表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスパイになった俺、どの国にも味方せず暗躍していたら戦争の引き金を全部握っていた  作者: 桜庭ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/16

第13話:国家の論理

 宰相府の執務室は、いつも通り静かだった。


 外では街が動き、人が生きている。

 だが、この部屋には音がない。

 あるのは、紙と判断と、沈黙だけだ。


 ヴァルター・グレイヴは、地図を眺めていた。

 地方都市ロウウェル。

 赤い印は、すでに意味を失っている。


 そこへ、俺は通された。


「状況は把握しているか」


 前置きはない。

 確認から入る。


「帝国の先遣が動きました」

「そうか」


 宰相は、驚きもしなかった。


「現地からの報告では、避難が始まっている」

「……中央の指示ではありません」


 俺は、あえて強調した。


 ヴァルターは、ゆっくりと椅子に座り直す。


「現場が、勝手に動いたか」

「そうなります」

「秩序を乱す行為だな」


 声は冷静だった。

 だが、怒りはない。


 それが、何よりも重い。


「彼らには、時間がありません」

「時間は、与えられている」

「それは、切り捨てるまでの猶予ですか」


 沈黙。


 ヴァルターは、否定しなかった。


「戦争を防ぐためには、犠牲が必要だ」

「誰の犠牲ですか」

「数字で見れば、少数だ」


 俺は、一歩前に出た。


「そこには、人がいます」

「分かっている」


 即答だった。


「家族も、子供も」

「承知している」


 迷いはない。

 覚悟が、言葉の裏にある。


「それでも、国家は守られる」

「国家とは、何ですか」


 初めて、宰相の視線が俺を射抜いた。


「……君は、そこからか」


 小さく息を吐く。


「国家とは、枠組みだ」

「人ではない」

「人は、その中で生きる」


 彼は立ち上がり、地図を指差した。


「この街を囮にすれば、帝国は動きを見せる」

「その瞬間を叩けば、全面戦争は避けられる」


 理屈としては、完璧だった。


「結果として、守られる命は多い」

「見捨てられる命も、確実にある」


 宰相は、初めて目を伏せた。


 だが、それは躊躇ではない。

 確認だ。


「私は、全てを救うと約束した覚えはない」

「……」


「国家を預かるとは、そういうことだ」


 その言葉に、嘘はなかった。


 だからこそ、否定が難しい。


「君は、感情で動く」

「私は、結果で動く」


 宰相は、そう言って俺を見た。


「どちらが正しいかは、歴史が決める」

「歴史は、死者の声を残しません」

「残す必要がないからだ」


 その一言で、全てが繋がった。


 ——この人は、最初から切り捨てる側に立っている。


「君は、有能だ」

「だからこそ、線を越えるな」


 警告だった。

 そして、期待でもある。


「君は、私の側にいればいい」

「国家のために働けばいい」


 俺は、しばらく黙っていた。


 ここで反論すれば、排除される。

 黙れば、共犯になる。


 選択肢は、二つだけだ。


 俺は、頭を下げた。


「……理解しました」


 その言葉を、

 宰相は“理解”として受け取った。


「よろしい」


 それで、会話は終わった。


 執務室を出た後、廊下は長く感じた。

 一歩ごとに、何かが削られていく気がする。


 リュシアが、待っていた。


「……聞こえていました」

「どこまで」

「十分です」


 彼女の顔は、青ざめている。


「あなたは、どうするんですか」

「まだ、国家は嘘をついていない」


 俺は、静かに言った。


「選択をしただけだ」

「それでも——」


「だからこそ、選択肢を増やす」


 彼女は、唇を噛みしめた。


「それは、反逆です」

「違う」


 俺は首を振る。


「反逆は、壊すことだ」

「俺がやるのは、修正だ」


 夜。


 俺は再び、非公式の伝令を出した。

 今度は、より具体的に。


 避難路。

 時間。

 帝国の想定侵入点。


 これはもう、命令違反では済まない。


 だが、まだ——


 まだ、国家を裏切ったとは言えない。


 なぜなら、

 国家は“公式には”何もしていないからだ。


 ——嘘をつくのは、これからだ。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ