捕われの塔
あたしは遠野朱里。高校1年の15歳。おそらく休学中。
「神隠しにあって消えちゃいたい」
なんて言ったせいか…あたしの住んでいた世界とは別世界に飛ばされてしまった。
本気じゃなかったの、ごめんなさい。しても帰らせてはくれないみたい。
それどころか、今この異世界で、ドラゴンによって捕獲拘束されてる始末…。
ドラゴンの化身であるリオは、すっっっごくキレイな同い年くらいの男の子で、初め、天に召されたと勘違いしたあたしは、本気で天使かと思った。
でも、実際はあたしが気を失ってる間に‘主従の首輪’はめてくれちゃってる悪魔だったんだよね。
竜鱗を細かく砕き、蒼く輝く宝石のようにした粒を全面に散りばめた革のチョーカーが、あたしの首にぴったり張り付いている。
単なるアクセサリーとしてみれば、満天の夜空を思わせる光を放つ魅力的な逸品なんだけど…あの悪魔への服従効果付きの、いわゆる呪われたアイテムだから、魅力暴落だよ。
さて、目が覚めてから半日程が経過。
外界との唯一の接点が天窓という、石造りの何もない小部屋でずっと放置されているあたしには、この世界がどうなっているのか分からない。
魔法の存在するファンタジー色濃厚なのを、勝手にイメージしているけど、実際どうなんだろう?
お腹も空いてきたし、薄暗くなってきたし、あまりに情報が無さすぎて、ドラゴンに捕まってる現在の立ち位置が、吉か凶かも判断つかないし…。
そもそもドラゴンにとって人間は、いざという時の食料にもされちゃう対象だったとしたら?
…怖っ。大凶確定だよ~。
「隙をみて、逃げ出すしかないかな?」
せわしく動かしていた指を休めると、手にしていた携帯を閉じ、朱里は天を仰いだ。小さな天窓に四角く切り取られた空が、徐々に闇色へ移ろうとしていた。
「逃亡を謀るつもりですか?」
突然に部屋の大気が乱れ、風が起こった。
「え!?…何?!」
ふわりと舞い上がった黒髪…その隙間から、天使な姿で悪魔が語りかけてくる…。
「逃亡など、主に逆らった場合‘主従の首輪’が首を締め上げますよ。憶えておいてくださいね」
不条理な異世界の洗礼を前に、朱里は絶句するしかなかった…。