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ユメウツツ  作者: にこ
序章
3/17

追われし者、何を憂う

 大地を蹴り、自らの上背の数倍の跳躍を果たすと、カイルは最後の獲物を眼下に捉える。そして、降下の勢いを剣にともなって、真上から死霊の騎士を貫いた。


「はい、終了」

 

 こうして招かざる来訪者すべてが、無に帰す。

 そして、再び静寂を取り戻し安堵する森には、甘い花の香りが溢れていた。

 

 カイルは既に色の失せた剣を鞘に戻すと、香りに酔ったのか、疲労からか、その場にあぐらを組んで座り込んだ。


「どうかしましたか?カイル」


 手に、カイルが脱ぎ捨てたマントをたずさえ、心配そうにリオが駆け寄ってくる。


「死霊の騎士送り込んでくるなんて…あいつ、俺達のこと本気で殺す気か?」


 肩を落とす姿に、勝利の余韻に浸るそぶりは、全くない。

 

「俺達ではなくて、カイルだけですけどね」


「!!…お前も同罪だろ!」


 リオの連れない返答に語尾を強める。


「同罪なものですか。僕はお守り役として、カイルに同行しているだけです。婚約者であるシンシア様を捨てて、追われているカイルとは違います」


 確かにリオの言うとおりなので、カイルは反論できない。それを確認して、リオはさらに続ける。


「婚儀の日取も決まって、一生安泰が約束されていたのに…なんとも愚かな事をしたものですね」


 リオは、深いため息を吐き出しながらフードを外すと、いまいましい現実を追い払うかのように頭を振った。肩に届く金の髪が左右に揺れる。そして、高貴な血を宿した端整な顔立ちを、憂いの表情で飾った。


「俺は…!」


 何とか搾り出した一声。


「俺は幼馴染おさななじみのシンシアと婚約してたんだ……」


 今にも消え入りそうな呟き。

 暗闇に向けられたカイルの横顔は、そこに存在し得ない、遥か遠い景色を見ていた。

 

「シンシア様が魔王となられた今も、幼馴染であることに変わりはないでしょう?」


 カイルの返答は無い。しかし、リオもいさめる言葉をそれ以上、並べはしなかった。

 今更、何を語ろうとも、故国を脱した過去は居座り続け、消え去ることはないのだから…。


 

 小国の姫にすぎなかったシンシアが、魔王に覚醒したのは、三月程前。

 

 いまや、大陸全土が、彼女の足元にひざまづいていた。

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