第3話:私をここから出してください!
耳鳴りがする。
周りの音は何も聞こえない。ただただ脳を抉るような耳鳴りの音だけが響いている。
頭が痛い。
内部から破壊されているかのような鈍い痛みが脈を打つように俺を侵食する。
身体が動かない。
感覚がない。痺れて動けない感覚とも何かに押さえつけれている感覚とも違う。
そこにあるのはただの“無”であった。
重いまぶたを開け眠りから醒める。
視界に広がっていたのは見慣れた天井だった。間違いなく自分の部屋だと認識出来る。
俺は学校に向かったはずじゃなかっただろうか。
その途中、ここ最近見ていた夢と同じ世界にいて、いつも聞こえていた声の主に出会って、それで……。
俺の背中に冷や汗が流れる。
「俺…キスした…っ!?」
がばっと布団をめくりベッドから飛び起きる。
そんなまさか。
「俺の…初チュー…」
確かに美少女だった。それに唇に柔らかい物が触れる感覚は今も覚えている。
俺は慌てて自分の姿を鏡で確認した。顔は変わりないが1つ大変なことがある。
服を着ていない。
「なんで…服着てない…」
「あの…」
「まさか…まさか俺の童貞が…!!」
「あのう……」
「確かに可愛い子だったけど何で俺の記憶が無い間に…」
「あのっ…」
「いやでもあんな美少女に俺の童貞奪われたならそれはそれで…」
「あのっ!!」
「ねえちょっとさっきからうるさ………うわぁぁっ!?」
そこにはなんと、俺から初キスと童貞を奪ったと思われる例の少女がなんとも申し訳無さそうな顔をして立っていた。畜生、相変わらずかわいいな。
「あの…大丈夫…?」
少女は俺の顔をのぞき込むように見ながら言った。
何このラノベ展開。このまま旅出たりしないよね?
「あの…」
「だっ…大丈夫じゃないですっ!」
思わずそう答えてしまった。
「大丈夫…じゃないの?」
「じょ…状況把握ができません…」
「え?」
「えっ…?」
少女は困惑したような顔でこちらをしばらくみつめると、納得したように頷き俺から少し離れた場所に立ち直した。
少女の現実離れした淡く輝く黄色い瞳が俺をとらえる。
「私達の世界へようこそ、一ノ瀬梗也くん!」
満面の笑み。やはり状況把握ができず呆然とする俺を見つめ続けながら少女は話を続ける。
「ここはあなたの夢の中。私はずっとあなたを探していたの。」
……どこのラノベですか。この子頭大丈夫ですか。
「私は夢を渡り歩くことができる。そのかわり夢から出ることが出来ないの。だからあなたを探していた。“夢に干渉する”ことができるあなたを!」
俺そんな能力あるんですか?
「お願いです、私を夢から…ここから出してください!!」
意味不明な話になりつつあります…申し訳ないです。