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異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


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第29話:誰の味方でもない

 均衡は、静かに崩れる。


 音もなく、

 宣戦布告もなく、

 ただ——計算が合わなくなる。


 発端は、小さな違和感だった。


 帝国側の輸送が、予定より遅れた。

 王国側の哨戒が、予定より早まった。

 灰の都市の商会が、同時に動きを止めた。


 どれも、偶然に見える。

 だが、同時すぎた。


 アシュレイ・ノックスは、報告を聞き終え、短く息を吐いた。


「……噛み合わないな」

「彼の動きです」

「だろうな」


 帝国の作戦は、精密だ。

 だが、精密すぎる。


「彼は、どこかでズラしている」

「帝国に?」

「違う」


 アシュレイは、指を止めた。


「全員に、だ」


 一方、王都。


 ヴァルター・グレイヴも、同じ結論に達していた。


「彼は、帝国に情報を渡していない」

「しかし、帝国に有利な動きが——」

「それは、帝国自身の判断だ」


 ヴァルターは、机を指で叩く。


「彼は、選ばせている」

「我々に、だ」


 選択肢を用意し、

 だが、正解を用意しない。


 最も、厄介な手法。


 灰の都市。


 評議会では、声が荒れていた。


「このままでは、都市が巻き込まれる」

「だが、排除すれば均衡が崩れる」

「囲い込めば、価値が落ちる」


 セレイン・ヴァル=ノクスは、黙って聞いていた。


「結論は?」

「彼は、誰の味方でもない」


 それは、確認だった。


「だが——」

「敵でもない」


 それが、問題だった。


 その夜、三通の連絡が、ほぼ同時に届いた。


 一通目。

 王国からの、非公式招集。


 二通目。

 帝国からの、直接会談要請。


 三通目。

 灰の都市からの、評議会招待。


 どれも、期限付き。

 どれも、断れば意味が変わる。


 俺は、三通を机に並べた。


「……揃ったな」


 リュシアが、横に立つ。


「どれに応じますか」

「どれにも」


 即答だった。


「全て、同時に断る」

「それは——」


 彼女は、言葉を探す。


「敵を三つ作ります」

「違う」


 俺は、首を振る。


「敵を作らない」

「味方も作らない」


 机の上の三通を、重ねる。


「代わりに、場所を指定する」

「場所?」


「境界だ」

「王国でも、帝国でも、都市でもない」

「——ただの、何もない場所」


 彼女は、息を呑んだ。


「三者に、同じ条件を送れ」

「同時刻」

「同内容」


 それは、無謀に見える。

 だが——


「来なければ、均衡は崩れる」

「来れば——」


 俺は、静かに言った。


「全員が、同じ盤面に立つ」


 翌日、境界の荒野。


 何もない場所に、三つの隊列が現れた。


 王国。

 帝国。

 灰の都市。


 どれも、最小限。

 だが、代表は揃っている。


 俺は、一人で立っていた。


 武器はない。

 護衛もいない。


 だが、誰も動かない。


「……誰の側につくつもりだ」


 誰かが、言った。


 俺は、答える。


「どこにも」


 短く、はっきりと。


「俺は、均衡の側だ」

「それは、逃げだ」


 別の声。


「いいや」


 俺は、続ける。


「逃げは、選ばない」

「選ばせないだけだ」


 沈黙。


「誰かが動けば、全員が損をする」

「だから、動けない」


 それが、現実だった。


「俺は、誰も守らない」

「だが——」


 一拍、置く。


「誰も、死なせない」


 それだけで、十分だった。


 王国は、引いた。

 帝国も、引いた。

 灰の都市も、引いた。


 勝者はいない。

 だが、敗者もいない。


 均衡は、かろうじて保たれた。


 夜、荒野に風が吹く。


 リュシアが、隣に立つ。


「あなたは……」

「誰の味方でもない」


 彼女は、ゆっくり頷いた。


「そして、それを選び続ける」

「そうだ」


 だが、代償はある。


 三勢力は、同時に理解した。


 ——この男は、危険だ。


 敵としても、

 味方としても。


 だからこそ、

 次は——


 もっと大きな盤面で、

 決着をつけに来る。


(つづく)

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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