そこに在るもの
出てくる人達
一色透太 とある田舎の拝み屋さん。家電と相性悪い神さんが憑いてる。
千寿魁人 恐ろしく荒れていた過去を持つ、透太のガチファン。
で、お送りします。拝み屋さん、今回外出してます。
――あれ、あるだろ?何だっけ。こう、人呼ぶ時にチーンて鳴らす……そうそれ!チンベル!え?卓上ベル?どっち??
まぁいいや。それがさ、コンビニにあったんだよ。
何でって、レジに居ない時に鳴らすんじゃないの?……いや、暇じゃねーよ。俺バイトしてたけどさ、やる事結構あんだぞ。募集しても入ってきてくんないし。万年人不足だったよ。
レジで突っ立ってるだけのイメージ、消してやれよ。あれ多分、仕事やり切って燃え尽きかけてる瞬間だって。眠いしさ、そら愛想も消えるわ。省エネモードにしなきゃ立ってもいられないんだって。
話逸れたな。どこまで話したっけ?あ、チンベル。ごめん全然進んでなかったな。
そう、レジんトコにチンベルがあってさ、それをね?鳴らすじゃん。一回で充分、音届くじゃん。
なのにさ、ずーっとさ、鳴らしてんだよ。おっさんが。
チチチチチチチチチチチ――ンチーンチーンチ―――――……ン
って。来るまで。無言でずっと。
店に居た客、俺含めて全員見てたよね。何事?って。クレームかなって思ってたんだけど、ただの買い物なのね?店員さんの様子から察するに、あのおっさん、いつもああなんだと思う。
いつも自分の正面に立つまで鳴らしてんだと思う。……嫌だろ?うん、俺もそう思った。あれは連続で鳴らすもんじゃない。全員、顔顰めてたもん。
二度と会いたくねーなぁって思ってたら、俺何回か会っちゃったんだよ。うん、毎回鳴らしてた。
でな?一回だけ、どんなに鳴らしても店員さん出て来なかった時があったんだよ。
おっさん、やっぱ無言で鳴らし続けてんの。異常だったよ、あの時の空気。
俺、その後ろに居たのね?いや、近所のコンビニそこしかなかったから。仕方なく。
店員さん全然出て来ない。おっさんその内、ダンダンダンってベルごと台殴るようになって。後ろの俺には気付いてないみたいで。で、おっさんついにベル引っ掴んで叩きつけちゃったんだよね。
店員さん、それでも出て来ないのよ。俺もお会計したいのに。アイス溶けちゃうじゃん。知ってる?アイスって、手に取ったその瞬間から崩壊が始まるんだよ。早く食べたいじゃん。美味しく食べたいじゃん。
カップにしたら良かったわ、マジで。
その時だ、俺は気付いたんだよ。セルフレジあるじゃんって……!!
おっさん?俺がお会計終わっても、踏み付けて鳴らしてたよ。
店員さん?居たよ。うん、ずっと台の向こうに居た。
おっさん見えてなかったみたいだけど、店員さんしゃがんで仕事してたんか、ず――っと居たんだよね。
ず――っと、おっさんの事見てたよ。すんげぇ睨みつけてた。血走った目で。
おっさんもアレだけど、店員さんも恐ぇなって。だから俺、なんも言えなかったんだよね。
んでね?アイス溶けちゃってたから、食べてから帰ろうって店の前で食べてた。おっさんがチンベル踏み続けてるの見ながら。
しばらくしてやっと諦めたみたいでさ、おっさん出てきたのよ。店員さんの粘り勝ちだなーって、手ぇ拭きながら見送ってたんだけどさ。店員さんがさ、おっさんの背後にぴったりくっついてんの。壊れたチンベル持って。
うん、ビビった。おっさん気付いてないし、店員さん粘り過ぎだぜ。
……って、思ってたんだけど俺はすぐ分かったよ。分かっちゃったんだよ。あの二人は、
ストーカーをストーカーしてるストーカー同士なんだってな!!
「違うねぇ」
「ですよねー」
「その貴重な体験をした友達は?」
「全然元気です。アホなんで」
一色透太は、奇妙な話を持ってきた千寿魁人の呆れ顔を見、正面にある元コンビニに視線を向けた。
何はともあれ、実物を視てみない事には、拝み屋とて判断できかねるのだ。けれど、住所には聞き覚えがあった。祖母が残した記録にあった筈だと、透太は記憶を掘り起こす。
コンビニはとうに閉店しており、店舗の中もすっかり撤去され空だ。立ち入り禁止の看板は、ぶつけられたか蹴られたかで傾いている。
「あー……」
「どうしました?」
思い出した。まだ自身の力が安定していない時、祖母にきつく言われていたのだ。此処にだけは、近付くなと。
『今のお前は、目を付けられやすい』
下手すれば連れていかれてしまうからね。
口調はきつかったが、孫心配の余りだったのだろうと、今なら分かる。
「千寿君はナワスジって知ってる?」
この土地は長い間、何も建てられず雑草が広がっているばかりであった。拝み屋であった祖母が、何も建てるな、何もするなと持ち主に忠告していたからだ。さもありなん、こんな所に家や店など建てれば、より大きな災難が起こる。何もしないのが、一番平穏だ。
「恥ずかしながら、知識不足で……霊道の類ですか?」
だがどうした事か、知らぬ内にコンビニができていたらしい。そして、数ヶ月前に突然閉店。
近所に店が少ない事もあり、利用する者も多く便利になったと喜ばれていたらしい。どうしたんだろうね?と首を傾げる者、ああやっぱりと納得する者、半々居たそうだ。
透太は、すっかり忘れていた自分に苦笑い。祖母が生きていたら、大目玉を食らっていただろう。
「ナワスジはちょっと違う。いわゆる、妖怪とか悪魔だとか呼ばれる、バケモノの通り道なんだよ。そこに家なんか建てると、不幸が起こる」
千寿は勘がいい。力の差はあれど、彼は透太側の人間である。此処がどういう土地か、すぐに分かったようだ。
「放っておかなくてはならなかった土地」
「そういう事。通り道を変えるなんて芸当、人間にはできないからね。俺も忠告しかできないよ」
触れてはいけないと、祖母は理由も説明した筈。土地の持ち主も納得したからこそ、整備だけに留めていた。
「持ち主変わったな。……多分、俺が忠告しても聞かない類の」
「私がお供しましょうか。説得は得意です」
にこ…と笑う千寿を眺める。説得と書いて、脅迫と読むやつだろうか。
まぁ、頼もしい事には変わりない。相手がどう出るか分からない以上、妹を連れて行く訳にもいかないのだ。……妹も簡単に伸してしまいそうだが。
「原因も分かった事だし、一旦帰ろう。ばあ様の記録読み返さないと…」
「はい。絶対お供しますんで、日取り教えてくださいね?」
「頼りにしてるよ、千寿君」
素直に言えば、千寿は嬉しそうに笑った。恐らく、一人で訪ねれば追い返される。人手は多い方がいいのだ。時間は余り掛けられないので、それなりの圧も必要。
神さんと千寿が居ればなんとかなるかな。透太はうん、と一人頷いた。
二人が空の店舗に背を向けると、歪んだ音が辺りに響く。
顔を見合わせ振り返ると、ボコボコにへこみ、傷だらけになったチンベルが入口にあった。確認した時には無かったものだ。
「…止めなきゃこうなるぞって、警告ですかね」
「さぁ、どうかな。……でも、ちょっと急がないとなぁ。また行方不明者が出るかも」
「また?」
「話に出てきた、おっさん。連れていかれた」
千寿の怪訝な顔に、透太は彼が勘違いしていると気付いた。歪になったチンベルを目の前に掲げる。
「普通の人間だよ、おっさんは。この音、相当気に入らなかったみたいだな。しつこく鳴らすから、他より怒りを買ったんだよ」
店員が出て来なかった日。千寿の友人が、異常な空気だと感じていた日。
その日、その時だけ、店は異界になっていた。
その音が気に入らない。バケモノは排除したくて、干渉してきた。
「……っ何っっで普通に買い物してんだよあのドアホ!!!」
本当に危険だったと分かり、千寿は呆れを通り越して激怒した。
「友達は大丈夫なんだよ。いい意味で鈍感で、守護霊さんも強いのがついてるから。でもまぁ今回の件で守護霊さんも疲れただろうから、片付いたら連れてきてくれる?」
友人が千寿に話したから、透太にも届いたのだ。被害が広がってからでは、遅い。
「千寿君、時間が無いから明日朝一で行こう。もー相手がアレだったら、神さんの御力も借りてゴリ押しで行くから」
「うっす!透太さんのその思い切りのいいトコ、マジ尊敬します!!」
……数日後。
空店舗もなくなり、更地に戻ったその土地は、またゆっくりと雑草に埋もれていった。
千寿の友人の、守護霊→ アホの子程かわいい、と守っていたご先祖さん。今回の一件で一番驚愕、一番苦労した方。一色家で癒してもらい、無事復活。




