第1話 私の声が聞こえているの?
「はぁっ…はぁっ…」
暗闇の中を俺はただひたすら走っていた。
足は重い。ここまで一体どれだけの距離を走ってきたのだろうか。
「はぁっ…っあ…」
息切れは増していく。
どこへ向かえば良いのかもわからない。どこから来たのかも、ここがどこなのかもわからない。
俺は、何から逃げているのだろうか。
「…す……て……た……けて…」
声が聞こえた。
幼い少女のようなか細く高い声だ。
「た…すけ……て…」
ひどく耳障りにその声は響く。まるで俺の脳に直接響いているかのように。
やめてくれ。
そう何度念じようと声に出そうと、声は止むことはない。
声の不快さとどこからともなく襲ってくる不安感を隠すように俺は走りつづけた。
♦♦♦♦♦
「梗也ー!きょーうーやー!朝よ!起きなさーい!!」
うん…あと5分…
「梗也ったら!学校遅れちゃうわよ!」
うん…あと10分…
「梗也!!」
母に布団を剥がされてしまった。眉間に皺を寄せ「怒ってます!」と言わんばかりに腰に手をあてた母がほほを膨らましてこちらを睨んでいた。
「梗也!朝よ!」
「うん…眠い」
「梗也!」
「なに、母さん」
「朝ご飯なにがいい?」
「ねえそれ今聞くの!?もう学校いかないとヤバい時間じゃないの!?」
「そうなのよねぇ…お母さんったら考え込んじゃってまだ朝ご飯作ってないの!」
……この人何がしたいんだろう。
朝ご飯のおかずについてひたすら悩み続ける母をなだめつつ俺は学校へ向かう準備をする。気がつけばもう7時。このままだと遅刻する。
新学期から早2ヵ月。そろそろ着慣れた制服に袖を通し、髪型を整える。高校生にもなるとまわりも身だしなみを気にし出したりするが俺はあまり興味がなかった。ぼさぼさの頭をかるく整え顔を洗う。
リビングに戻ると母は未だに朝ご飯のおかずを何にするか考えていた。いつまでこの人は考えているつもりなのだろう。
7時30分。俺は1人家を出た。
俺、市ノ瀬梗也は今年で15歳になる。
高校にも進学し素敵な青春を謳歌するつもりでいたが、俺を待っていたのは山積みの課題と連日行われる試験ばかりだった。単純に近いからという理由で高校を選んだ結果入学したのは進学校。俺の人生最大のミスだった。
通い慣れた地元の商店街を走り抜ける。
俺がまだ小学生だった数年前は人の多く集まる賑やかな場所だったのだが、ここ数年ですっかり廃れてしまった。
そんなことに対する寂しさを紛らわすように俺は足を早めた。
その瞬間だった。
視界が眩む。
バランスを崩したのだろう。身体が前に倒れるのがわかる。地面に接近する。
転倒すると思い目を閉じようとした。
しかし俺が自らの瞳を閉じる前に俺の周りは漆黒に包まれた。
文字通り“漆黒”
何もない、ただただ暗闇が広がっていた。
パニックにもならなかった。
俺からしたら見慣れた光景だった。
漆黒の中、何もなく何も見えず何も聞こえない。
その光景はここ数週間俺が見続けていた夢そのものなのだ。
「……け…て……す…て…」
少女のような、か細く高い声が聞こえる。
「た…す……て…た……けて…」
助けを求めているのだろうか。よく聞き取れない。
「たす…け……て…!」
そもそもこれは、俺に向けられた言葉なのだろうか。この声の主はどこにいるのだろうか。
「あんた誰だ?どこにいるんだ?」
ふと、前々から疑問だったことが口からこぼれていた。
「聞こえ…てるの…?」
応答があった。怖い。おばけだったらどうしようか。俺おばけの対処法とか知らないぞ。
「ねえ…聞こえ…てるの…!?」
心底驚いたような声だった。
「あ…ああ。聞こえてる…。」
正体不明の声に対する恐怖心からか、情けないほどに俺の体はふるえていた。
「前…あなたの前にいる…!!」
おばけ(?)の声につられて俺は前を見た。
今まで何も見えなかったはずの暗闇の中、同年代と思しき少女が1人立っていた。
初投稿になります。文章力無い上にノロノロ連載ですがお付き合いいただけたら幸いです。感想、アドバイス等くださると嬉しいです。失礼いたしました。