表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/35

第24話:嘘の取引

 取引とは、信頼の上に成り立つ。


 ——それは、平時の話だ。


 灰の都市《リーヴァ=ノクス》では、

 信頼よりも“予測可能性”が価値を持つ。


 俺は、わざと目立つ場所を選んだ。

 交易区の中央。

 昼間。

 人通りの多い時間帯。


 監視が、確実につく。


 それでいい。


 声をかけてきたのは、帝国系の仲介人だった。

 名前は知らない。

 知る必要もない。


「噂は本当らしいな」

「どの噂だ」

「王国の影が、都市にいる」


 俺は否定しなかった。


「話が早い」

「帝国は、君に興味がある」

「知っている」


 仲介人は、少しだけ眉を上げた。


「隠さないのか」

「隠す理由がない」


 周囲の視線が、増える。

 商人。

 情報屋。

 評議会の末端。


 全員が、聞いている。


「帝国は、情報を欲しがっている」

「宰相府の内部」

「意思決定の癖」

「遅延の理由」


 昨日聞いた話だ。


「全部は渡せない」

「だが、渡す気はある」

「……どこまでだ」


 俺は、わざと曖昧に答えた。


「使える範囲まで」

「信用できるか?」

「できないだろうな」


 それでいい。


「帝国に、俺が“協力している”と伝えろ」

「条件は?」

「内容は、君に任せる」


 仲介人は、息を呑んだ。


「それは……」

「嘘ではない」


 半分は、真実だ。


「ただし、誤解される余地は残す」


 仲介人は、短く笑った。


「随分、危険な遊びだ」

「いつも通りだ」


 その場で、簡易契約が交わされる。

 紙は薄い。

 効力も弱い。


 だが、噂には十分だ。


 ——王国の影は、帝国と取引した。


 それだけでいい。


 数時間後、都市はざわついていた。


 商会の裏。

 情報屋の巣。

 評議会の控え室。


 同じ言葉が、違う形で流れる。


「帝国側についたらしい」

「いや、情報を売っただけだ」

「どちらにせよ、危険だ」


 完璧だ。


 誤解は、最大の煙幕になる。


 その夜、セレイン・ヴァル=ノクスが呼び出した。


「随分、派手に動きましたね」

「計画通りだ」


 彼女は、視線を細める。


「都市内部の火種に、油を注いだ」

「煙が上がれば、火は見える」


 俺は、淡々と言う。


「誰が、俺を売ろうとしているか」

「誰が、止めようとしているか」

「どちらも、今なら分かる」


 セレインは、短く息を吐いた。


「都市は、混乱します」

「短期的にな」


 長期的には、透明になる。


「帝国は、どう出る」

「様子を見る」

「王国は?」

「疑う」


 それでいい。


「どこにも属していない、という前提が」

「より、信じられなくなる」


 彼女は、静かに言った。


「あなたは、自分の価値を下げています」

「違う」


 俺は、首を振る。


「“信用できる存在”としての価値を捨てている」

「代わりに——」


 少しだけ、間を置く。


「“触ると危ない存在”になる」


 セレインは、理解した。


「誰も、安易に扱えなくなる」

「そうだ」


 その夜、別の報告も届いた。


 アシュレイ・ノックスが、

 この取引に興味を示した。


 だが、動かない。


 それも、想定通りだ。


 疑念は、即断を鈍らせる。


 俺は、都市の夜を歩く。


 噂が、背中を追いかけてくる。


 帝国の犬。

 裏切り者。

 危険人物。


 どれも、悪くない。


 信用されない男は、

 今日また一つ、

 居場所を失った。


 そして同時に——


 誰にも、簡単には切れない存在になった。


 嘘の取引は、

 真実よりも、世界を動かす。


(つづく)


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ