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異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


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20/35

第20話:最初の裏切り

 翌朝、王都は完全に日常へ戻っていた。


 市場は動き、

 兵は巡回し、

 ロウウェル市の名は、もう話題に上らない。


 それが、国家の回復力だ。


 俺は、宰相府へ呼ばれていた。

 非公式の呼び出し。

 記録には残らない。


 ヴァルター・グレイヴは、窓際に立っていた。

 街を見下ろし、何も言わない。


「結果は、把握しているな」


 振り向かずに言う。


「はい」

「帝国は退いた」

「人的被害は、想定より少ない」

「戦争も、起きなかった」


 どれも事実だ。


「君の行動は、規定違反だ」

「承知しています」


 俺は、言い訳をしない。


「だが、処罰はしない」

「……理由は」


 ヴァルターは、ゆっくりと振り返った。


「結果を出したからだ」

「それ以上でも、それ以下でもない」


 合理的な答えだった。


「君がいなければ、被害は増えていた」

「同時に、君は危険だ」


 その二つを、彼は同列に置いている。


「排除すべきでは?」

「今は、な」


 今は。


「君は、線を越えかけている」

「だが、まだ越えてはいない」


 俺は、黙って聞いていた。


「君は、私を告発しない」

「……なぜ、そう思うんですか」


 初めて、問いを返す。


 ヴァルターは、微笑んだ。


「告発すれば、国が割れる」

「王は迷い、貴族は騒ぎ、帝国が笑う」


 正しい。


「君は、それを望まない」

「なぜなら——」


 視線が、鋭くなる。


「君は、国家を壊したいわけではない」

「守りたいわけでもない」


 核心だった。


「均衡を保ちたいだけだ」


 俺は、否定しなかった。


「……分かっているなら」

「利用する」


 即答だった。


「君も、私もな」


 その瞬間、

 はっきり理解した。


 この男は、

 俺を敵だとは思っていない。

 だが、味方とも思っていない。


 ——使える危険物。


 それが、俺の位置だ。


「告発はしません」

「だろうな」


 ヴァルターは、満足そうだった。


「それが、最初の裏切りだ」


 その言葉に、少しだけ間があった。


「……誰への」

「理念への、だ」


 国家は正しい。

 国家は守るものだ。


 その前提を、

 俺は、今ここで裏切った。


 だが——


「裏切らなければ、守れないものもある」


 それだけ、言った。


 ヴァルターは、否定しなかった。


「これからも、君は記録に残らない」

「命令も、勲章もない」

「だが、自由はある」


 それは、報酬としては破格だった。


「帝国も、君を認識している」

「宰相府としては、把握していないことになっている」


 便利な曖昧さだ。


「君は、国家の中にいる」

「だが、国家は君を管理しない」


 それはつまり——


「影にいろ、ということですか」

「得意だろう」


 俺は、少しだけ笑った。


「はい」


 執務室を出ると、リュシアが待っていた。

 表情は、固い。


「……どうなりましたか」

「何も」


 それが、全てだった。


「告発は?」

「しない」


 彼女は、目を閉じた。


「それが、あなたの選択ですね」

「ああ」


「正しいとは思いません」

「それでいい」


 俺は、歩き出す。


「正しさは、時々、邪魔になる」


 廊下の先で、彼女が言った。


「それでも、私はあなたを見ます」

「好きにしろ」


 振り返らずに答えた。


 王都の外れ。

 風が強い。


 同じ頃、帝国のどこかで、

 アシュレイ・ノックスは報告を受けていた。


「王国に、不安定要素あり」

「名は?」

「不明」

「だが——」


 彼は、静かに笑った。


「面白い」


 敵でも、味方でもない。

 国家にも、理念にも属さない存在。


「次は、直接触れる必要があるな」


 王都の空を、俺は見上げる。


 国家は、嘘をついた。

 俺は、告発しなかった。


 それが、

 俺の最初の裏切りだ。


 だが同時に——


 この世界で、

 本当に自由になった瞬間でもあった。


(第2章・了)


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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