表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/15

第3話:魔法より信用できないもの

 魔法の検査だと聞かされた時、俺は内心で少しだけ安心した。


 未知の世界で未知の力を使われるのは厄介だが、逆に言えば「彼らは魔法に頼る」ということでもある。道具に頼る者は、道具の限界を超えた思考を持たない。


 通されたのは、王都の奥にある白い石造りの建物だった。

 外見は神殿に近いが、内部は無機質だ。装飾が少なく、床には幾何学的な紋様が刻まれている。儀式というより、作業場に近い。


「ここで検査を行います」


 リュシアがそう告げる。

 彼女は今日も淡々としているが、視線はいつも以上に鋭かった。


 室内には三人の魔法士がいた。

 全員、年配。白髪混じり。若い者はいない。

 つまり、この国で「信頼されている層」だ。


「座ってください」


 指示に従い、中央の椅子に腰掛ける。

 逃げようと思えば逃げられる配置だが、彼らはそれを想定していない。

 魔法があるからだ。


 一人の魔法士が、俺の前に小さな水晶を置いた。

 透明で、わずかに青みがかっている。


「これは真偽判定用の媒介です」

「嘘をつくと?」

「色が変わります」


 実に分かりやすい。


 俺は水晶に視線を落としながら、呼吸を整えた。

 嘘をつくな、ではない。

 嘘を“整える”。


「名前は」

「コウ」


 水晶は変化しない。

 本当だからだ。


「この国の者ではないな」

「違う」


 変化なし。


「敵国の間者か」

「いいや」


 ここで一瞬だけ、意識的に“曖昧”を混ぜる。

 否定は本心だが、理由は伏せる。


 水晶が、かすかに揺れた。

 色は変わらない。


 魔法士の一人が小さく頷く。


「嘘ではない」

「……便利だな」


 思わず本音が漏れた。


「だが万能ではありません」

 別の魔法士が淡々と補足する。

「意図的に意味をずらした言葉、認識の違いまでは判定できない」


 なるほど。

 想像通りだ。


 彼らは“言葉”を測っている。

 “思考”までは測れない。


 質問は続く。

 出身。

 目的。

 経緯。


 俺は一貫して、七割の真実と三割の欠落で答えた。

 水晶は終始、沈黙を守る。


「……問題ありません」


 魔法士の一人がそう結論づけた。


 だが、安心したのは彼らだけだ。


 俺は気づいていた。

 この検査の本質が、嘘の発見ではないことに。


 ——結果の行き先だ。


「検査結果は?」

 リュシアが尋ねる。


「宰相殿に報告します」

「王ではなく?」


 わずかな間。

 魔法士は当然のように答えた。


「はい。まずは宰相殿へ」


 来た。


 情報が、必ず一箇所に集約される。

 そして、加工される。


 俺は椅子から立ち上がりながら、何気ない口調で言った。


「直接王に伝えることは?」

「必要ありません」

「なぜ」


 魔法士は少しだけ困ったように眉を寄せた。


「……それが決まりですから」


 決まり。

 つまり、思考停止。


 部屋を出る廊下で、俺は小さく息を吐いた。


「どうでした?」

 リュシアが尋ねる。


「安心材料は揃ったな」

「それは良かったです」


 彼女はそう言いながらも、俺の顔を見ていた。

 満足していない目だ。


「ただし」

「ただし?」


「この国は、魔法を信用しすぎている」


 リュシアの足が、ほんの一瞬だけ止まった。


「どういう意味ですか」

「嘘を見抜けても、嘘を使う人間は見抜けない」


 彼女は返事をしなかった。

 だが、否定もしない。


 建物を出ると、王都の喧騒が戻ってきた。

 人の声、馬のいななき、商人の呼び声。


 平和だ。

 だが、平和の裏に流れる情報は、あまりにも一本化されている。


 俺は心の中で整理する。


 この国は、

 ・情報を集める力はある

 ・だが、情報を扱う人間が少ない

 ・そして、その頂点は一人だ


 一点突破が可能な構造。


 ——敵から見れば、これほど分かりやすい国はない。


 リュシアが歩きながら言った。


「あなたは、不安そうですね」

「仕事柄だ」

「何の仕事ですか」

「まだ言えない」


 嘘だ。

 だが、今は色を変えない。


 彼女は小さく微笑んだ。

 だがその笑みは、安心ではない。


「あなた、魔法よりも、人を見ていますね」

「人が一番嘘をつくからな」


 その言葉に、彼女は少しだけ考え込んだ。


 俺は確信していた。


 この国は、外からではなく、

 内側の“処理の仕方”で滅びる。


 そして、その処理を任されている人物は——

 まだ、一度も姿を見せていない。


 だが、もう分かっている。


 次に会うべき相手は、

 この国で一番、情報を信じている男だ。


(つづく)


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ