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異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


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第21話:影の役割

 呼び出しは、非公式だった。


 書面はない。

 記録も残らない。

 だが、断れば確実に何かが変わる。


 ——そういう類の呼び出しだ。


 宰相府の裏口。

 警備は最小限。

 だが、無意味ではない。


 ここに立っている時点で、

 俺はすでに「見られている」。


 通された部屋は、執務室ではなかった。

 地図と書類だけが並ぶ、小さな会議室。


 ヴァルター・グレイヴは、

 すでに席に着いていた。


「座れ」


 簡潔な指示。


 俺は従う。

 忠誠ではなく、合理性で。


「君に、新しい役割を与える」

「命令ですか」

「提案だ」


 宰相は、即座に訂正した。


「断れる」

「断った場合は?」

「私は、別の手を探す」


 探せばいい。

 だが——


 俺の代わりは、簡単には見つからない。


「帝国の動きが、活発化している」

「把握しています」

「把握しているだろうな」


 彼は、地図を指で叩いた。


 国境沿い。

 中立都市群。

 交易路。


「帝国は、戦争を避けつつ、

 影響力を広げようとしている」

「いつも通りです」

「問題は、そこに“君”がいることだ」


 視線が、こちらに向く。


「帝国は、君を認識した」

「排除対象ではない」

「交渉対象だ」


 それは、厄介な評価だった。


「君が動けば、帝国は様子を見る」

「君が止まれば、帝国も止まる」


 宰相は、淡々と言う。


「つまり——」

「抑止力ですか」

「そうだ」


 兵ではない。

 外交官でもない。


 存在そのものが、圧力になる。


「正式な肩書きは与えない」

「命令も、支援も最低限だ」

「失敗しても、国家は関与しない」


 条件は、最悪に近い。


「成功した場合は?」

「何も残らない」

「評価も?」

「ない」


 俺は、少しだけ笑った。


「都合がいい」

「国家にとってはな」

「俺にとってもです」


 宰相の眉が、わずかに動く。


「理由は?」

「縛られない」


 それが、最大の報酬だ。


「君は、影として動け」

「表に出るな」

「だが、確実に影響を与えろ」


 矛盾した命令。

 だが、理解できる。


「……一つ、確認があります」

「何だ」


「これは、俺を使う話ですか」

「監視する話ですか」

「両方だ」


 即答だった。


「君は危険だ」

「だが、使わない方が危険でもある」


 評価としては、十分だ。


「受けます」

「即答か」

「考える必要がない」


 俺は、椅子から立ち上がる。


「だが、一つ条件がある」

「言ってみろ」


「俺の行動に、

 事前承認は求めるな」

「結果だけを見ろ」


 宰相は、数秒沈黙した。


 そして、頷く。


「……いいだろう」

「その代わり——」


 視線が、鋭くなる。


「越えてはならない線は、分かっているな」

「ええ」


 それは、国家の崩壊線だ。


 壊す気はない。

 だが、守るとも限らない。


 部屋を出る時、

 宰相は背中越しに言った。


「君は、信用されていない」

「知っています」

「それでも使われる」


 俺は、足を止めずに答えた。


「それが、影の役割です」


 廊下を抜ける。

 外の空気は、少し冷たい。


 リュシアが、柱の影に立っていた。


「聞いていましたね」

「ええ」


 否定もしない。


「あなたは、抑止力になるそうです」

「不名誉だな」

「危険です」


 彼女は、はっきり言った。


「影は、いずれ切られます」

「だから、影なんだ」


 俺は、外へ出る。


 王都は、今日も平和だ。

 その平和の裏で、

 誰も知らない役割が、また一つ増えた。


 帝国も、

 宰相も、

 第三勢力も。


 俺を、同時に見ている。


 信用されない男は、

 今日から——


 国家の“装置”として動き始めた。


(つづく)


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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