第18話:勝利の発表
王都に、勝利が告げられた。
鐘が鳴り、
使者が走り、
広場に人が集まる。
帝国の先遣は退いた。
被害は軽微。
王国は守られた。
——それが、公式の発表だった。
宰相府の執務室。
ヴァルター・グレイヴは、書類に目を通していた。
「ロウウェル市に関する最終報告か」
「はい」
部下が差し出した文書には、
整った文字が並んでいる。
『帝国による小規模な攪乱行為は、
宰相閣下の迅速な判断により封じられた。
現地の混乱は軽微であり、
人的被害は最小限に抑えられた』
ヴァルターは、静かに頷いた。
「よろしい」
「この内容で、王にも報告を」
「はい」
事実と違う部分は、ない。
だが、真実も書かれていない。
避難が“誰の判断”だったか。
中央が“何をしなかったか”。
それらは、すべて省かれている。
——意図的に。
同じ頃、王都の広場。
「宰相閣下のご英断により——」
演説は、滑らかだった。
人々は拍手し、安堵の息を吐く。
「帝国の脅威は退けられました!」
歓声が上がる。
人々は、知る必要がない。
それが、国家の判断だ。
俺は、人混みの外に立っていた。
正規の位置ではない。
招かれてもいない。
リュシアが、隣にいる。
「……名前が、出ませんね」
「出るはずがない」
俺は、淡々と言った。
「公式には、何もしていない」
「でも、現場は——」
「記録に残らない」
それで終わりだ。
ロウウェル市は、
「一時的な混乱があった地方都市」として処理された。
家を失った者。
財を失った者。
恐怖を抱えた者。
彼らは、統計の外に置かれる。
勝利とは、
そういうものだ。
宰相府に、非公式の報告が届く。
避難民の数。
帝国側の動き。
想定外だった点。
ヴァルターは、目を通し、
一枚だけを別にした。
俺の行動記録だ。
「……余計なことをする」
だが、破棄はしない。
ここが重要だった。
「結果は、悪くない」
彼は、そう判断した。
使える。
危険だが、使える。
だからこそ、
表に出さない。
それが、彼の結論だ。
夜。
俺は、簡素な部屋に戻った。
机の上には、何もない。
戦果報告も、
感謝状も、
昇進もない。
ただ、静けさだけがある。
ミラから、短い報告が届いた。
「帝国は、あなたを“想定外”に分類した」
「そうか」
「消されるか、探られるか」
「どっちだと思う?」
「両方」
俺は、通信を切った。
リュシアが、部屋に入ってくる。
「納得できますか」
「する必要はない」
椅子に腰掛け、息を吐く。
「国家は、勝利を必要とした」
「だから、物語を作った」
彼女は、拳を握った。
「それは、嘘です」
「そうだ」
俺は、はっきり言った。
「国家は、嘘をついた」
否定はしない。
もう、理解している。
「でも、嘘をついたからこそ」
「戦争は、避けられた」
それもまた、事実だ。
「……あなたは、どうするんですか」
リュシアの問いは、重い。
俺は、少しだけ考え、答えた。
「まだ、ここにいる」
「なぜ」
「見ておく必要がある」
「何を」
「次に、どんな嘘をつくかを」
彼女は、言葉を失った。
窓の外では、祝いの灯りが揺れている。
人々は、安心して眠るだろう。
ロウウェルの空は、暗いままだ。
だが、
人は生きている。
その事実だけが、
今の俺の勝利だった。
(つづく)
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