第32話:切られる選択肢
均衡が壊れ始めた時、
最初に疑われるのは——
均衡そのものだ。
王都。
ヴァルター・グレイヴは、静かに結論を出した。
「彼を、止めろ」
「拘束ですか」
「違う」
目は冷えている。
「排除はしない」
「だが、自由に動かせるな」
それは、実質的な封鎖だ。
「影を、表に引きずり出す」
「観測不能な存在は、危険だ」
王国は、決断した。
帝国。
ユリア=フェルドも、同じ結論に達していた。
「均衡は壊れた」
「だが、彼はまだ動いている」
副官が問う。
「暗殺を?」
「短絡的だ」
彼女は首を振る。
「彼を消せば、王国は混乱する」
「都市も揺れる」
だが。
「孤立させることはできる」
彼女の指示は明確だった。
「帝国領内での接触を禁止」
「取引窓口を閉鎖」
「彼を“不要な存在”にする」
殺さずに、消す。
灰の都市。
評議会は、静かだった。
「彼がいる限り、都市は標的になる」
「価値は高い」
「だが、リスクも高い」
セレインは、短く言った。
「都市は、彼を守らない」
「公式に、関与を否定する」
通告は、即日送られた。
三通。
ほぼ同時に。
王国から。
帝国から。
灰の都市から。
内容は、違う。
だが、本質は同じ。
——距離を置く。
俺は、三通を並べた。
「……揃ったな」
リュシアの顔は、蒼白だった。
「王国も……?」
「ああ」
「あなたを守らない、と」
「最初からだ」
だが、今回は違う。
守らない、ではない。
切る、だ。
「帝国は接触禁止」
「都市は関与否定」
「王国は監視強化」
包囲網が、完成している。
マルクスが、荒い息で駆け込んできた。
「国境で、お前の名が出た」
「何の?」
「衝突の黒幕としてだ」
静かな沈黙。
ユリアの手だ。
俺を“原因”にする。
「均衡が壊れたのは、影の暴走」
「そういう物語にする気だ」
リュシアが、震える声で言った。
「否定しないと——」
「否定できない」
俺は、首を振る。
証拠はない。
だが、状況は揃っている。
疑わしい敵は、
都合のいい犯人になる。
マルクスが、怒鳴った。
「逃げろ」
「王国も、庇えない」
正しい。
今、俺は——
三勢力すべての外にいる。
完全無所属。
そして、完全孤立。
リュシアが、俺を見た。
「どうしますか」
「簡単だ」
俺は、外套を羽織る。
「均衡を守る役目は終わった」
「次は——」
一拍。
「物語を壊す」
俺が黒幕だという物語。
均衡が原因だという論理。
それを、壊す。
「方法は?」
「世界に、選ばせる」
マルクスが、歯を食いしばる。
「お前は……」
「消されるぞ」
俺は、少しだけ笑った。
「もう、消されかけている」
なら。
「先に、消える」
リュシアが、息を呑んだ。
「まさか……」
「そうだ」
俺は、静かに言う。
「俺が、盤面からいなくなれば」
「均衡は、誰の責任にもならない」
外は、嵐の前の空気だ。
三勢力が、同時に俺を切った。
それが、選択だ。
だが——
切られる側にも、選択肢はある。
(つづく)
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