表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/26

第9話:見えない敵

 帝国側の諜報員は、王都を見下ろす丘の上にいた。


 城壁の配置。

 巡回兵の動線。

 夜間に灯る魔導灯の数と間隔。


 すべて、すでに記録済みだ。


「……静かすぎるな」


 男は小さく呟いた。


 王都は平和だった。

 人々は眠り、酒場は笑い声を残し、城は変わらぬ姿で佇んでいる。


 だが、それが異常だ。


「警戒が、浅い」


 隣に控える部下が頷く。


「こちらの斥候も、同じ判断です」

「当然だ」


 男は地図を広げ、指で一点を叩いた。


「この国は、情報を集める力はある」

「だが——」


 男は、わずかに口角を上げた。


「扱う者が少なすぎる」


 地図の中心。

 王城。


 そこから、一本の線が引かれる。

 宰相府。


「ここだ」

「一点突破が可能だな」


 部下の言葉に、男は否定しなかった。


「優秀な国ほど、脆い」

「仕組みが綺麗すぎる」


 それは、賞賛であり、同時に死刑宣告だった。


 場面は、王都の内側に戻る。


 俺は、自室の簡素な机に地図を広げていた。

 貴族の屋敷。

 裏通り。

 商会。

 そして、城。


 点と線が、少しずつ繋がっていく。


 ——動いている。


 はっきりとは掴めない。

 だが、空気が変わっている。


 情報屋ミラからの報告は、いつもより短かった。


「帝国の動きが、妙よ」

「具体的には」

「人が減った」


 それだけで、十分だった。


「派手に動く準備だな」

「戦争?」

「いや」


 俺は首を振る。


「戦争の前だ」

「……何をする気?」


「勝敗を、始まる前に決める」


 ミラは、少しだけ黙った。


「怖いこと言うわね」

「現実だ」


 通信を終え、俺は立ち上がる。


 城内でも、同じ違和感があった。

 報告が遅い。

 対応が緩い。

 危機感が共有されていない。


 ——情報は、確実に“上”で止まっている。


 宰相に報告を上げる。

 いつも通り、簡潔に。


「帝国側が動いています」

「根拠は?」

「数が減った」


 宰相は一瞬だけ考え、微笑んだ。


「些細なことだな」

「そうでしょうか」

「王都は平穏だ」


 それ以上、話は進まなかった。


 執務室を出た後、俺は立ち止まる。


 ここまでだ。


 これ以上、警鐘を鳴らしても、

 “騒ぎすぎる男”になるだけだ。


 ——なら、別のやり方を取る。


 俺は、その日の夜、

 一つの情報を“意図的に伏せた”。


 帝国側が、

 「宰相府を基点に動いている」

 という推測。


 証拠は弱い。

 だが、勘としては強い。


 それを、あえて報告しない。


 代わりに、別の経路に流す。

 断片だけを。

 誰にも気づかれない形で。


 これは賭けだ。


 宰相が気づくか。

 それとも、気づかないか。


 ——どちらに転んでも、情報は動く。


 夜。

 王都の外れ。


 帝国側の男は、部下から報告を受けていた。


「……王国内部から、情報が漏れています」

「ほう」


 男は、楽しそうに笑った。


「思ったより早いな」

「内部に、協力者が?」

「違う」


 男は首を振る。


「これは、試されている」

「誰に」

「まだ、分からない相手にだ」


 男は王都を見下ろす。


「だが、いい」

「試される価値がある」


 その視線の先にあるのは、

 城でも、宰相府でもない。


 ——王都そのものだ。


 俺は自室で、静かに息を吐いた。


 敵は見えない。

 だが、確実にいる。


 そして今、

 こちらも“見られている”。


 それでいい。


 見えない戦争は、

 もう始まっている。


(つづく)


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ