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異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


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第14話:現場からの声

 ロウウェル市に着いたのは、夜明け前だった。


 街の外れ。

 簡易な検問。

 疲れ切った兵士たちの顔。


 ——もう、始まっている。


 俺は身分を明かさず、通された。

 名を出せば騒ぎになる。

 今は、それが一番まずい。


 市庁舎は、灯りが落ちていなかった。

 中では、人が走り回っている。


 廊下で、男と鉢合わせた。


「……あなたは」


 統治官エドガー・ロウウェル。

 噂どおりの、疲れた顔だ。

 だが、目はまだ死んでいない。


「中央から?」

「違う」


 即答する。


「なら、誰だ」

「名は要らない」

「要ります」


 彼は、譲らなかった。


「ここは、あなたの机上の盤面じゃない」

「人が生きている街だ」


 正しい。

 だから、答える。


「警告を出したのは、俺だ」


 一瞬の沈黙。


 エドガーは、俺を見つめたまま言った。


「……やはり、あなただったか」

「信じたのか」

「信じた」


 即答だった。


「理由は?」

「迷いがなかった」


 それだけで、十分だ。


「中央は、動かない」

「分かっている」


 彼は、苦く笑った。


「だから、動いた」

「命令違反だ」

「生きていれば、罰は受けられる」


 俺は、短く息を吐いた。


 この男は、逃げない。


「帝国の侵入点は三つある」

「すでに二つは把握している」

「三つ目は?」

「ここだ」


 俺は地図を広げ、指を置いた。

 川沿いの旧道。

 使われていないが、通れる。


 エドガーの表情が変わる。


「……そこは、避難路と重なる」

「だから、急げ」


 迷っている時間はない。


「兵力は?」

「足りない」

「分かっている」


 俺は続ける。


「だが、帝国の先遣は少数だ」

「目的は制圧じゃない」

「混乱の演出だ」


 エドガーは、静かに頷いた。


「囮、か」

「そうだ」


 彼は拳を握った。


「……中央は、これを知っているのか」

「知っている」

「それでも?」

「それでもだ」


 言葉は、それ以上いらなかった。


「選択肢は三つある」


 俺は指を立てる。


「一つ。何もせず、中央の判断を待つ」

「二つ。街を守るため、正面から戦う」

「三つ」


 一拍置く。


「街を捨てる」

「……何?」


「街を捨てて、人を守る」

「帝国に“価値のない街”だと思わせる」


 エドガーは、目を閉じた。


「それは……」

「苦しい選択だ」

「だが、死者は減る」


 彼は、長く息を吐いた。


「私は、街を守るためにここにいる」

「街とは、建物ですか」

「……人だ」


 答えは、すぐに出た。


「なら、三つ目だ」

「責任は、私が取る」


 俺は首を振る。


「責任は、取らせない」

「え?」


「これは、国家の命令じゃない」

「だから、国家は処罰できない」


 エドガーは、俺を見た。


「あなたは……」

「ただの通りすがりだ」


 彼は、苦笑した。


「随分、危険な通りすがりだ」


 夜明け。


 避難は始まった。

 混乱はある。

 だが、統治官が前に立っている。


 それだけで、人は動く。


 城壁の外で、小さな爆発音がした。

 帝国の先遣が、姿を見せた。


「……来ました」

「予定通りだ」


 俺は、街を見渡す。


 人が動いている。

 泣いている。

 だが、逃げている。


 ——まだ、間に合う。


 エドガーが、低い声で言った。


「中央は、これをどう報告する」

「“現場の混乱”だ」

「あなたは?」

「記録に残らない」


 彼は、しばらく黙ってから言った。


「……ありがとう」

「礼は、いらない」


 俺は、街から離れる。


 ここにいれば、指揮を執ってしまう。

 それは、越えてはいけない線だ。


 背後で、街が動く音がする。


 ——守れ。


 祈りではない。

 命令でもない。


 ただの、願いだ。


 そしてその瞬間、

 俺は理解していた。


 もう、元の場所には戻れない。


 国家の内側で、

 国家の論理だけを信じることは——

 できなくなった。


(つづく)


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