第2話:春ですか?
闇の中から浮かび上がるように少女はそこに立っていた。
肩まで伸ばした薄紫色の髪に黄色く光った瞳。どこにいっても通用するであろうレベルの美少女。俺は思わず息を呑んだ。
「ねえ…」
先程までと違い、今度はいつも人間と話をしているのと同じように声が聞こえた。
「見えてる…の?」
「あ…ああ。」
少しだけ首を傾げて質問してきていた少女の顔が笑顔にかわる。すさまじくかわいい。一瞬おばけじゃないかと疑った自分が恥ずかしくなる程にかわいい。それに足もちゃんとある。おばけなどではない。
とうとう俺の青春にも春が訪れたようだ。
そんな思考に浸っていると、少女はまるで小動物のようにこちらへ駆け寄ってきた。
「見えてるの!?見えてるのっ!?ほんとに!?」
少女は瞳を輝かせながら俺の手を握ってくる。俺は少しうつむきながら頷いた。
「やった!やっと成功した…!!」
心底嬉しそうに笑いながら少女は俺の顔を覗き込む。俯いていた俺と目が合うと少女は笑顔を崩すことなく顔を近付けてきた。
吐息がぶつかる。それがおかしな状況であることを考える隙も抗う隙もなく、お互いの唇が触れ合うのを感じた。
そこからの俺の記憶は存在しない。