闘技大会編2-3
2-3
ここデジエンス・タウン、特設スタジアムでは今からとんでもない熱気にさらされていた。理由はこの国のこの場所でしか四国闘技大会の観戦が出来ないからである。会場は三階建てで、そのほとんどの席が人で埋め尽くされていた。そして普段はサッカーの競技場である芝生の上には魔力で浮くスクリーンがいくつもあった。
そしてそして、そこの2階には二人の少女が席を目指して人を掻き分けていた。
「…すごい人ねこれは」
「これでも収容人数十五万人を誇る屈指のスタジアムですよ」
「そんなに入れるのね…よく作ったわね 何人入るかわからないのに」
二人の少女、アリスとリーナはやっとの思いで自分達の座るベンチに腰を下ろし雑談をし始めた
「そういえば焔さんは何番目でしたっけ?」
リーナの質問にアリスはため息を一回だけして答えた。
「アイツがいつでるかはわからないでしょ、…今年はエントリーの基準が厳しくて参加者がたったの十人だけだからそんなに遅いとは思わないけど 」
「あ、そうでした 」
「というか、アイツは本当に何者なのよ…」
ちなみに今回のエントリー基準は『三万円の参加費、クラスA+以上の武器所持者、VR適合率、九十五・七%以上、魔法を七種類以上使えること』と言う条件のなかで選ばれた。理由は年々増える参加者を減らすため、である。
そんな中二人は大量購入したポップコーンを片手に今か今かと焔の出番を待っていた。
◇◆◇◆◇
焔は[VR搭乗室 No.9]にいた。もちろんこの部屋からVRシステムへダイブして、『森林』『湿地』『砂漠』『岩場』『草原』『水上』という六つものステージからランダムに選ばれ、しかも対戦相手もその直前にある「スタンバイタイム」と言う時に知らされる。
「徹底してるな今年は、やっぱり去年の参加者二万人を考慮した上なんだろうけど…」
焔がそんなことを考えていると突如、部屋にアナウンスが入った。
「参加者の方は事前に説明したとおりにコントロールポットへ速やかに入ってください。」
焔はアナウンスを聞き終わるころには、もう準備が整ってポットの中で待機していた。
そして…
「コレより四国闘技大会、朱門国側のオープニングセレモニーを開始します、しばらくお待ちください」
◇◆◇◆◇
アリス達がしばらく座っていると突如、中央のステージから人が競りあがり、周りから(会場の外からも)花火が大量に打ち上げられた喋り始めた。アリスは身だしなみからMCだろうと思い注目した。
「さて、みなさまお待たせしました これより四国闘技大会、ルールを説明します まず今回……」
そして長い長い、二十分にも及ぶルール説明が続いた。リーナは途中で「仮眠をとります~」と言って寝てしまったが、アリスはしっかり聞いていた。
リーナが起きると早速アリスにどんな説明かを聞いてきた。アリスは拳を若干握ったが、何とか押さえつとけて説明した。
「今回の大会はHP制で一人五万のHPを持っているんだけど本人はHPをゲージでしか見れないの 攻撃をくらったりしてそれがゼロ、になったらそこで試合終了ってこと」
簡単に(略して)話したが他にも、血の代わりがライトなんちゃらにした 。とか、|魔法複合剣技(MAS)による追加効果などなど、説明があった。
そしてそんなこんなで第一試合のアラームが会場に鳴りひびいた。
◇◆◇◆◇
焔が目を開けるとそこには小さなディスプレイがあってそこには
「第一試合が始まります 残り五十秒で準備してください」
焔はその指示に従い、淡い紫色の片手剣、ムーンライト・ラストホープをコマンドコール(呼び出すこと)し、背中に背負った。
ディスプレイの横には対戦相手の名前とおもしき名前があった。ちなみに名前はすべてアルファベット表示なのである。
ちなみに今回のには
mineruba
ミネルバ、と書いてあった。名前からして女性なのだろう。やりにくいな、と考えていると気がつけばスタンバイモードが終わって、焔の体を光が包み込んでバトルフィールドへと誘った。
◇◆◇◆◇
焔の視野が戻ったときにはそこは大きな岩と荒々しい地面が広がっていた。
つまりココはステージの『岩場』ということらしい。すると、正面一キロ前方に人影が見えた。焔は視力強化魔法、「サーチ」を唱えて敵の装備を見る。
敵、つまりミネルバの装備は白のコートに中はピンク、ボトムは薄い金属の鎧、という若干かわい気のある服装で腰には刀と思われる武器がぶら下がっていた。髪の毛の色は綺麗な栗色だった。
まず、敵の行動を見てから攻撃=奇襲、を仕掛ける作戦を取るために岩陰に体を隠しながら横、あわよくば後ろに回りこもうとし動く。この様子を見ているであろう観客達は今頃ブーイングをしているであろう。
そこで焔は おや?と思った。理由は焔との距離がまだ十分あるであろう、約四〇〇メートルという所で止まったからである。
(ばれたのか?)
一瞬そう思い堂々と前に進もうとすると焔の一つ奥、ほんの数秒前までいた岩が見事に真っ二つになってガラスの破片のような形で青い光を出して散っていった。
驚きのあまり息が荒くなる。心臓もバクバクと跳ね上がる。なんとか数秒で落ち着きを取り戻しもう一度ミネルバを見た。
あいかわらず、ミネルバは腰の刀に手を当てたままその場に立っている。それよりも、気配、または殺気をまったく感じなかったことに驚いた。基本居合い斬りをするには、流派によって様々だが、基本気合の入った「型」を構えるのがセオリーである。
しかし今度は目をはなさず見ようと思いたって気づかれるのを覚悟でその場で張り込む。案の定ミネルバはこっちを向いて居合い斬りをした。それを伏せて髪の毛二、三本の犠牲で回避に成功すると岩が斬られた時の光に混じってすぐ前の岩へ転がり込み体制を立て直した。
ミネルバは若干不思議そうな様子を見せたが何事もなかったように喋りだした。
「もういいでしょう 姿を現しなさい さもなくば、次は首と体を切り離しますよ」
素直に姿を現して、同時に抜いた右手の剣に力をこめる。ミネルバの言葉に怖気ついたわけではないが、そんなことになったらHPゲージは確実に全損するだろう。そして彼女にならそんなこともできる。そんな判断から姿を見せたのだ。
「あなたの名前は ホムラ、でよろしいでしょうか」
「あぁ、そのとおりだ ミネルバさん」
二人とも礼儀にしたがい自己紹介をするがそれもそのときだけであって
「では、いきます!」
すぐさま戦闘になるわけである。さすがに片手剣を相手にこの距離で居合い斬りはしないで刀を鞘からぬいて切りかかってきた。焔はそれを余裕の距離を保ってかわす。
最大で三連続の刀の攻撃をかわし反撃に出る。手始めに頭の上から振り下ろされてきた四度目の攻撃を左下からの切り上げではじき返し、ミネルバをのけぞらした。
相当の力を込めていたであろう一撃をはじき返されてミネルバはのけぞりを余儀なくされる。しかしそこは選ばれた出場者、五秒ほどでのけぞりを回復して構えなおした。だが、
五秒で十分だった。
焔ははじき返した反動に逆らわず右足を軸に体ともに回転をして剣を水平に振った。
その一撃はみごと相手の足に赤い光のラインを深くつけた。ミネルバは少し痛そうに顔を歪めふらついた。
その隙に焔は左足を地に付け剣を左肩の上に構え、間合いを詰めてミネルバの右肩から左わき腹にかけて切り裂いた。
赤い光のラインが一気にミネルバのHPゲージを削り、レットゾーンへ突入した。
しかし、かろうじて残る。焔は深追いをしないで、いったん距離を取った。
「なかなか…やるじゃないか」
ミネルバが息を切らしながら話しかけてくるが焔は剣の先をミネルバに向けて
「これで終わらせる」
そう言ってつっこんで行き突きで終わらそうとしたが、急に足が重たくなったことに気づき腹部を見ると腰の左側に赤いラインがついていた。はっとして自分のHPゲージを見ると自分もレットゾーンへ突入していた。
(いつのまに…)
焔はとりあえず考えるのをやめて眼前の敵に集中する。
その間に呼吸を整えたミネルバは刀を正面に構え
「夜風流、突き技、見切り燕」
どうやらさっきの一撃の名前らしい。現に今度は刀の先を自分に向けて突っ込んできたら突き刺すつもりのようだ。だが、ここで止まるわけにもいかないわけで結局、
「しかたがない…」
突然自然体になって真っ直ぐにミネルバを見詰める。ミネルバは虚をつかれて、力を抜きかけたようだがすぐに力を入れなおす。そして焔は目を閉じ、意識の奥底に沈めたもう一つの意識に語りかけた
◇◆◇◆◇
何をする気だ?
ミネルバは考え、答えにたどり着いた。
(さっきからヤツは私の虚をつくトリッキーな攻撃をしかけてきている。だから次もおそらく私の想像をこえるおもしろい攻撃をしかけてくるのだろう。しかし、この構えは無敵だ)
夜風流奥義、閃突き
それが今とっている私の構えである。この夜風流は相手が突進してきた時に最も強く、相手の剣が届く前に確実に敵を殺すことができる。ただし、敵に斬られた時のリスクが大きいのも事実。現にさっきは全損できずに自分も斬られ、残り一割を切ってしまった。
そんな回想をしているとヤツが突然自然体になって目をつぶったのだ。
(攻めるか、迎え撃つか、)
その両方の選択肢が残っていた。そして、迎え撃つ、を選びいっそう腕と神経に力を入れて集中する。
そして決着の時は来た。
ヤツが下を向いたかと思うと突然剣を横に振った。もちろん距離は十分にあった。逆にそれは自分の間合いでもない。だが私は勘で構えをやめてジャンプした。するとまるで何かが通った後のように自分の後ろに直線状であった岩がすべて砕けガラス片のように散った。同時に恐怖した。今のを回避してなければ確実に死亡(試合終了)だっただろう。
だがそう理解したところで思考は停止した。普通アレだけの大威力の攻撃を放ったらすぐには攻撃できないだろう、まして高さ三メートルまでのジャンプなど不可能だ
という先入観(常識)に囚われていたのがいけなかった。
ヤツ、いや彼、ホムラは高々と自分の目の前に悪魔のような赤く光った目をみせて不気味かつ不敵な笑みをうかべてその淡い紫の剣を腹に突き刺し地面へ蹴り飛ばした。
最後に薄れゆく意識の中、知りたいと思った。彼のその力について純粋に。その赤い目について…
そうして落ちてった私は地面に叩きつけられて無残にもガラスの破片へなり散った。
続く




