第34話:均衡の再定義
俺の死は、あっけなかった。
公式発表では、そうなっている。
帝国との接触の最中、
暴走した衝突に巻き込まれ、
遺体は確認できず。
王国は、関与を否定。
帝国は、詳細不明と発表。
灰の都市は、沈黙。
物語は、完成した。
黒幕は消えた。
均衡を壊した存在は、責任を負った。
人は、納得する。
王都。
ヴァルター・グレイヴは、報告を閉じた。
「……終わったな」
感情は、見せない。
だが理解している。
これは——
あの男の選択だ。
帝国。
ユリア=フェルドは、静かに言った。
「排除は完了」
だが、その声に満足はない。
「均衡は?」
「一時的に安定しています」
彼女は、窓の外を見る。
均衡は、守られた。
だが。
灰の都市。
セレイン・ヴァル=ノクスは、独り言のように呟いた。
「契約外の装置が、消えました」
都市は、再び自分たちの計算だけで動く。
世界は、静かになった。
その夜。
国境から遠く離れた、名もない街。
俺は、安宿の部屋で地図を広げていた。
生きている。
だが、存在しない。
リュシアはいない。
マルクスもいない。
俺は、完全に一人だ。
それでいい。
均衡は、守るものではない。
守れば、依存が生まれる。
依存は、腐る。
均衡は——
「作り続けるものだ」
俺が消えたことで、
三勢力は互いを直接見るしかなくなった。
責任を押しつける先が、なくなった。
均衡は、装置ではなくなった。
構造になった。
それが、再定義だ。
翌朝。
王国と帝国の小競り合いは、
双方の直接交渉で収束した。
灰の都市は、仲介に入った。
俺はいない。
それでも、世界は動く。
それでいい。
机の上には、新しい地図。
より広い世界。
より複雑な利害。
均衡は、また崩れる。
その時まで。
信用されない男は、
存在しないまま、観測する。
影ですらない。
ただの、調整だ。
俺は、名を持たない。
だが、戦争も持たない。
それで——
十分だ。
(つづく)
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