第4話:名前教えてよ!
「私を夢から…ここから出してください!」
寝起きのベッドの上、立った状態の少女を俺はただ呆然と見つめていた。
言っていることが理解出来ない。ふざけているのだろうか、からかっているのだろうか。
そんな考えはすぐに崩れ落ちた。
少女はいたって真面目な表情でこちらを見ている。そして呆然としている俺に向かって深々と頭を下げた。
「お願いします、助けてください!」
ふざけているようには聞こえなかった。頭を下げたままの少女の肩が小刻みに震えている。
「あの…顔上げてください…」
「はい」
「えっと…俺に出来ることがあるなら協力…?しますよ」
「ほんとうに!?」
少女は目を見開く。
「え…あ…はい。」
異性と話をすることに慣れていない俺はどうしてもぎこちない反応をしてしまう。情けない。
しかしそんな俺の返答でも彼女は嬉しかったのだろう。こちらにいまにも飛びつきそうな勢いで近寄ってきた。
「やった!ありがとう!!」
少女の満面の笑みに思わず俺も笑ってしまう。人懐っこい笑顔。
「えっと…俺はどうすれば?」
「わかんない」
「え?」
「わかんないの…。」
少女曰わく、少女自身もどうして夢の世界にいるのかがよくわからないらしい。気が付いたら夢の世界を放浪していたそうだ。
ちなみに俺はその夢の世界とやらにいるらしいのだが実際はよくわからない。いつもと同じ俺の部屋にいるようにしか感じられない。
「夢の世界だよ。外、見てみなよ。」
少女に促され、俺は部屋のカーテンを開ける。
そこには見慣れた景色があった。
俺が散々見てきた夢と同じ、あの暗闇が。
「…ね?」
「これ…俺がいつも見てた夢の…」
「そう。梗也くんがずっと見ていた夢…と言いたいんだけど、本当は私が見せてたの。」
「え?」
そんな能力持ってるのかよ。だったら暗闇じゃなくてもっと幸せなもの見せてくれよ…。
「だって…こうやって夢の中だってことを示すときに楽でしょ?今まで何人か夢に干渉出来る人にで会ったけど夢の世界にいることを信じてもらえなくて干渉できなくなっちゃった人がいたから…。」
「なるほど…夢の世界に干渉出来るのって俺だけじゃないんだ」
「うん。そもそも夢を見れる人は干渉出来る可能性があるの。そこで私が夢の中から声をかける。その声に気が付いて反応出来た人は夢に干渉出来たってこと。」
「干渉…か。大体どんなことが出来るとかわかるの?」
「それは試してみないとわからないかな…。私も夢に干渉出来る人、3人しか知らないし。」
「少ないな。」
「うん…。」
少女は外の暗闇をぼーっと見つめていた。今まであったことを思い出しているのだろうか。夢の世界に入ってからどれだけの時間が経っているのだろう。どれだけの人の夢を渡り歩き声をかけてきたのだろう。
暗闇のずっとずっと奥を見つめるような少女の目から、相当な時間が経っているような気がした。
「ねえ」
少女は暗闇を見つめ続けながら俺に言う。
「なに?」
「さっきから気になってたんだけどさ…」
「……?」
「早く服着なよ。」
俺の頭の中で少女の声が巡り始める。
服…服を…?服を着る?さっきから…?
そこで俺が絶叫したのは言うまでもない。
「俺!なんで服!着てなかったの!?」
「知らないよ…」
「え?童貞は!?初ちゅーは!?」
「何言ってるの…?」
「え?だってキス…」
「してない」
「え?」
「してないよそんなの。」
「じゃああれは…」
「何のこといってるの…?」
「じゃあ…童貞…服は!?」
「現実と夢の間通るときにでも無くしたんじゃない?よくあるよ。」
「あるの!?よくあることなの!?」
「まあ…私が見てきた人は全員そうなったし」
自分が恥ずかしくては仕方ない。騒ぎまくっていたのが馬鹿みたいだ。いや、馬鹿だけれども。
俺は恥ずかしさを隠すように服を着、少女に向き合う。
「これからどうするんだ?」
「とりあえず夢の世界から出る方法を探したいかな…。」
「おう。」
「戻れるといいな…今度こそ。」
「俺も何が出来るのかよくわかんないけどやれることは協力する。戻ろう、一緒に。」
「うん…ありがとう。」
既に涙ぐんでいる少女に笑いながら「まだ早いだろ」と突っ込みを入れる。
少女も笑い返してくれた。
「そういえばずっと聞きたいことあったんだ」
「なに?」
「名前教えてよ!名前!」
「あっ…」
ここまで話しておいて俺は少女の名前を知らなかった。実はずっと気になっていたのだ。
「新島夢乃」
こうして夢乃と俺の旅は始まったのだった。
ここまででやっと序章のようなものが終わりました。ここまで読んでくださった方々ありがとうございます!
ちまちま更新でまだまだ続く予定ですがよろしくお願いいたします。