桃色に染まったほっぺとか、だぼっとしたカーディガンとか、もう本気で天使なんじゃないかと思えるくらいにとにかくかわいい子だ。
「ダメなんて可愛らしい言葉じゃすまされないレベルでヤバいからね、結良の英語力は。試してみる?」
にこやかにそう言ったのは一ノ瀬 春馬。フランス人のクウォーターである春馬は、温和で紳士的でついでに髪の色素も薄めの美少年という王子様タイプ。……ただ時々発言や表情の中に腹黒さが垣間見えるけど。
「いいねそれ。クイズでも出してみようか」
「うげ、慰織はやめて!絶対超難問出してくるでしょ……!」
春馬の言葉に乗っかってきたのは斎藤 慰織。このメンバーの中、いや学年の中でもダントツで頭が良くて、『天才』と呼べるほどの頭脳の持ち主。ただ、賢さゆえの意地悪さを持ち合わせているところが厄介な奴だ。
「何の話してんだ?」
「結良の英語力が壊滅的って話」
恐らく購買で買ってきたのであろう菓子パンとパックのジュースを手に私たちのところにやってきたのは隣の席の輝。輝は基本的にはそっけなくて無愛想だけど、根はやさしくて面倒見のいい性格で、正直“ツンデレ”と呼ばれるタイプなんじゃないかなと思う。まぁそんなこと本人に言おうものなら問答無用でぶっ飛ばされそうだから絶対言わないけど。
さっきも言ったように私たちは全員幼馴染で、更に全員陸上部の部員だ。昔からみんなで走って遊んでいた記憶は今でも鮮明に残っている。
「何だ、まだその話してたのかよ」
若干呆れたように言う輝の言葉に、そういえば、と疑問が浮かぶ。
「あれ、輝っていつの間に購買行ってた?気付かなかったんだけど」
最初みんなに4時限目での失態を責められた時には輝もいたはずだ。
「あー、最初にお前の英語の話始めたときに、今日弁当忘れてきてたの思い出してさ。それで購買行ってた」
パックジュースにストローをずぼっと差し込みながら答える輝。
私もそろそろお弁当に手をつけようと、お箸を手にしたとき。
「じゃあ、日常的によく聞く英単語を問題にしよっか」
「え、あ、本気でやるの!?」
さっきの話を蒸し返してきた慰織の一言にビクッと反応してしまう私。てっきりその場のノリと言うか、冗談だと思ってたのに……。
「杏が何か問題だしてあげたら~?」
「えぇ、私?えっとぉ……。じゃあ『鶏の唐揚げ』は英語で何と言うでしょうか!今日の私のお弁当のメインディシュだよ~」
誠からの指名で問題を出す杏。
……鳥……揚げ……
「えっと、『バードフライ』!」
「……ゲホ、ッゴホッ!」
私が答えると、なぜか盛大にむせ返って涙目になっている輝。飲んでいたジュースが変なところに入ったようだ。
「輝、大丈夫?」
「ゲホっ、お、前の頭の方こそ大丈夫かよソレ!?なんだよバードフライって……!」
「え、だって鳥がバードで揚げ物がフライじゃなかったっけ。エビフライとかいうし……あれ?じゃあトリフライ?」
「「「「「「……………………」」」」」」
え、何この沈黙。
「……ご飯、食べよっか。結良ちゃん」
「? うん」
杏の一言で再開された昼食は、これ以上ないほどに微妙な空気で終了した。
……なんだったんだろう?
この話で一気に登場人物を紹介しました。ややこしくてスミマセン。