出会い編1-5
1ー5
まず先手を仕掛けたのは焔だった。姿勢を低くし真っ直ぐに突っ込み剣の重さを使った一撃を放った。
(ヤツはでかいからこっちのスピードには付いて行けないはず)
焔の予想通り一撃はかわされず、モルドレイクの右足にみごとに直撃した。その傷からは、おびただしいほどの血しぶきが出た。その色はこの世のものではないかと思わさせるほどに黒かった。
焔はそのまま駆け抜けて背後に回ったのち跳躍魔法の「ロンカド」を唱えてすぐさまアリスを守るように最初にいた位置に戻った。
しかし、モルドレイクはその傷を押さえたり、声を出して苦しんだりはしなかった。それどころか表情の一つも変えない。
焔はそこから一気に決めようとまたダッシュで近づき今度はこまのように一回転して最初よりも重たい攻撃を放つと、さらにそこから切り上げや斜め切りと同じ足に連続攻撃を放つ。
そのたびに尋常じゃないほどの血が出るが、それでもモルドレイクは表情一つ変えるどころか、
「そんなもんなのか選ばれし者の力は」
そう言って焔を見下ろしていた。
「なめんなよテメェ!!」
焔は半ば自棄になって叫び答えた。すると今度は立っていたモルドレイクがあぐらを掻いてその場に座った。
「死ね」
そう言って巨大な手のひらで立っていた焔を三メートル横にあった巨大な岩にたたきつけた。
焔は突然のことに受身もろくにとれずに、岩にたたきつけられた。たたきつけられた部分はクレーターのようにへこみ、その後焔が地面に落ちた後、粉々に砕けた。
焔は意識が朦朧とする中なんとか立ち上がった。
しかしその瞬間モルドレイクの巨大な鉄拳が炸裂した。
再び焔は後方に吹っ飛び砕けた岩の奥にあった、木に直撃し、またもや木は根元のほうから折れて、ドスンッ、とゆう音と共にに倒れた。
そして焔はついに気を失い、その場にうつ伏せで倒れた。口からは大量の血が流れ出ている。
無論、この後何が起こったかはまったく知らない。
ただこんな声が聞こえたことはうっすら覚えていた。
ワレニ ミヲ ユダネヨ
◇◆◇◆◇
アリスはその光景を見て息を呑んだ。
それは、モルドレイクの大きさと破壊力。悪魔でもこのサイズは副隊長クラスである。
クラスとは悪魔の大きさによって分けた「強さ」みたいなものである。
まず、魔王クラス、その次に隊長クラス、さらにその次は副隊長クラスとあり、最後に兵隊クラスである。
そして自分の目の前でまた知り合いが姿を消した。いや、命を落とした。
アリスは正直に言うと、泣きたくて、逃げ出したくてしかたがなかった。しかし足がすくんで動けなかった。
恐怖で動けないところにモルドレイクは立ち上がり一歩一歩確実に近づいた。
(私、死んじゃうんだ 無様に、体をグチャグチャにされて……あ、でもこのままつれてかれてヤツラのおもちゃにされるのかも それって死ぬより辛いんだろうな)
マイナスの言葉のオンパレードで思考回路はうまり、「逃げる」という正常な判断が出来なくなっていた。
アリスは何もせずモルドレイクを見つめていた。ちなみにさっきの回想ではここで死ぬのが唯一の望みだ。
しかしその望みもかなわなかった。
「うむ、このままでは奥にいる魔王さまに申し訳がたたん。しかたがない、この女を連れてくとするか」
そう言ってモルドレイクはアリスを巨大な右手で棒をつかむように握った。そしてそのまま立ち去ろうとした、
「グワァァァァァ!!」
……いや立ち去れなかった。モルドレイクは焔に斬られた時は声一つ上げなかったのに苦しむような声を上げた。
理由は巨大な二本の足が歩き出そうとしたら膝下からドシンと二本とも落ちたのだった。
だが、モルドレイクはうつ伏せで倒れるも、アリスはしっかり握って離そうとはしなかった。
「お、おのれ、何者だ!」
そう言って倒れたときに舞い上がった砂ボコリの方に話かけた。
するとそこからは一人の少年が歩いて近寄ってきた。
アリスは、その少年を観察してると一つの結論にたどり着いた。
その少年は右手にはあの剣が握られており、蒼い瞳の眼光は鋭く、少し長めの黒い髪を風になびかせながら姿を現した。
そこにはさっき倒されたはずの中条 焔が平然と立っていた。
そしてその驚愕の事実にアリスは驚きを通り越して不気味だとも思った。だがアリスよりも驚いたヤツが一名いた。
「なぜだ?!なぜキサマが立っている!!」
そう言うとモルドレイクは左手から黒の炎の球を出して焔に向かって放った。
しかし、焔には当たらなかった。否、斬られたのだ。真っ二つに。その淡く輝くツクヨミ という剣に。
その瞬間焔は光のようにモルドレイクの右手と距離をつめて手首から上を腕から切り離した。
それによってアリスもようやく解放される。
それを横目で確かめた焔は空中に魔法無しで七、八メートルほどの大ジャンプをしてそのまま思いっきり、剣をモルドレイクの首を輪切りするように振り下ろした。
その瞬間モルドレイクは声を上げることもなくただ、白目を見せてこの世を去った。
その瞬間アリスはとても暖かい気持ちに包まれた。これが安心感という物なのかもしれない。そして同時に違う感情も表れた。
「生きてて良かった」
アリスは無言でたたずんでいる焔のそばに駆け寄って若干驚いた。
焔の左目が、普段の黒色ではなく、それこそ炎を焼き付けたように赤かった。
さらに、普段の頼りないオーラが微塵も感じられず、むしろ頼もしいくらいに思えた。
だがそんなのもつかの間、風がふいて気をとられている間に気づいたら、普段のマヌケ顔がそこにはあった。
その後二人は相談した結果、十五分ほど休んでから奥の状況を調べることにした。
◇◆◇◆◇
二人は慎重に行動して奥に進み森の最深部にたどり着いた。そして二人は近くの茂みに隠れて悪魔達が何をしているのかを探ることにした。
「どうやら基地いや…拠点を作っているみたいだな」
「そのようね」
そんな風に二人は納得して街に伝えるために引き返そうとしたとき
「侵入者だ!!標的は人間二名!確保しろ!」
((やばい!見つかった!!))
二人は急いでそこから離れようとしたが、それは許されなかった。理由は目の前に二十五メートルは超えている巨大な悪魔が立ちふさがったからである。
その悪魔の特徴は後ろに赤色のマントをなびかせ、ドクロが先に着いた杖をたづさえ、おまけに顔を隠すように鉄の仮面を着けていた
特に目立ったのが頭の上にクラウンがついていたことである。そしてアリスが息を呑んで質問した。
「あんた、もしかして魔王?」
「なぜわかった!」
アリスの質問でもなんでもない発言を即答で認めた。そして魔王はなにやら話始めた
「お主らよく私の変装を見破ったな。そう!私こそ第二十五代魔王サンダース・ルー・ミディアムだ。」
そんな一昔前のセリフ(自己紹介)をするヤツがいるとはと二人そろって笑ってやろうかと思ったが苦笑いで受け流した。
「それじゃあ、私達街に戻るんでこれで……」
アリスがそう言い、二人で堂々と立ち去ろうとしたが魔王の大きな足に退路を塞がれてしまった。
「返さんよ 。ここで死んでもらう」
「ちょっとまったー!!」
ニコニコしながら魔王はそう宣告し、杖から魔法を放とうとする。しかしそんなのを喰らえば肉片一つ残さしてもくれないため、焔は大きな声でタイムをかけた。
「なんじゃ、死ぬ前に残したい言葉でもあったか?」
「そうじゃない 取引をしよう」
そう言うと魔王は周りにいた悪魔達を手で制して話しをうながした。
「内容を聞こう」
「はい、内容は簡単です まず魔王、あなたには人の記憶を抜くことができるとお聞きしました それは今出来るでしょうか?」
そう言うと魔王は眉をあげて、いかにも と答えた。それを聞くと焔は満足そうにうなづいて続きを話した。
「では私達二名のここにきた記憶を消して森の入り口に放置してもらえないでしょうか。そうすればただ森に入る前の記憶だけになります。つまり会うことはなかったことになります。それではダメでしょうか?」
焔の出した策に魔王はしばらくあごに手を当てて考えた後に
「よかろう。その交渉に乗った。」
「ありがとうございます。」
焔はそう言って話しを切ろうとしたが魔王が続けた。
「だが、ワシと戦い、力があることを証明できたら、約束を守ろう」
その表情にに焔は冷や汗を掻いていた。そして緊張した趣で返答した。
「いいでしょう。その条件、呑みます」
「あともう一つ、君は何とゆう名前だ?」
魔王がそう言って背中越しからたずねてきたので、焔は口調を一気に変え、不敵な笑みで名乗った。
「俺は中条 焔だ」
◇◆◇◆◇
さっきの広場に再びやってきた焔は、ツクヨミを構える。その様子を見て魔王はあごに手を当ててニヤニヤと笑った。
「ほー、聖剣か お主それが使えるのか」
「そうですが なにか?」
するとなんでもなかった要に魔王は「フヌ二ャァァァァ!!」とゆう掛け声で体を焔と変わらない人間の大きさに合わせた。
「へー、魔王ってそんなことも出来るんだな」
「関心してる場合!!」
焔が素直に関心したら後ろで杖を構えてたアリスに杖で殴られた。どうやら顔に出ていたらしい。
「うぐっ」
その勢いで焔は地面に倒れた。
あまりにも痛そうな声を上げたので、アリスはため息をつきながら、仕方がなく立たせた。
「おい、人を殺す気か」
焔がそんな言をつぶやくが、
「そんなに力入れてないわよ ほらしっかりしなさい。」
無理やり引っ張られて立たされたあげく、前に押し出された。
「若干今かわいそうだと思ったぞ中条君」
「お前には同情されたくない魔王」
そんな会話をしていると周りにたくさんの悪魔が集まって見守っている。
「それじゃあ、始めるとするか」
「どっからでも来るが良い。」
そして、焔対魔王の戦いが始まった。
まず焔がダッシュで近づき魔王に斬りかかった。しかし魔王はその攻撃を目をつぶって優雅にかわす。
焔は、それなら と言わんばかりにランダムに剣を振るったが、それでも魔王にはかすりもしない。
「そんなもんなのか中条君」
「ふざけんな!ここからだよ!!」
そういって焔は魔石に魔力を集めて剣を振った。すると剣の振った所から青く輝く衝撃波が現れて魔王に飛んでいった。
青光斬波。焔オリジナルの中距離水平斬りである。
「よっと」
しかしその攻撃も魔王は瓦割りするように手で叩き地面に当て無力化させた。
「もうあきた おしまいだよ中条君」
そう言ったのが聞こえた時にはすでに、焔の目の前に現れ、魔王は鳩尾に拳を叩きこんだ。
焔は声を出すことも出来ず、後方に吹っ飛び仰向けに倒れた。
そしてそのまま気を失ったのだった。
◇◆◇◆◇
焔が起きるとそこは何度も見たリーナの家の自分が寝起きしていた部屋だった。
「……ここは?」
一人だと思ってつぶやいたが
「起きないでくださいよ 中条さん あばら骨四本に両腕骨折、および右足骨折とゆう驚異的な怪我をしたんですから」
そこにいたのはリーナだった。どうやら怪我の手当てをしてくれたらしい。
「ありがとうリーナ」
焔がお礼を言うと続けて理由も教えてくれた。
「そうですよ。まったく、暗闇の森の崖から百メートル近くも落ちて助かるなんて……焔さんはどれだけ頑丈なんですか?」
焔は「え?」と言った顔をして聞いた。
「俺は崖から落ちてこの怪我をしたのか?」
「えぇ、そうですよ。アリスがそう言ってましたから」
焔はそう言うと、「そうですか」と言って再びお礼を言った後、眠りについた。
◇◆◇◆◇
あれから三日がすぎ、ようやく意識がはっきりして思考が回復した。
ちなみに怪我の方は、医者の話であと一週間は掛かるらしい。……だがそれでも驚異的なスピードである。なにせ、二日であばら骨二本が完治しているのだから。
そして、気づいたことが一つあった。
俺だけ魔王に会ったことを覚えていること。
……といってもコレが一番の疑問である。昨日目を覚ました時に、アリスに訊ねたのだが
「魔王?何言ってんのこのアホ面騎士。私が崖に落ちそうになった所をかばって落ちたのよ……頭でも打った?」
そして、このことから俺の立場も変わっていることが判明した。
……長くなるので会話文は省略するが、まとめてあらわすと俺は、傭兵兼魔導士アリスに無期限の月給五万円で雇われた傭兵で、アリスと一緒にアリスの親友リーナのおつかいでベリーアップルを取りに行く途中、道を間違い崖に落ちそうになった所を助けたが、自分が落ちてこの様。
……アイツの記憶操作にも若干困ったものだと焔は思った。
はっきり言って困っている。特にアリスは、毎日食事を運んできて
「お礼だから、勘違いしないでね!」
とほんのり顔を赤に染めていつもご飯をくれるのだ。しかも
「あーん」
と言ってだ!考えられるのが、あの魔王が記憶操作のとき何かをしたことである(とゆうかコレが原因と決め付ける)そしてポケットにはこんな文の手紙が入っていた。
{拝啓 中条君お元気ですか。私、サンダースは元気です。できれば強くなったあなたともう一度戦いたいので強くなって我が城にたどり着き決着をつけましょう。それではご武運を サンダースより}
はっきりいって、なんだこの魔王と思った。威厳なさ過ぎだろうとも思った。だけど同時に新たな目標もできた。
魔王、お前を必ずぶっ倒す!!!
その強い思いを胸に怪我をした右手を掲げる焔であった。
エピローグ
「べただね」
「さようです」
そんな感想を述べる君とそんな返答をする男。二人はまたまた向かい合ってそんなこと言った
「これで終わりなのか?」
君がそう質問すると男はすんなり答えた。
「えぇ、今回は終わりです」
そんな答えに君は一つの疑問が浮かんできたのでまた質問した。
「これで終わりじゃないのか?」
「いいえ、まだ続きますよ 大体、魔王を倒すまでくらいでしょうか」
それをきいた君はがっくりと肩を落とした。これは寝不足になるなと。
「大丈夫。これを見た後は脳が活性化して勉強がはかどりますから」
……余計に眠れないと言っているらしい。そして君はこれ以上ココいても仕方がないと思い立ち上がろうとしたが、その動きを止めるセリフが飛んできた。
「二週間くらいしたらまた迎えに上がります。それまでまた……」
そして君は布団から起き上がり時間を確認した。君はあきらかに二、三時間はいただろうと思ったが、布団に入ってからまだ十五分と立っていなかった。
続く




