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ユメウツツ  作者: にこ
序章
15/17

虹の去りし地で

 街は、瞬く間に荒野と化した。それを形成していたものたちが慌しく去り、乾いた土地を剥き出しにする。彼らを追い出したゴーレムもまた、姿を無くしていた。

 ただ、ふたつの人影が吹き荒ぶ風にその身を晒している。


「帰りが遅い故、迎えに来てやったぞ、カイル」


 風に誘われるままに、少女の柔らかな白髪がカイルの頬をくすぐる。


「……魔王よ。何故、私を求める?」


 眼差しを交わさぬ自分を拒絶する者を前に、彼女は微塵も揺るぎはしない。


「何故? ……愛する者を求めるは、おかしなことか?」


「それは……あなたの器となった姫の想いにすぎない」


「だからどうだと言うのだ? わらわがそなたを愛する一因となっておるだけであろう?」


「……その愛は偽りだと申しているのです。聡明なる我等が魔王よ、いつまでも小さき人の亡霊に囚われていてはなりませぬ」


「そなたの言葉こそ、真を語らぬ偽りではないか? わらわを愛せぬと正直に申したらどうじゃ……愛しき姫の体を奪うた、憎しみの対象でしかないとな」


「まさか、あなたを憎むなど……! 私は……」


 続かぬ言葉。それは、カイルが閉ざしてきた葛藤の先にこそ見える真実だった。しかし、彼はそこへ踏み入ることを拒む。菫色の瞳を見返すことを、ひたすら恐れていた。


「もうよい。そなたの心の内に興味はない」


 双方の意見が歩み寄りを見せない以上、物事は力ある側の采配にゆだねられる。


「!?」


 空を切る音が止んだ。それは風の消失……。そして、カイル自身が風のある領域から消え去った証でもあった。

 今、幾重にも積もった薔薇の絨毯の敷かれた花園へ、彼らは降り立っていた。

 

「……さて、急ぎ文を送らねばのう」


 二人の足元に伏していた花びらが、命を受け、ひらひらと羽ばたき、互いを呼び寄せ重なり合う。それらは真紅の蝶の群れとなり、きらきらと光の粒を降らせながら四方の空へと溶けていった。

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