表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ その魔術師と事件について

 マイルス・オーウェン・リードは女である。

 という事実は王宮内で広く知られているが、正体は秘匿されているようだ。


 貴族社会では、秘密という言葉を辞書で調べたくなるような"秘密"が多く存在する。しかしリードの正体に関しては、正真正銘3人しか知らないらしい。

 誰に聞いてもどこを調べてもわからない。


 でなければ、俺の上司が金を取られるわけがない。



「ああああぁぁーーッ!!!また駄目だった!!」


 夜、宿屋の食堂。そこに俺の上司であり騎士団長、ロルフ・ジーグフリート・ガスコインの絶叫が響き渡った。

 夕飯時で騒がしかった食堂は一瞬しんとした。そして再びざわめきはじめる。

 テーブルの上に積まれた金貨に、男の白い手が伸びる。


「あはっ!いいね、その調子で僕に研究費を貢いでくれよ!」


 金貨をかき集めたのは魔術師団長、シオン・マクシミリアン・テオドール・フォン・アステール。長めの黒髪に縁取られた笑顔。目が合った。微笑まれた。胡散臭いことこの上ない。

 そして魔術師団長の隣で静かにシチューを食べている男、いや女。

 例の新人、マイルス・オーウェン・リード。

 格上の人間に囲まれて、居心地が悪そうだ。だが、盛大に負けたガスコイン団長を面白そうに見ている。


 体は魔術師らしく細い。身長は男の平均程度で、容姿も十人並。

 銀髪を緩くまとめており、規定通りの制服を着ている。魔術師がよくやるように、アクセサリーに似せた魔道具をいくつか。


 普通だ。


 とても普通に見える。


「……」


 身を乗り出してアステール殿が、俺ことオスカー・マルス・ヴィンセントに話しかけてくる。


「ねえねえ、オスカーくんもやるかい、"エム"の正体当て」


「M?」


「あぁ、ごめん。マイルスのことだよ……ね、やらないかい?」


 隣の上司を見る。アステール殿を見る。きっぱり言う。


「やりません」


 そう言うと、魔術師団長は美貌に残念そうな色を浮かべた。


「そっか、賢明だねぇ……」


 いくら立場が違うと言えど、カモになるつもりはない。

 テーブルに突っ伏していたガスコイン団長が、のっそり起き上がった。

 かん、と。皿にスプーンを軽くぶつける。

 食堂のざわめきが遠くなった気がした。


「聞いてるか、報告」


 アステール殿が目を細める。


「魔術師消失の件かな?」


 一瞬、リードが眉間に皺を寄せる。

 俺も報告を受けていた。最近、魔術師の失踪が相次いでいると。


「どうも、物騒だね。共同任務になりそうかい?」


 魔術師団長は軽く問う。


「近いうちにそうなるだろうな。だが今回は別だ」


 次に口を開いたのはリードだった。


「……あの、公爵家直属の魔術師が消えたと聞きましたが」


 なんだと?

 そんな報告は聞いていない。

 ガスコイン団長がリードを軽くにらんで、言う。


「ああ、その件だ。っとにおめえ情報早いな……シオン、お前の団員も気をつけとけよ」


 アステール殿にも驚いた様子はなく、軽く頷く。


「ロルフに言われなくても、今日から防衛レベルを上げているよ」


「ムカつくなおめえ表出ろ」


 魔術師団長は立ち上がり、先ほどの金貨を手のひらにだす。


「ではそろそろ解散にするかい?僕が払うよ」


「俺の金だろうが!!」


 騒動を横目にリードが席を立つ。

 そして、あまりにも普通に微笑んだ。

 少し肌寒くなる笑みだった。

初投稿です。お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ