サマースクエア編3-1
サマースクエア編 3-1
「ねぇ、旅行しにいかない?」
きっかけは四人で紅茶を飲んでいる時のアリスのそんな言葉からだった。
「どうしたんだ急に……熱でもだしたのか?」
焔がからかう口調でそう聞きなおすと、
「う、るさいわね!別にアンタを誘っているわけじゃないんだからいいでしょ!」
と否定されたので焔は、「あ、そう」と少しふてくされ気味に返事をして紅茶を口にした。そこに紅茶のおかわりをよそってきたリーナが話しに加わる。
「いいですね旅行、いくならどこにいきます?」
リーナの質問にアリスはあごに手を当てて少し考えてから
「やっぱ、この時期なら海がいいんじゃない?」
ちなみに今は、デジエンス・タウンの事件から二週間が過ぎていて、大量の雨が降る時期もちょうど過ぎ、夏本番を迎えようとしているところだった。しかし、そこにミネルバが少し困った顔で問いかけてきた。
「でも、陸路の方はデジエンス・タウンの被害からあの一帯は封鎖されているんじゃ……」
そんなミネルバの質問もリーナは自身満々の顔で対応した。
「心配は要らないわ、この時期はこの街の港から出てる客船で三日でいけるから」
そしてその言葉から他の女子二人も乗り気になったようで、口々に「行こうよ 行こうよ」と言った。
「という訳で、アンタも四日以内に準備してね」
「へ?」
突如話し振られた焔はとぼけた声を上げてしまった。そんな反応にアリスはため息をついて
「当然でしょ、私が行くならあんたもついてくるのよボディーガード、」
そういわれ背中を叩かれた。焔は一瞬矛盾を感じたがなかった事にしてその旅行についていくことにした。
◇◆◇◆◇
「あんた大丈夫なの?」
「本当の本当に大丈夫なんですよね焔さん」
二人の心配する声を聞きながら焔は船に揺られていた。否、揺らされていた。
「心配しなくていい…………もうじき治る」
あの計画の話をした日からすでに四日が過ぎており、港の客船に乗り始めて十分が過ぎようとしていた。そんな中、焔は船に乗って動きだした瞬間一気に気分が悪くなって部屋で寝込んでいた。
「しかし、中条さんが乗り物に弱いだなんて以外でした……」
「まて、ミネルバ、それは断じて違う、船は旅で何度も乗っている」
そう、別に焔は乗り物に弱いわけではない。ミネルバやほかのみんなも気になって焔のこうなった理由(言い訳)に耳を傾けた。
「ここに来るまでの途中にたくさんの店があっただろ?薬局やら、果物屋やら」
その問いかけについて全員がうなずいて答える。それを確認してから弱々しい声で続きを話した。
「その途中の薬局で万が一のために傷薬を少し購入したら会計の人が「サービスですぜ旦那」って言って錠薬をくれたんだよ、したっけそれが一定だけだったから俺が飲んだんだよ……それからだ、こんなことになったのは」
そうしてすべてを話し終えたころにはもう体調が戻っているのを確認した焔はベッドから起き上がって立ち上がった。
「まだ、だめですよ~、おとなしくしていてください!」
そんなリーナの声も
「大丈夫、大丈夫もう平気だから……よっと」
そう言葉で制して地面(船の床)から十五センチあるベットから空中で一回転して地面に降り立った。その姿をみて全員が冷たい目線を送ってきたが、焔にはその意味がまったくわからなかった。
◇◆◇◆◇
移動日一日目、リーナと共に
俺は「私と一緒に行動しなさい!」と言う雇い主の言葉を跳ね除けて、看病してくれたお礼としてリーナに今日は付き添うことにした。
この客船は、デッキにプールを管理し、中にはレストランやお店も管理しているものすごい客船である。だが、実際のところは俺の第六位というコネを使って乗らせてもらっているのだが、そんなことは話すこともできず、
「しかし、焔さんって顔が広いんですねー 驚いちゃいました。この豪華客船の船長さんと知り合いだなんて」
「おう、まぁな」
と言った理由で納得してもらっていた。まぁ、別に罪悪感とかないんだけど……とりあえず今後予定を聞かなくちゃな。
「ところで、このあとどうするんだ?なにか買ってほしいものでもあるか?」
俺がそう聞くとリーナは人差し指を顎に当てて数秒考える
「そうですねぇ……あ、明日プールで遊ぶんで水着買ってくれますか?」
そうして答えはそう返ってきた。俺はもちろんうなずいて、二人で水着の売っている店に入った。
「こんなのどうですか?」
「つっ!……い、いいんじゃないか?良く似合ってると思うぞ」
そう言ってリーナが試着室で着替えてきた水着をこっちに見せてきた。その水着は上下綺麗な白色で胸の中心には金色に輝く輪が水着をつないでいる少々大胆なのだった。しかも、リーナの綺麗なボーディーラインと、水着と金色の輪のせいで強調された胸が目に入ってしまい、俺はとっさに別の方向に目をそらして返事をした。
「それじゃあ、この水着にします~」
リーナはそう言って試着室の中に戻って元の旅行用に用意した、緑が中心のロングスカートに着替えて出てきた。それから会計を済まして、二人は昼食を食べるために集合場所のレストランに向かった。
昼食を食べた後はそれぞれ自由行動だったため、部屋に戻って俺は寝ることにした。しばらく横になっていると、扉をノックする音が聞こえたので俺は扉の近くまで行き、念のためチェーンロックを静かにかけて、扉を開けた。そこには大きく目を見開いたリーナが、開けた扉のわずかな隙間から覗き込んでいた。
「どうしたんだ急に?」
俺がそう声をかけるてチェーンロックを解除して中に入るように促したが、リーナが数歩後ろに下がって手招きをし始めた。俺は理由もわからず、一応扉に鍵を閉めて近づいた。それを見た瞬間リーナはため息をついた。さらに指を右の方に向ける。俺はそっちの方を向いてしまい不覚にも後ろを取られて、いつも(新調)のコートの襟をつかまれひきづられていった。
「おい!何をするんだよリーナ!」
「黙って、着いてきてください」
そんな質問もむなしく、俺はされるがまま、引きづられていった。
ひきづられて、五分少々、ついたのは男物の服を取り扱っているお店だった。
「なんで、こんなとこに来るんだよ」
そんな質問にまたリーナはため息をして理由を教えてくれた。
「いいですか焔さん、今私達は何をしにココへ来ていますか?」
俺はそんなのあたりまえだろと言った風に若干堂々と
「バカンスに決まっているだろ」
と答えた。リーナはそのまま話を続けた。
「では、私たちはどんな服を着ていましたか?」
それは……と、頭に思い出しながら答えを返す。
「そういえば、街の外に出る時のような服を着ていたような……」
そう、リーナも普段の服より、上半身(特に肩付近)の露出が少しだけ増えていた。さらにココにはいない他二人も普段着ている街中では目立つ固そうな服から、街で歩いても違和感のないような少しラフな格好をしていた。
そして、その瞬間リーナは声を強くして言った。
「じゃあ、どうして焔さんはいつもの黒一色なんですか!?」
……俺はよくよく考えると俺だけいつもの黒コート、黒ボトムの黒一色だったことに気がついた。
「……そういえば、そうだな」
思わず口に出した。それほど違和感がなかったからだ。しかし、気づいたからどうしろと。と言った目をリーナにやると、今度は服の店に指をだして言い放った。
「焔さんをこれからコーディネートします!!」
――――――それから二十分、俺は黒コートから一転、白色のパーカーで下はごく普通の膝下までのジーンズを着た。いや、着る様に指示された。そして俺の部屋に他の二人も集めて、見せられるはめになった。そして見せられた二人は
「へー、あ、アンタも服を変えたら印象が変わるのね、し、知らなかったわ、」
とアリスが顔を赤らめて動揺を隠せず噛みまくって賞賛し、
「……いい、すっごくいい、むしろ一生そのままがいいくらい、」
……両手を頬に当てて、うっとりした表情でミネルバはこっちを見ている。
俺は「もういいか?」という目線をリーナに向けたが首を横に振られてしまい、この状況からの脱出を諦めた。
それから俺は、小一時間、熱い視線を一身に受け続けた。
そして夕食を食べた後は、それぞれそのまま部屋に戻ってその夜は終わるはずだったリーナが来なければ。
誰かがノックをしたと思ったら「リーナです 入ってもよろしいですか?」と声が聞こえてきたため、俺は、いいよの一言で部屋の中に入るように促した。そのリーナの格好はすでに寝巻きのようで、パンダの書かれた、かわいらしい服を着ていた。
「どうした?」
俺がそう尋ねると、リーナは少し、顔を赤らめてこっちを向いて消えるような声でたずねてきた。
「私、今日………………ったですか?」
「え、なに?もう一度言ってくれないか?」
俺がそう聞き返すとさらに顔を赤くして今度こそ聞こえる大きさの声で聞いてきた。
「きょ、今日の私はかわいかったですか?」
俺はどうしてそんな質問をしてきたかわからなかったが、安心させるような目をするよう心がけて、リーナを見て、少し笑みをうかべながら
「もちろん、かわいかったよ。リーナが綺麗でかわいくないことなんか今までなかっただろ?」
と素直な気持ちを言った。そう、そう言っただけである。その瞬間リーナはなぜか、「きゅう~」と言いながら、そのまま倒れてしまった。仕方がなく、焔はリーナが手に持っていたカードキーを使い、部屋へなんとか送り届けた。
……そして船の旅は二日目へ
新章、サマースクエア編の始まりです。舞台は、海の街、「ウェィヴタウン」、そこでは、乙女達の戦いが幕をきられた。
ぜひ、楽しんで読んでください 音無 桐谷