魔王討伐編6-5
副題ー決戦ー
誤字・脱字あったら教えてください。
扉を開いてみるとそこは薄暗くて、とてつもなく広い場所だった。その先にはこの国の王が座っていたであろう王座が置かれている。そしてその椅子には一人の少年がいた。
「もしかして、お前が魔王なのか?」
二ルスが柄にも無く、疑う目線を向けながらその少年に尋ねた。すると、小学六年生くらいの少年は、座ったまま不敵な笑みを浮かべていた。
「いかにも。私が魔王だ」
「……ちっちゃいわねあの魔王」
「うるせぇぞ!小娘!!」
アリスの呟きもしっかり聞き逃さず突っ込むあたり、あんま変わっていないなと焔は思った。
「で?何用だ人間?」
「魔王、お前を倒しに来た!」
それを聞いた魔王は突然、俯き、
「フ……フフ……ワーハハハハハハハ!!」
笑いだした。そこにいた全員が呆気にとられ、立ちすくむ。
「おろかな人間よ!!歴代の魔王の中でも「最強最悪」と謳われた私を倒そうなど、ガゼルがチーターに歯向かうのと同じと思えぇ!!」
「「「「「「知るかぁ!!」」」」」」
全員でそれについて突っ込むと、魔王は俯いて
「なんだよ、なんだよ、おれだって俺だって……」
それを無視して二ルスは無言で斬りにかかって行くが、突如、魔王の姿が視界から消えてしまった。
「何!!」
「遅いな」
後ろに回り込んでいた魔王は、薄紫色に光るその右手で二ルスを背後から殴り飛ばす。
殴り飛ばされた二ルスは焔たちの横を過ぎ去り、壁に激突した。
壁はガラガラと音をたてながら砕け、二ルスは白目をむいたかと思うと、そのまま崩れ落ちてしまった。
その場にいた全員が凍りついた。二ルスの今の攻撃は今日見た中で、一番鋭い一撃だった。しかし、それをかわして反撃した魔王は何事も無かったような顔をしている。
「おいおい、まじかよ……」
クラウスは苦虫を噛み潰したような顔をし
「ちょっと、生きてる!?」
「大丈夫ですか!?」
アリスとリーナは二ルスを起こそうと体を揺らすが完璧に気を失っているらしくピクリとも動かない。
「このやろぉ!!」
「…………っ!!」
焔とミネルバは気を緩めることなくただひたすら鋭い目つきで睨みつけ、
「おいおい、不意打ちなんて酷いじゃねぇか。こっちはお前達を少しでも生きながらさせようと会話をしてやってるのによぉ……」
魔王は手を腰に当てて、その赤い瞳で吹っ飛ばした二ルスを見ていた。
「さて、もう飽きた」
その言葉に全員が息を呑んだ。そして、
「全員、くたばれや」
魔王の無慈悲な宣告が下された。
◇◆◇◆◇
「うっ!!」
「きゃ!!」
「がはっ!」
「……つぅ!!」
目の前で突然強烈な光が発生し、焔は目を反射的につぶった。その瞬間、まわりから、ここまで一緒に来た仲間の悲鳴が聞こえた。
「おい……うそ、だろ?」
焔が目を開いて見ると、そこにはアリス、リーナ、ミネルバに加え、クラウスが地面に倒れていた。
全員さっきまでなかった無数の傷がつけられ、地面にひれ伏していた。
攻撃をした魔王本人はのんきに王座の上で欠伸をしている。
「おい、何をした?」
「何って、この状況を見ても君はわかんないのか?」
焔の問いかけに、魔王は細く鋭い目つきでそう返した。
「何かまだ話すか?俺のほうはまだいっぱい用意してあるのだが」
「いや、話はもういい……お前をココで殺す!!」
次の瞬間には剣を背中から抜き去り、魔王に向かって走り出していた。
「甘いな」
だが、魔王はあせることも無く、その姿を消し去り、背後から右手で掌底を浴びさせようとした。
「くらうかよ!!」
そう言って焔は背中に剣を回して、掌底の威力を最小限に抑えた。しかし、それでもその場から二メートルほど吹っ飛ぶほどの威力だ。
地面を転がった焔はすぐさま体制を建て直し、魔王を見据えて剣を構え直す。
「ほぉ、俺の攻撃を防いだか……だが所詮は人っ子一人の筋力。いつまで耐えられるかな?」
そう言って魔王の怒涛の攻撃が始まった。
始めに、テレポートでもしたかのように突然正面に現れて、鳩尾に一撃を叩き込むと、すぐさま背後へ回り込み、前蹴りを浴びさせ空中へ吹っ飛ばす。
焔はそのまま天井にぶつけられる覚悟をしたがそうはならず、今度は空中、焔の飛んでいく斜線上に拳を構えていた。
(なんなんだよ、それ)
そのままさらに殴られた焔は、クレーターが出来るほどの勢いで地面に叩きつけられた。
「秘技、時空超越拳」
そう言って魔王は見下ろすように焔の目の前にいた。
◇◆◇◆◇
「ふぅ、これでほとんど指揮系統は麻痺しただろ……さて、加勢しに行くとしますか」
そのころ、マグヌスとエカテリネは群雲城の指揮施設をあらかた破壊しつくしていた。
そして、二人は魔王と自分の仲間たちがいる、「王の間」へと足を進めていった。
◇◆◇◆◇
そのころ、大東連合、蒼穹城の龍発着場は、ドタバタしていた。
「ちょっと!まだガスは満杯にならないの!?」
「すみません、ヴィルヘルム殿!ただいま、城の動力をフル稼動させてはいるのですが……」
すまなさそうに整備士が通信機を使って巨大飛行船、「龍の巣」に乗りこんでいるヴィルヘルムに現状を知らせていた。
「なんでもいいから、早くしな!!もう作戦予定時刻を超過しそうなんだから!!」
ヴィルヘルムは仲間達を助けるため、着々と準備を進めていた。
◇◆◇◆◇
魔王が焔を見下ろして数十秒がたったが、焔はピクリとも動きはしなかった。
「ちぇ、もうおしまいかよ」
そう言って魔王は背中を向けて立ち去ろうとしたが、
「……まてよ、そこの魔王…………まだ…勝負は…ついて……ねぇぞ!!」
そう言いながら焔は剣を地面に突き刺して、体を支えながら立ち上がった。
「何だ、まだ立てたのか……よ!」
そう言いながら魔王は強烈な回し蹴りを放ち、剣ごと、焔を数メートルほど吹っ飛ばした。
それでも直、剣を掴み焔は立ち上がる。それを魔王はしらけた目で見つめながら蹴り飛ばす。
それを五回ほど繰り返したところで、魔王はため息をついた。
「はぁ、……どうしてそこまでするんだ?そんなに英雄様になりたいのかよ」
その質問に焔は顔を上げることなく消え入りそうな声で答える。
「いいや、英雄なんて大層な者には興味ないよ。ただ、」
「ただ?」
そして焔は傷だらけの体で、できるかぎりの大きな声で言い放った。
「自分がこの後の人生を楽しむために、倒すんだよ!!」
魔王は不敵な笑みを浮かべている焔をみて恐怖した。理由は今まで、魔王を倒してきた英雄達はそんな笑みを浮かべていたからだ。
それが、圧倒的な不利な状況も覆すということも。
(フ、どうやら、死亡フラグがたったみたいだな……)
そして魔王も同じような笑みを浮かべ、
「だが……ただで負けるかよォ!!」
そして再び、拳と剣が火花を散らしぶつかり合った。
◇◆◇◆◇
マグヌスとエカテリネが部屋につくとすさまじい光景が広がっていた。
焔が剣を振るう。
魔王は瞬間移動で回避し攻撃へ転じる。
焔はそれを体の動きと消えた方向だけで、的確に防御し、拳でカウンターを入れる。
まさしく一進一退の攻防が繰り広げられていた。
剣士として鍛えていたエカテリネの動体視力を持ってしても追うのがきつい。
(援護したいのですが……無理っぽいですね)
そんなことを考えながら目を慣らすために二人を追っていた。
マグヌスも介入するのを諦め、周りで倒れている仲間の救助に走っていった。
◇◆◇◆◇
焔は二人の登場に気づきはしたが、声を掛けれる余裕など皆無だった。
もう体は悲鳴を上げている。間接が今にも外れそうだ。しかし、焔はそれを心のどこかで楽しんでいた。
だから、気づくことができた。魔王の瞬間移動のからくりを。
(ハハハ、そりゃ、わかるわけないわな。まさしくゼロ秒で移動しているんだから)
そして、大きく周りを切り払いながら、後退する。
それを見ていた魔王は不思議そうな顔をするだけで、追撃はこなかった。どうやら、警戒しているらしい。
そして、焔はさっきから頭に流れこんでくる言葉を言った。
始まりはあるが、終わりのない世界。
そんな世界は実につまらないだろう。
だから今終わりをつげよう私の手で。
その瞬間、視界が白い光で多い尽くされた。
◇◆◇◆◇
魔王はその瞬間、鳥肌がたったのがわかった。そして、冷静さを欠く。
(おいおい、なんだよこれ!意味がわかんねぇぞ!!)
だが、なんとか自分を押さえ込み、冷静さを取り戻す。
(そうだ、落ち着くんだ。ここはいったん距離を……)
そして、自分の能力を発動させた。だが、時は止まらなかった。(・・・・・・・・・)
(あれ?)
そして、その瞬間、目の前に現れた、天使によって意識は刈り取られた。
◇◆◇◆◇
傍観に徹していたエカテリネはただ呆然としていた。
なぜなら、焔が何か言ったと思ったら、倒れ、その体から白い光がでたと思ったら、そこから、大きな白い羽を背中につけた美しい女性の天使が現れたからだ。
そして、焔の持っている剣と良く似た剣を振るい、魔王を壁まで吹っ飛ばした。
壁に激突した魔王はそのまま地面に倒れている。
それから間もなくして、天使は再び光の玉へとなり、焔の体の中へ戻って行った。
「……これは勝ったのか?」
マグヌスはエカテリネが思っていたことをそのまま口にしてくれた。
その後、焔はすぐに起き上がり、魔王が倒れているのを確認した後、倒れているみんなに駆け寄る。
「おい、みんな大丈夫か!?」
その声に一緒にいたメンバーは
「うん、まぁなんとか、かな?」
「わるいな。すぐにやられて」
二ルスとクラウスが返事を返す。
「もぉ、大丈夫じゃないわよ!」
「そうですよ!いくらなんでもボロボロになりすぎですよ!」
「…………私達より、自分の心配」
アリス、リーナ、ミネルバの三人がそれぞれ声を掛けてくれる。
「そうか…………なら、よかっ……た………………」
焔はそれを聞いて安心したのかその場に倒れてしまった。すぐにアリス達が駆け寄りその体を抱え込む。
「もう……無茶しすぎなのよアンタは……」
そう言ってアリスは焔の顔を自分の胸にうずめるような形で抱きしめた。
そして、幕を閉じ…………
「させるかよ!!人間!!!!」
そんな怒号と共に、魔王がどす黒いオーラを放ちながら浮き上がった。
全員が振り向きその姿をみて、畏怖した。
その姿は右目と右腕さらに右足が跡形も無く消え去っており、見るも無残な姿だった。
そんな状況で魔王は呪文を唱えた。
我、人を憎み忌み嫌う者
その長たる者が命じる
対価は我が心の臓
その対価を持って、我が宿敵をこの世から消し去らん
そして、その魔力を手の平に集め、
「死ぬよりつらい目にあわさせてやるよ!ナカジョウ ホムラァァァァァァ!!」
焔にぶつけた。
次の瞬間、焔は体中にひびが入り始めた。まるで、ガラスが砕けるかのように。
「……テメェ!!」
二ルスが鋭く睨みつけながら、自分のダガーを投げつけるが、魔王はそれを拳一つでなぎ払った。
そして、力尽きたかのように、その場に倒れた。倒れた場所からはおびただしいほどの血が流れている。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!!」
「目を覚ましてください焔さん!!」
「ホムホム!!」
アリスやミネルバ体を揺さぶるが起きずにひび割れたところから白い光が上へとのぼっていく
「おいマグヌス!!この魔法解除できないのか!?」
苛立ちをはらんだクラウスの声がその場に響きわたる。
すぐにマグヌスが近寄り解除を試みるがことごとく無効化され散ってしまう。
「ダメだね……こんな魔法見たことがない」
その瞬間アリスは泣き崩れた。大切な人がその場で死ぬ。それは彼女にとって屈辱で、もっとも嫌いなことだった。
「おいおい、泣くなよ」
だがその瞬間、その場の全員が息を呑んだ。
そんなことをさせた焔は弱々しい声でアリスの頬に触れる。
「俺は必ず戻ってくるよここに」
「勝手なこと言わないでよ!」
そう言ってアリスは焔の胸の中に顔をうずめる。それを焔はやさしく微笑みながら、髪を撫でた。
「そうだな。今のはゴメン……だから、最後くらい笑ってくれよ。な?」
その声にアリスは静かに
「うん」
そして、今度はリーナの方に顔を向ける。
「リーナのシチュー旨かったぜ。今度はレストランでも開いてみたらどうだ?」
それにリーナは手を口に当てながら涙声で
「はい。考えてみますね」
そして、残りの力を振り絞るように顔をミネルバへ向ける。
「わりぃな、剣術最後まで教えてやれなくて……もっと精進しろよ」
ミネルバは泣くことはしなかったが、やさしく微笑み
「……はい」
そして、焔は目を瞑った。そして、最後に周りにいる仲間全員に聞こえる声で言った。
またな。
そして、光の粒となって空中へ霧散していった。
◇◆◇◆◇
そのころ、戦闘の発生している橋では数で魔物に押され始めていた。
「だめです隊長!これ以上は……」
「あきらめるな!!これ以上下がれば街の住民が危険にさらされる!なんとしてもココで食い止めるんだ!!」
そういった声が聞こえるほどに追い詰められていた。
だが、魔物たちの攻撃が突然止まった。
それから間もなくして、そのまま来た道を引き返し始めた。
「魔王がやられたのか?」
兵士の一人がそう呟いたのをきっかけに、その場にいた全員から歓声が上がった。
「うおしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「勝ったんだ!!俺達は!!!」
そして、その数分後作戦本部より、「作戦終了」の信号弾が上空へ放たれた。
魔王討伐編 完
次回、ついに最終回!!
次回はエピローグです!!
では!
by音無