第19話:信用は、奪われるものではない
夜の王都は、静かだった。
勝利の余韻は、もう薄れている。
人々は安心し、日常に戻りつつあった。
それが、正しい姿だ。
俺は城の外れにある、小さな庭にいた。
灯りは少ない。
だが、人の気配もない。
ここなら、誰にも聞かれない。
リュシアが、少し遅れて現れた。
昼間の硬さはなく、疲れが顔に出ている。
「……終わりましたね」
「ああ」
短い返事だった。
「ロウウェル市の件」
「公式には、な」
彼女は、しばらく黙ってから言った。
「納得できません」
「当然だ」
俺は、否定しなかった。
「あなたの判断がなければ、もっと死んでいた」
「それでも、あなたは評価されない」
「それが、国家だ」
彼女は、俺を見た。
「それでも、あなたは怒らない」
「怒っても、何も変わらない」
感情は、道具にならない。
「……では、悲しいですか」
「少しは」
正直に答えた。
「だが、それも想定内だ」
彼女は、唇を噛みしめた。
「あなたは、何のためにここにいるんですか」
「仕事だ」
「今でも?」
問いは、鋭い。
俺は、夜空を見上げた。
星は、いつも通りそこにある。
「信用するためじゃない」
「守るためだ」
彼女の目が、揺れた。
「国家を?」
「違う」
俺は、はっきり言う。
「選ばれなかったものを」
沈黙。
やがて、彼女は言った。
「あなたは、国家を信じていない」
「ああ」
「それでも、国家の中にいる」
「まだ、使えるからな」
その言葉は、冷たく聞こえるかもしれない。
だが、事実だ。
「信用は、奪われるものではない」
俺は、ゆっくりと言葉を続ける。
「渡すものだ」
「そして、一度も渡していない」
彼女は、息を呑んだ。
「……最初から?」
「最初からだ」
第1章の、最初の夜を思い出す。
誰も信じないと決めた瞬間を。
「だから、裏切られても傷つかない」
「期待していないから」
「そうだ」
それが、俺の生き方だ。
「あなたは、孤独です」
「孤独と自由は、似ている」
俺は、少しだけ笑った。
「だが、独りではない」
「どういう意味ですか」
「見ている者がいる」
「敵も、味方も、俺を観測している」
アシュレイ。
宰相。
情報屋。
そして——
「君もだ」
リュシアは、驚いたように目を見開いた。
「私は……」
「疑っている」
それでいい。
「疑う者がいなければ、俺は止まらない」
「それは、危険です」
「だから、必要だ」
しばらくして、彼女は頷いた。
「分かりました」
「何が」
「私は、あなたを信用しません」
それは、最高の答えだった。
「代わりに、監視します」
「助かる」
本心だった。
夜風が、庭を撫でる。
遠くで、城の鐘が鳴った。
新しい一日が、始まる。
国家は、嘘をついた。
だが、世界はまだ壊れていない。
なら、俺の役目は終わっていない。
信用されないまま、
疑われ続けたまま、
それでも守る。
それが、
俺の選んだ場所だ。
(つづく)
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